第31話 抗いがたい招待状 ②
______脳__改造?
なんの悪い冗談だ、と信じたかったが、心の底で引っかかるものがあった。
「あなた自身も気づいておられるのでは?そもそも自分が普通ではないということを。18歳で伝統あるオムニ大学の首席、19歳で検察官、そして20歳でもう大きな裁判で活躍できる。あなたは紛れもなく天才だ。名家のお嬢様という立場があり、むしろ世間の偏見を招きこの名家の立場が足枷にさえなっている。」
グレースは不安になってくる。ドッキリ…じゃないのか?
言っていることがイチイチ的を得ているようで、ドキッとさせられる。
AIの台頭で怠慢な検察官ばかりになったとはいえ、普通に考えれば自分なんぞ何百年という歴史を持つ今の法曹界では赤ん坊のようなものだ。
子どもなんて年間で数百人単位でしか生まれないのに、自分のような人間が生まれる確率は極めて少ない。
「元来、天才というものは、周りとソリが合わなくて精神的に不安定になる場合も多い。過剰な期待と孤独に打ちのめされる天才も多い中で、あなたほど健全な精神を保ちスムースに社会を謳歌できている天才は珍しい。」
自分は記憶力がずば抜けて良い。そして、なんとなくだが人が何を考えているのかわかる。だからこそ、法を学びこの能力を活かそうと思った。
だが、一つだけ、言い返してやりたかった。
まるで努力もせずにここまで来た、という風な言いように腹が立った。
哲学なんかだって、決して得意分野ではなかった。
人のためにと頑張り、様々な理不尽に耐えてきたからこそ今があるのだ。
(この人、見つけたら一言いってやるんだから!)
グレースは頬をぷくっとさせる。
しかし、一方通行の通信のため、個人の感情は置いておいて、続けて聞き耳を立てる。
「しかし、私はわざわざこんなことを言うために、このような周りくどいことをしているのではありません。私が追っているのは、あなたの出生時に買われた『人口枠』を作り出すために殺された人間を殺した人間たちです。」
「!?!?」
グレースの顔が硬まる。
「恐ろしい犯罪組織です。自殺、事故に見せかけて人を殺すのが実に上手い。近年までその存在がほぼほぼ知られていなかった組織であります。名前は
グレースの顔には緊張が走る。ドッキリなのでは、という気持ちも捨て切れなかったが、この声の主の迫力には真に迫る何かがあった。
(だから、このレトロなサウンドプレーヤーなのか。随分と用心深い…)
「…すみません、話を戻しましょう。あなたの出生の秘密の話。端的に言うと、あなたは本来はすでに死んでいるはずだった。」
「え!?それってどういう…?」
グレースは誰もいない防音ブースで思わず口が出てしまう。。
「胎児ポッド内で成長していくあなた姿を見るのを、ご両親はさぞ楽しみにしていたそうな。しかしあなたは、先天的な脳の病気に罹っていた。しかし、それをあなたのご両親は知らなかった。先に知ったのはブローカーでした。」
人口受精と胎児ポッドは当たっている。そうやって赤ん坊になるまで成長したことを両親からは聞いている。
「このブローカーは民間のブローカーですが、裏組織との繋がりが深く、いわゆる闇ブローカーの側面も持ち合わせていました。彼は、あなたのご両親から大金を受け取る条件として、人口枠から出産、赤ちゃんになるまでの面倒を一切引き受けていました。しかし、脳に疾患を持っているとなったら、もしかしたら全額支払いどころか、前金まで返せと言われかねません。すでに、多額のお金を支払い『人口枠』まで確保していたのに、です。そしてこのブローカーはある決断をします。」
グレースは恐怖する。
「もうお分かりですね。そうです、当時、成功率が極めて低いと言われた脳改造手術を秘密裏に受けるのです。皮肉なことに、脳に疾患を持っていたあなたは、この手術ととても相性が良かった。活性ナノセルとナノエンザイムを注入、前頭葉と下垂体の神経細胞の繋がりを強化。放っておいても死ぬのなら、と脳の成長にかなり介入した施術を続けたようです。結果的に、疾患は消えました。そして副産物として、脳内化学物質の分泌とあなたのイメージの力が直結し、限定的ではありますが、脳の潜在能力を常人以上に発揮できるようになったのです。」
にわか信じがたい話ではある。いまだに悪戯の一種ではないのかと疑ってはいるが、思い当たる節が沢山あって恐ろしくなってきた。
それだけではない。このことが事実であるならば、グレースの知らない巨悪が存在することになる。放っておくことはできないタチだ。
「・・・この情報を手に入れるために私は協力者を失いました。優秀なハッカーでしたが、逆探知されて殺されました。どこで情報が漏れるかわかりません。くれぐれも、私の知らないところで
グレースは黙って聞いている。
「私のお話はここまでです。私はこの組織を追い詰めるために貴方の協力が欲しい。」
グレースは視線を落とす。
「このような危険が伴ったとしても、私に協力願えるのであれば、私が指定する病院へ向かって、ある人物に会ってください。そこで貴方の脳の状況を調べてもらうのもいいでしょう。むろん、ここから先は危険を伴います。強制ではありませんし、関わり合うのが嫌ならば、このことは一切忘れてこれから言うことは無視して出ていってください。病院へいかない限り、二度とこちらからコンタクトはとりません。」
混乱、疑心暗鬼、恐怖…それなりにある。
だが、運命を感じた……ならば!
グレースは防音ブースから出ると、資料を片付け、図書館を後にした。
ヴァレリーは駐車場近くのカフェで新聞を読んでいたが、グレースが出てきたことに気づくと、すぐに車に乗り込み、グレースを向かい入れるために自動ドアを開ける。
(いつもよりも大分早く出てきたな。)
ヴァレリーは不思議がった。
「ヴァレリー、私、とっても頭が痛いわ。知り合いの医師に診てもらいたいから、オムニ第8病院まで行ってくれないかしら。」そう言うとグレースは車に乗り込んだ。
ヴァレリーは「それは大変です。」と言い、車を加速させた。
第32話 『歯車を回す者たち ①』へと続く
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