第23話 ライフ争奪戦 ②

『ライフ』争奪に向けて軍はエリートフォースを7〜8人編成の70チームに分けた。


 ゲーム・オブ・ライフ大会で活躍したトップ20のチームはそのまま残され、各チームには一人の軍人がリーダーとして入る、ということになった。


 AIの判断により最も相性の良さそうな軍人とチームが組まされることとなった。


 残りの50チームは個人の能力の高さを評価された者たちが混じり合い、これまたAIによりチーム相性が判定され、その判断に沿ったチーム編成がなされた。


 編成後は、いよいよもって出撃である。ソナーの状況を聞くと、把握しているだけでも5000体ほどのブラックワームが大量の『ライフ』周辺をうろついているらしい。


「戦争は資源の多さが勝敗を左右するというが、果たして、使った資源に見合った数の『ライフ』を獲得できるのか…」


 黙々と出撃準備を進める軍勢を見てバリーがぼやいた。


 今回は50個の『ライフ』を回収するのがミッションゴールであり、これが達成されればたとえ多くのカオスファイターを失っても大きな勝利と言える数字だ。


 70チームは戦闘班、援護班、回収班の3班で編成された。


 戦闘班は敵陣へと突っ込んでいく、もっとも激しい戦闘を強いられる班である。


 <チーム・マルクス>、<チーム・エリア40>、<チーム・アスファルト・クラッシャーズ>など最も攻撃力が高く実績のあるチームが選ばれた。ここが早々にやられると、『ライフ』回収は不可能となるからだ。


 援護班は少し離れたところから戦局を見て援護射撃をするか、時には戦闘班にアドバイスを送ったりオムニ・ジェネシスに近づいてくるブラックワームを迎撃する班である。


 回収班は隙をついて特攻していき、『ライフ』を回収して戻ってくる班である。


 出撃直前、軍から錠剤が配られる。


「神経強化剤だ。脳の情報伝達物質のシナプス間の移動を加速させる!ただし、効き目が切れるとぐったりしてしまうがな。」


 ブライアンはそんなことを言いながら薬を配っていた。軍人たちはすでに試験済みだ。


 _____ピ、ピ、ピ、ピー……


 青いランプが点灯する。


 出撃の合図だ。


 最初に飛び出したのはチーム・エリア40。マリアンヌがどんどん加速していく。


「今回はこうして競争相手としてではなく、BrAInHackが仲間としているのは心強いわね。」


 マリーは勢いよく飛び出したマリアンヌに通信を送った。


「ありがとうございマス。こちらこそデス、マリーさん。」


 フーコやマルクスといった面々もお互いに通信を送り、互いの健闘を祈った。マリーに見知らぬ通信が入る。


「マグワイアだ、よろしく頼む。君がチーム・マルクスのリーダーだね。」


 マグワイアはマリーの横にぴったりとついて、同じく前方の戦士たちの後を追っている。チーム・マルクスの担当


リーダーよ。そちらの軍の方々がチームのリーダーになっちゃいましたからね。」


 マリーは自分たちが軍人に劣っているとは微塵も思っていなかったので、思い切り皮肉を込めて言った。


「気を悪くしたかい?それは申し訳なかったな。決まりなんでな。」


 マグワイアはバツが悪いのを笑って誤魔化した。


「いえいえ~、さぞ私たちのようなアマチュアでは到底敵わないような素晴らしいスキルをお持ちなのでしょうね。今日はそれを穴の開くほどご披露ください。」


「あちゃ〜、これは手痛いな。はっはっは。」


 マグワイアが頭をぽりぽり掻くと、画面に映るその様子が可愛くみえたのか、どこかマリーの表情がゆるんだ。


「あなた、あまり軍人らしくないわね。他の軍人たちは、ずいぶん偉そうだったわよ。」


 マグワイアは苦笑いをすると、さすがに仲間の悪口に便乗するわけにはいかないと考え、話題を変えようとした。


「いやな、俺は実は軍でもぺーぺーの新人で、つい最近やっとまともに他の人についていけるようになったばかりって感じなんだ。」


 マリーはへえ、という顔をした。


「素直な軍人がいたものね。そういうのって、隠すもんじゃないの。なんか、あなたのリードが心配になってきたわ。」


「はっはっは、いや、確かにそうだな。困った時は助けてくれ。」


 そこにフーコから通信が入る。


「マリー、マグワイアさんは、格闘家で、頼りになる人よ。」


「はっ?格闘??いきなりなんの話よ。訳がわからないわ。」


「フーコ、結果的に俺が勝ったかもしれないが、技術ではまだまだ劣っていたと思う。俺はあれを勝ったとは思っていないぞ。」


「ちょ、何?フーコさんに勝つ?もっと訳わからないわ。」


 マリーはフーコが男に混じって戦った経験を知らない。興味がないので、そこらの知識は皆無であった。


「あはっはっは、そりゃあ訳わからんわな!」


 マグワイアは楽しそうに笑った。


 ここで、もう一つ通信が入る。アベベである。


「あの〜、うちらの担当になった軍人の方が高圧的ではないということはわかったんで、そういう意味ではうちらも良かったとは思っているんですけど、いい加減に無駄話をしていないで、さっさと戦闘のために精神を集中させろって、みんな思っていると思うんですよね〜。ていうか、精神を集中させるのに邪魔だってみんな思ってもいますよ〜。だって、今回は実践なんですからね〜。」


 アベベの柔らかな口調は今までになく不気味な怒りを内包していた。


「ラジャー!」


 マリー、マグワイア、フーコが気持ちの良い返事をする。


(このチーム…たぶん相性いいわ。)


 フーコが苦笑いをした。





 第24話『ライフ争奪戦 ③』へ続く


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