第28話 CFA密会 ②

 ダテは紙で書かれた資料、一枚一枚に目を通す。鋭い眼光は相変わらずであった。


「___よく一人で、これだけの情報を集めたものだ。」


「一人じゃあないよ。これらの情報は、ある人物に手渡されてね。」


「ほう、それは誰なんだ。」


「…それは言えないわ。そういう条件で、あなたへ情報を開示することになっているのだから。調査にご協力願えるかしら。それと、注意しておくけど、このアカデミーには未だに黒血ブラックブラッドのメンバーが潜入している可能性がある。だから…」


「他の誰にもこのことは言うな、だろ?」


「本当、話が早くて助かるわ。」


「壁に耳あり障子に目あり、ということだな。だからこの部屋に入ってから、執拗に盗聴器の類を見つけようとしていたのか。」


「直接来たのもそういうわけ。私への協力者、いえ、むしろ私が協力者、という感じかしら。名前も本名も分からないけど、呼び名は『ゴースト』よ。これ以上の詮索はしないでちょうだいね。」


「ゴースト、か。不気味な名前だな。」


 ダテのコメントを無視してグラシリアが続ける。


「彼曰く、通信系は全て危険とのことよ。街中で黒血ブラックブラッドという言葉を発してもハックされるということがあるらしいわ。」


「…本当か?都市伝説にもなっているぐらいだから、興味本位で調べるやつだって山ほどいるだろうに。」


「そうね、でも、その内容がAIで選別されて、黒血ブラックブラッドの追求を始めている人間はブラックリストに載るらしいわ。あの組織のリストに載った人間は先ずは監視されるそうよ。まあ、追求が過ぎた場合は…分かるわよね。」


 ダテが頷く。グラシリアは一息ついてから話を続ける。


「さらに、彼らの犠牲者たちの名前を出しても通信がハックされるらしいわ。今やチャーン・スグルは有名人なわけだけど、事件性を疑うような人がいれば、まずは監視対象になるわね。あなたも監視対象だったんじゃないかって思うわ。だから、しつこく盗聴器やその他のボディチェックもさせて頂いたってわけね。」


「あまり、聞きたかったような話ではないな。」


 ダテは少しあたりをキョロキョロ見回す。


「…話はわかった。ところで、だとしたら、俺がその組織の一員かもしれない、とは考えなかったのか。」


「はは、もう十分、カマかけさせてもらっていたわよ。」


「え、そうなのか!?全然気づかんかったぞ。」


「そこの資料、半分はデタラメよ。」


「えっ!?」


「組織の人間ならけっこう焦るような情報が入っていたけど、反応なかったわね。あんたが組織の人間なら、そのブレスレットはどこだ、とか、そのDNA鑑定はどこに依頼した、とか、自然に振る舞うふりをして聞くんじゃない?それに…」


 グラシリアはネックレスを手で持って、その手にはブレスレットが付いている。


「私、被害者チャーンが身につけていたもののイミテーション身体中つけて入ってきたわ。黒血ブラックブラッドのトレードマークだったロゴもこの腕輪に入ってるし。一瞬でも反応するかなと様子を伺っていましたが…」


 そういうとグラシリアはニヤリとする。


「で、ちょこちょこ怪しい感じで背後に回ってたのに、まるで警戒心なし!サムライとかって血統だとか、いつも自慢しているくせに、警戒心ゼロなんだもん。キャハハハハ!」


 ダテはむすっとした。お前を警戒する理由はない、とでも言いたかったが、やめておいた。


 ダテは資料を見直す。


「確かに、信じられんようなことも書いてあるな。『脳周波砲による洗脳効果は、スコポラミン系ドラッグ【悪魔の吐息】を吸引された状態と類似する。』脳周波砲なんて、聞いたこともないぞ。たいした想像力だな、ははははは。」


「いや、それは本当のことらしいわよ。近距離で一定時間この脳周波砲の攻撃を知らずに喰らっていると、段々と脳がトランス状態になるらしいわ。そうなると手遅れ、言われたことが何でも楽しく感じてしまい、その通りのことをやってしまうらしいわ。これがチャーンの事故の原因というわけね。」


 マジで…?ダテは度肝を抜かれた。


「…そんなファンタジーみたいな話が本当のことだと言うのか!?」


「禁じられた科学だよ。闇の世界ではその存在は表に出ないように完全に隠蔽されているようだけどね。」


「隠蔽されているなら、なんでそのことが分かるんだ。」


「ゴーストがどうやって知っているのかは知らない。そりゃ、私も半信半疑だったわ。ゴーストは裏の世界にかなり通じているらしいのだけど…」


 グラシリアは顎に手をおいて、人差し指を鼻の下につける。


「だから、正式な検死とは別に、死亡したチャーンの脳を調べたわ。すると、視床下部と前頭葉に通常の検死スキャンでは出ないような異常の跡がみられたの。薬の類なら必ず分かるのに、催眠術の類は普通の検死では何もわからないということね。まあ、信用に値する話だと踏んだわ。」


「そんなことをしていたとは聞いてないぞ。」


「検死捜査官は第一区出身よ。まあ、私の長い友人だわ。あなたには、内緒でやらせてもらったわよ。」


「そ、そうか…それで、このことは警察には言ったのか。」


「脚がつくことを恐れて口止めされているわ。警察のセキュリティなんて、当てにならないと。あなたに言うってことも、大分念を押されての後だからね。だから、死にたくなかったら、とりあえずこの話はこの密室以外はしないでちょうだい。」


「…それは分かった。そこまで分かっているなら、俺にどうしてほしいというんだ。」


「本当は、ちょっとドジなあなたに頼むのも心配なのだけど…」


 おい!とダテは突っ込みたくなったが、我慢して額に青筋をたてながら大人しく続きを聞くことにした。


「ここからは、危険な領域になるわ。すべての行動を秘密裏のまま、このことに関するコミュニケーションは直接でないといけない。ゴーストは、ある人物と黒血ブラックブラッドの関係が怪しいと睨んでいるわ。」


 ダテの眼光に鋭い光が増してくる。


「20年前、組織のメンバーの裏切りにより、黒血ブラックブラッドの名は世間が知るところとなった。これはその時の情報。公式には伏せられているけど、このさらに15年前、ギャング掃討作戦作戦があったわよね。」


「あの第7区の…」


「そう。」


 そういうと、グラシリアは、一枚の写真を取り出す。


「彼女、あなたのアカデミーの教官やってるわよね。」


 ダテの目が大きく開く。


 マリアンヌ・ワインクラ―ジョの笑顔がダテの目に映る。


「本当に怪しいのはこの子の恋人なんだけどね。」


「第7区代表ダーマッサー・グリヤードか。」


「あの作戦時、公式な記録には残っていない傭兵が雇われていたらしいわ。もう、言わなくても、わかるわよね。」


 グラシリアとダテはお互いに一切目をそらさない。


 二人の瞳の奥には怪しい閃光が見え隠れした。






 第29話『ミス・ユー』へ続く

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