第21話 ゲーム・オブ・ライフ ④

 オムニ・ジェネシス最後尾付近のエリアは、Eスポーツにもっとも消極的ともいえた。このあたりは、昔ながらの営みを大事にしようという人が多く、できるだけテクノロジーに関わらない生活を心がけている。


 そう言う意味では、チーム・エリア40がここまで勝ち残ったのは奇跡であった。


 チーム・マルクスにも多くのブラックワームが群がってきたが、チーム・エリア40へ注意がそれている状況の隙をついた一点突破のおかげで、『ライフ』を3つ手元に捉えることに成功した。


 それから全速力でその場から離れようとする。ベースまで運ばないと得点にはならない。


「やばい、めちゃくちゃ追ってくるぞ!」


 マルクスは叫んだ。BrAInHackのいるチーム・エリア40から離れて、大量のブラックワームがチーム・マルクスを追う。


 しかし、カオスファイターの方がブラックワームよりも速い設定だ。そのまま帰還に成功し、先ずは300ポイントをゲットした。


 そして、すぐに燃料が満タンな機体に変えて再度出撃する。


 ブラックワームがチーム・マルクスを追っていったタイミングで、どうやらチーム・エリア40もその隙をついてライフを回収したようだった。


 チーム・エリア40に200ポイント入ったというログが画面に映る。


 この時点でチーム・マルクス<331点>、チーム・エリア40<301点>。キル数でいかに差がついているかが分かる。


 残りの2チームは一つもライフを回収できていないので、100点も届いていなかった。


 時間が経てば経つほどブラックワームが援軍を呼びさらにライフまでの道のりが険しくなってくる。この2チームが決勝へ進む見込みはもはやない。トップチームでさえギリギリで回収できるかどうかという際どい戦いだ。


 軍がそうなるように設定した。これがリアルな戦闘である、とでも言わんばかりだ。


 大抵のチームならば、2回目のライフ回収は諦めてブラックワームを倒して地道に点数を稼ぐにだが、マリーはそれではチーム・エリア40には勝てないと判断した。


「チーム・エリア40の奴ら、すごいキル数よ。このまま最後まで行ったらキル数で抜かれて負ける可能性もあるわ。決勝に残るために、もう一回ライフを回収しにいくわよ!犠牲は厭わない!」


 マリーが一か八かを提案する。


「しかし、チームメンバーが減ると、終盤戦で最後までもたないぞ!?」


 ラクサの言うとおりで、それは無理だ、という雰囲気も出ていた。


「いや、正しい判断だ。」


 目を細めたアベベの眼光は鋭かった。


「幸い俺たちは早い段階でライフを回収し、中盤に差し掛かる前に新しい機体を手に入れて、エネルギーもほぼ満タンの状態だ。まだそこまでヤバイ時間帯じゃあない。そして、BrAInHackのあの攻撃力。俺たちはライフを回収しない限り、おそらく勝てないぞ。」


「私もアベベに賛成よ。」


 フーコはすでにブースターで一歩先に躍り出ていた。


「私が先陣を切って、道を開くわ。」


 3番手のフーコを特攻させて失ってしまうかもしれないのはリスクだったが、フーコはエイムよりも撹乱に長けているため、これだけうってつけの人材はいない。


 もっとも、フーコもそれを分かっているから自ら志願した。マルクスがなにやら「フーコさん、フーコさん、っと」色々と喋っていたようだが、聞くに値するようなことは喋っていなかったと判断され、フーコの耳には入っていなかった。


「みんな、フーコに続きましょう!」


 一刻を争う中、またも一点突破でライフ回収に向かった。


 チーム・マルクスが特攻をかけているころ、チーム・エリア40は、母船の中で新しい機体への乗り換えている最中だった。帰還が遅れたメンバーがいたせいで、時間的にかなりロスをしてしまっていた。


 ソナーでマルクスのチームを追って見ていたBrAInHackは、クスクスと笑い始めた。


「すごいデスね〜。もう一回取りに行くつもりデスか。」


「僕たちも出れるようになったらすぐに行こう!あいつらがブラックワームを引きつけているうちに、僕たちも彼らにやられたように、漁夫ろうじゃないか。」


 チーム・エリア40の二番手ジョンフンは興奮した様子だ。


「ええ〜、でもデスね。。。けっこうモウ差がついちゃってますし、あのチーム、全速力で特攻をカケちゃってマスよ。もう漁夫の利を狙うのは手遅れじゃないデスか。」


「そうだとしても、もしあいつらがライフを持って帰って来たら流石にもう追いつけないよ!あいつらも一か八かだ、僕らも一か八かで出よう!」


 3番手のエドワードも興奮したように今からでも飛び出そうといった勢いだった。


 BrAInHack頼りとはいえ、数少ない第7自治区出身ゲーマーたちの初めての大舞台。念願の勝利を前に、後悔のないプレーをしたいという気持ちがチームの意志だった。


「わかりマシた。そこまで言うなら、みんなで全速力で突っ込みマショウ!」


 全員の乗り換えが終了したところで、チーム・エリア40は全力でマルクスたちを追うのであった。


 そのころ、フーコは無数の敵から攻撃されていた。ブラックワームたちがフーコに群がる。しかし、まさにそれが囮役の役目。無様に早々やられるわけにはいかない。


 自動回避を上回るのではないかというほどの見事な俊敏さで無数の石礫を交わし、神業的なタイミングで瞬時に電磁バリアを部分的に展開し、石礫を弾き返したりしながら敵の注意を引きつけた。


(フーコすごい。いつの間にあんなテクニックを。)


 マリーは、これはいける、と直感した。フーコの撹乱が予想以上にきいている。かなりの数の敵がフーコに夢中だ。


 マルクス、アベベ、ラクサが逃げ回るフーコを援護する。


 マリーは後ろから状況を見ながら一気に『ライフ』をとってやろうと狙っている。


 シドとシリウスがマリーのために最後の道を切り開くべく、特攻を始めた。


 フーコのように器用に電磁バリアを貼れないシドは、バリアを全開状態にしてビームを乱射しながら敵陣に突っ込んでいく。シリウスも似たような状態である。


『ライフ』に近づいてきたシドとシリウスに、一気に敵がなだれこんできた。シドとシリウスは身動きがとれなくなるほど囲まれた。


 敵が拡散したら、今度はフーコがフリーになった。本当は囮役だったフーコが隙を見て『ライフ』を奪うことに成功した。


 マリーとマルクスとアベベは、シドやシリウスがあっという間に破壊されてしまった様子を見て、もはや自分達が回収するのは手遅れと判断し、フーコの戻りを全力で援護することにした。


 そして、この判断は、チームの勝利を決める一手となった。


 フーコたちと入れ替わるように、エリア40が特攻をかけてきた。漁夫の利もうできない


 BrAInHackとジョンフンがライフまでたどり着いたが、ジョンフンは完全に囲まれてしまったので、自らが囮となりBrAInHackを送り出して散った。


 チーム・エリア40の他のメンバーは、この二人をライフまで届けるために全滅した。


 BrAInHackは『ライフ』回収に成功したが、ベースに戻ってこれたのは1人だけだった。


 この時点で、点数はチーム・マルクス<472点>、チーム・エリア40<468点>。僅差DEARU


 そのまま終盤戦の激しい戦闘へと突入する。


 しかし、実質すでに勝負はついていた。BrAInHackは一人でブラックワームを相手に善戦したが、チーム・マルクスには5人が残っており、力の差は歴然としていた。


 最終的には、チームマルクス<580点>、チーム・エリア40<525点>、と差が開いてグループAの準決勝は終了した。


 ジョンフンは、自分さえ回収して戻っていれば勝てたのに、と悔し涙を流した。


 しかし、チーム・エリア40の戦いは多くの人々に印象深く残り、BrAInHackはこのフィールドでMVPをとり、一躍有名人となった。


 勝負が終わると、フィールド内で全員の回線がオープンとなり、お互いの健闘をたたえて挨拶をして終わるというのが通例となっている。


「あの〜。このFucoって、フーコさんなんデスか?」


 BrAInHackからフーコにダイレクトで通信が入った。


「え!?その喋り方??マリアンヌ!?」


「ハイ。マリアンヌデスよ。」


「じゃあ、BrAInHackって、あなた!?」


 驚きすぎて当たり前すぎる質問をしてしまった。


「ハイ!Fucoさんって見て、もしかしたら、って思ってたんデスけど・・・やっぱりフーコさんのいるチーム、強いデスね。」


「いやいやいやいや、強いのはあなたよ!」


「えへへ・・・ありがとうございマス。でもフーコさんの勝ちデス。おめでとうございマス。今度、お祝いさせてくだサイ。」


 フーコはなんとも言えない表情で、「あ、ありがとう」、とだけ言った。


 カオスファイターで戦うマリアンヌはまさに鬼神のごとしであった。


 思えば格闘で戦っている時も、なにをしても反応されそうな、常に剣先が喉元をうろついているような危険な感覚にビリビリさせられた。


 しかしその戦いの魔人が、戦いが終わると滑舌がイマイチ外れている、ちゃらけたノリのお人好しになるのだから、不思議でたまらない。


 合計で7個のライフを回収したということで、準決勝に参加したチームはみんながボーナスをもらえて、負けたチームもそれなりに満足して帰っていった。


 その後もアリーナは興奮の絶頂の中で試合が進み、チーム・マルクスは準優勝を果たした。


 第一回大会を制したのは、リーダー黒豹率いる、〈打倒ビリー将軍〉をうたうチーム「アスファルト・クラッシャーズ」だった。


 合理を追求した見事なチームワークで優勝を手に入れた。


 ビリー将軍は準決勝以上に残った全ての人間、およびこの大会で目立った活躍をした個人を早速軍へとリクルートした。特に優秀なパイロットは破格の待遇を持って招いた。これで、ビリー将軍の直属部隊を含めて、500人のスペシャル・エリート・フォースが始動した。


 そして、エリートフォースの編成早々に、大規模な『ライフ』回収作戦が始まる。





 第22話 『ライフ争奪戦 ①』へ続く

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