第33話 歯車を回す者たち ②
ダーマッサーは、喋るためにスプーンやフォークを一旦テーブルに置く。
マリアンヌとの出会い…そう考えた時、一瞬、ダーマッサーの頭の中に血の惨劇がよぎる。
皆が自分のことを注目していることに気づくと、ハッとしてマリアンヌの方を向いて落ち着く。
「…少し、みなさんを驚かせてしまったかな。確かに私もこうしてプライベートで一般の方と出かけるという機会も少ないのでね。いや、一般というのは、差別的なつもりで言ったわけではないよ。私はこういう機会を心底楽しみにしているのだが、立場的になかなかこういうことができなくてね。」
ダーマッサーは、ウェイターが注ぐワイングラスの底を三本指で押さえつけながら喋る。
「それで、お付き合いをさせていただいている彼女に一緒に行きたい、と私からお願いしたんだ。彼女に友達ができたというのでね。会ってみたいと思ったんだ。」
みんなが興味深々で聞き入っている。
「ああ、でも、質問されたのは、彼女とどうやって知り合ったか、だったね。ええ〜と、彼女は第7区では幅広く福祉活動に参加していて、コミュニティリーダーをやっていることが多くてね。僕もコミュニティと政治のつながりを大事にしているから、自ずと話す機会もたくさんあってね。」
「ま、マリアンヌが、こみゅにてぃリーダー!?意外!?」
そういうフーコの袖をティアナが引っ張る。フーコはしまった、という感じでチョロっとベロを出す。
「あ、ま、マリアンヌ、意外っていうのは、そういう意味じゃないからね!格闘技でもカオスファイターパイロットとしても超一流で、それにコミュニティ活動でリーダーなんて、凄すぎてビックリしましたってことなのよ!」
それを聞いて、マリアンヌがゆっくりとフーコの方へ向き直る。
「でも私、フーコさんには格闘技でも、ゲーム大会でも負けマシタ。」
「あ、あれ、でもね。格闘技で勝ったのはギリギリだし、ライフ回収の時も個人ではあなたがMVPだったし、あなたに勝ってるなんて、思ってもいないわ。」
それを聞くと、マリアンヌはニッコリと笑った。
「デモ、負けたというのは事実デス。」
「う、うん、でも寝技の上達も早いし、このまま行くとヤバいかもって、あ、いやいや、そんな弱気じゃいけません。」
フーコは、とにかくマリアンヌは凄いんだよ、と言おうとしてたら訳の分からない感じで終わってしまった。
「次は負けまセン。」
おっとりとした口調でマリアンヌが言う。
それを聞いたフーコは片目を吊り上げてニカっと白い歯を見せる。
「ええ、こっちも負けないわよ。」
その様子を見ていたダーマッサーがまた話を切り出した。
「それにしても、私もすごい場に居合わせてしまっているようだね。世界トップクラスの格闘家の3人と、カオスファイターのトップパイロットの2人が同じ場にいるのだからね。」
ダーマッサーがそう言うのを聞くと、マリーは正面に座っているティアナと目を合わせる。
「私たちは凡人組ってわけね、イェイ!」
と言い放ち、マリーは苦笑いしているティアナにハイタッチを求め、ティアナも弱々しくそれに応じた。
「ご謙遜を!」
ダーマッサーが慌てて否定する。
「ティアナ・フォンティーヌさんは、オムニ・ジェネシス随一のソナー技師。凡人なんて恐れ多いことですよ。」
ティアナは褒められて顔を真っ赤にして照れた。
フーコは面白そうに眺めている。
「そしてマリー・ウシャックさん。ゲーム・オブ・ライフに第一回大会でチーム・マルクスを準優勝、前回大会では3位に導いたリーダーであり、デビンジャの統括する人道的活動を目的とした非営利組織「Human is All ONE」幹部。そして、最近ではファッションリーダーとして・・・」
「わーー!!」
マリーは突然ダーマッサーの言葉を遮った。
マリーは、「ケルベロスの主」という名前で、旧時代のゴスロリファッションを紹介するソーシャルメディアの配信者であった。そして、事もあろうか、この系統ではトップの人気者となってしまっていたのだ。
しかし、当の本人は完全に自分のアイデンティティを隠していた___つもりだった。
(濃い化粧にウィグをつけて誰にも分からないようにしていたのに〜。なんで〜〜?)
「え、なになに!?どういうこと。」
スキャンダルの匂いを鍵つけたマルクスが顔をパッと明るくさせて尋ねる。
「あんたには関係ないわよ。」
マリーがムスッとして誤魔化そうとする。
耳は真っ赤であった。
「それよりも、ダーマッサーレターさんは、なんでそんなことに詳しいのよ。私たちのことストーカーでもしてたわけ?」
マリーはダーマッサー相手でもいつもの口調を変えない。
「お、おい、マリー。」
マグワイアが流石に失礼だろうと思いマリーを嗜めようとする。
「あ、いやいや、気にしないで欲しい。むしろ、自然に接して欲しいんだ。そして、当然のことだ。人のプライベートなんざ勝手に調べていいものじゃない。部下が勝手に私のプライベートで付き合う人間を調べようとするんだ。これからは気をつける。本当に申し訳ない。」
マリーは、うんうんと言いながら首を縦に振って納得したようだった。
「むしろ、凡人は僕のほうさ。無法地帯で政治をやろうなんて人がいなかったから、たまたま僕がリーダーに選ばれただけさ。本当は、なんの取り柄もない男で…だから、取り返しのつかない失敗を…」
ダーマッサーが押し黙ってしまう。
(失敗とは、あのことだろうな…)
皆の心に、同じ考えが飛来した。
すると、マリアンヌはテーブルの上にあるダーマッサーの手にそっと自分の手を添えた。
「なんの取り柄もないなんて、そんなことはアリません。」
マリアンヌは優しく微笑む。
「ダーマッサーさんは、誰もやりたがらなかった無法地帯の管理を進んでやろうとした凄い人デス。それは…誰にでも出来ることじゃありまセン。」
マリアンヌはじっとダーマッサーを見つめていた。
ダーマッサーが少し情けないような顔をあげて、マリアンヌの目を見つめる。
_________「ティアナ、顔が赤い!」
突然フーコがワッという感じで目を丸くしながら叫ぶ。
ここで、一同の緊張が一気に解ける。
「えっ、えっ、ええっと。なんか、私までドキドキしちゃって、いや、いや、そんな、もう素敵すぎて!」
ティアナは挙動不審が激しくなり、スープをズルズルと音を立てながら食べ始める。
「あはは、ティアナさん面白い!」
マルクスが突っ込む。
「いや〜〜、お熱いわね〜〜。見ていてこっちが恥ずかしくなるわ〜。」
マリーが服を掴んで胸元をヒラヒラさせてからかう。
「こら、マリー!」
マグワイアが苦笑いしながらマリーに突っ込みを入れる。
この後、終始笑い絶えなく、7人は楽しい時間を過ごした。
それぞれの立場は違えど、友になることに障壁はなかった。
そして日が周り、カオスファイター十万万機を導入した新たな『ライフ』回収作戦が始動する。
第34話『ブラックワーム殲滅大戦 ①』へと続く
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