第24話 ライフ争奪戦 ③
いよいよ、ソナーリンクにより可視化されたブラックワームたちが見えてくる。
みるみる距離が詰まると、あっという間に交戦が始まる。
<チーム・マルクス>、<チーム・エリア40>、<チーム・アスファルトクラッシャーズ>を含む7チームほどが正面突破のごとく突っ込んでいく。
突然のカオスファイターの強襲にブラックワームたちはパニック状態になったのか、激しくざわざわと動く。密集した魚の群れが天敵の出現に一気にバラバラになる様子に似ていた。
カオスファイターからは無数の光が飛び出て、次々とブラックワームを撃破していく。
最初の接敵で100体は始末したであろう。おびただしい数のキルログが流れ、急襲は成功したと言える。ブラックワームも応戦してくるが、多くはパニックで逃げ惑うだけだった。
後続の戦闘班も追いつきこれに加わると、キルログはもはやデータ読み込みのごとく凄まじいスピードで流れる。
特にトーナメント上位チームの活躍はめざましかった。戦闘開始から5分、すでに2000匹以上は殲滅したと思われた。
カオスファイター側の犠牲は未だにゼロである。
「逃げた個体は放っておけ!向かってくる連中を処理しろ!ライフ回収班、今がチャンスだ!」
おびただしくログが流れていく中、ビリー将軍は自軍に一切の犠牲がない状況から判断し、こちら側が圧倒的な戦力であることを確信した。
(まだ戦闘開始から5分40秒、思った以上の成果だ!それに・・・)
モニター上に流れるログの中で、BrAInHackが一際目立っていた。チーム全体で彼女をサポートしているのだろうが、果たして自分が同じ立場で、同じ動きができるだろうか。ビリー将軍は戦慄した。
(この人は将校に相応しい!女性上官として招待することを考えなくてはいけないな!)
戦闘開始から10分経つころには、周囲の敵はほぼ全滅していた。そして、もう5分経つころには、周辺の敵は完全に根絶やしにしたので、勝負はあっさりとついてしまった。
路上の喧嘩は一瞬で片がつくという。不意打ちを仕掛けて優勢のまま勢いを止めることなく攻め続けると、相手が体制を整える前にやれてしまうという典型例だ。
燃料は数十時間は持つ設定で、長期戦を覚悟していたが、エリートフォースの戦闘班と援護班は事が上手く運び過ぎたために次になにをすればいいのか分からなくなってしまったほどだ。
戦局が落ち着いたことを確認したビリー将軍は、全機が総力を上げてライフを回収するように命令した。まもなく、ライフが次々と運び込まれる。
大量に運び込まれる『ライフ』は宇宙空間を移動する光の粒となり洒落たスペクタクルを生み、この光景が長く続いた。
600以上の『ライフ』が運ばれ、どれだけの年数分の燃料となるか想像にも及ばなかった。
2時間ほど経ったであろうか。ソナーを随時確認していたティアナが声を張る。
「援軍!ソナーが捉えました!その数……100万以上!」
「100万だと!!」
コズモが叫ぶ。
敵も随分と長い間こちらを放っておくものだ、と思ったが、これほどの軍勢を集めていたのか。確かに、数万単位ならば、今のスペース軍の敵ではないであろうから、多くを集めてくる必要があったことは理解した。
不意打ちとはいえ、5000匹の軍勢を一瞬で破壊し、退却させたのだ。
コズモはビリー将軍に打診し、退却するように言った。ところが、ビリー将軍はそれを拒んだ。
カオスファイターパイロット全員に待機命令を下し、敵を迎え撃つようにとの要請が入る。敵の数は100万だという。
戦闘続行の命令を聞いたスペシャル・エリート・フォースのメンバーは耳を疑った。
100万の軍勢など勝てるわけがない。しかも長時間のカオスファイターの運転でみんな疲れてしまっていた。
「マジかよ。カオスファイターは高級品だろ?わざわざ壊さなくてもいいだろう。」
もうそろそろ作業も終わる頃合いで、大成功の後にある打ち上げを楽しみにしていたマルクスは、不満たらたらに悪態をつきたい気持ちで山々だった。
そんなマルクスの気持ちを組んだかのように、コビー将軍からスペシャルエリートフォース全員に伝達が入る。
「初回の戦闘から既に2時間以上も経過し、疲労もピークに達していることでろうと察する。訓練では8時間以上連続でプレーすることもあったかもしれないが、本番では疲労度がまるで違うでことを皆が痛感したと思う。」
そういうと、少しタメを作る。
「今日の戦闘は最高の出来であった。そして、我々は今まさに考えうる最高の成果を手に入れている。さぞかし諸君らも満足し、もう帰ってベットへ入り良い夢をみながらボーナスが入るのを心待ちにして幸せな気分を味わいたいところだろう。」
(まさにその通り!)
マルクスは思わず回線で思いっきり返事しそうになったのを飲み込んで抑えた。
「しかし、その幸せを、もう少し大きなものにしようじゃないか。ここで終わってもいい。確かにそうかもしれない。しかし、軍部としては、君たちのポテンシャルをみてみたい。今後、このような大群と戦うことがないとは限らないではないか。ここで最終的な敗北を迎えることは必死、であるが、大いなる大義のための犠牲と考えてもらいたい。」
チーム・アスファルト・クラッシャーズのコビー将軍を崇拝するメンツだけが、「はい」とか「わかりました」などの返事をしたが、ほとんどのスペシャル・エリート・フォースの面々はうんざりしたような表情だった。
「なお、ただで働いてもらおうとは思わない。」
それまでうんざりした表情で肘をついて顔を抑えていたメンバーたちも一人一人顔をあげる。
「1体につき、250オムニドルだそうじゃないか。」
次の瞬間、パイロットルームで歓声が上がる。
「チームボーナスも検討中であり、コズモ船長もこれに賛同している。では、諸君らの健闘を祈る。」
コズモは、聞いてないぞという顔をしてキョロキョロとあたりを見渡す。
ビリー将軍は、「戦場」を「金取りゲーム」に変えてしまった。
パイロットルームからは、「太っ腹」「そうでなくちゃ」「マジ神」など、いろいろな言葉が聞こえてくる。
「みんな、残量エネルギーはどのぐらいなの?」マリーが確認を取る。
「82%だ。」「私は79%」「俺は80%だ」「私は84%だ。」「82%」「85%よ」「81%だな。」
「大体みんな結構残っているわね!戦闘では一気に消費すると思うけど、みんな、稼ぐわよ!」
「ラジャー!」
マリーの指示により動くことになった。マグワイアはこのチームはマリーがリーダーでいる方が強いことを悟っていた。
ノリに乗っているチームに水を差すまいと、何も言わず黙っていた。
各々に手首をストレッチしたり首を横に振ってポキポキ鳴らしながら接敵を待った。
近づいてくるブラックワームの群勢は、光を遮り黒い波となって視界を覆い尽くした。その圧倒的な迫力は、実際にはその場にいないはずのパイロットさえも進むことを躊躇わせた。
そしてそれも束の間、カオスファイターたちはすぐにその波に飲まれた。周辺は至る所にブラックワーム、そしてとてつもない数の石礫が飛んでくる。
「ぁぁぁぁぁ!!」
あちこちでパニックが起こる。
「一瞬でも止まるな、やられるぞ!」
予想を遥かに凌駕するカオスな状態に、もはや右も左もわからなかった。雨のように降ってくる石礫はAIだろうが人間だろうが関係なくその認識を超越された。
それとなく石礫が少ないそうな方へと電磁バリアを貼りながら移動を繰り返す。四方八方に敵が見えたら撃つ、という出鱈目な戦法を取らざるを得ない状況であった。
ブラックワームの戦法も出鱈目であった。同士討ちを厭わない総攻撃に、あちこちにブラックワームの残骸も見られた。
ものの1時間も経たないうちに全ての決着はついた。
オムニ・ジェネシスは現場から離れていった。
決着後、それぞれのパイロットルームから出てきたエリート・フォースたちは、互いの憔悴しきった顔をしていた。
「よ、よ〜。」
「…最後、ぜんっぜん稼げなかったわね。」
「…」
パイロットたちも、お互いにお互いの顔を見ていたら、誰からプっと吹いてしまう。
そして、それが伝播すると、皆が大笑いをしていた。
「あは、あはは、あれは無理でしょ。」、「無理ゲー、無理ゲー!」、「もう完全にイミフ!」パイロットが集まる広場は、ザワザワと賑やかになった。
あの軍勢を相手に勝てるとは思っていなかったが、まさかあそこまで数の圧倒が凄まじいとは誰も思わなかった。
その大昔、最強の名を欲しいがままにしたボクサーの言葉に『みんな勝利への方程式を持ってるさ。口元に一発ぶち込まれるまではな。』というのがあるらしいが、まさに今回の戦闘はエリートフォースたちにとっては強烈な目覚ましとなった。
笑うスペース軍をよそに、ビリー将軍は苦い顔をしていた。
(ある程度の数の差なんて簡単にひっくりかえせる、などとは甘い考えだった。これは、強化計画を急がねば!)
コズモも同じ考えであった。
今回のライフ回収は、その目的に於いては大いなる成果を残したが、大きな課題も残したものとなった。
2人はすぐに話し合い、これからの軍事強化の必要性について短く語った。
そんな将軍や船長の懸念のことなど露知らぬエリートソルジャーたちは、1日が終わり、遊び疲れた子どもたちのように帰ってぐっすり寝たのであった。
第25話『エブリワン・ハズ・ア・プラン』に続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます