第18話 ゲーム・オブ・ライフ ①

 ライフ奪還の戦闘より数ヶ月、細長い黒い敵は『ブラックワーム』と呼ばれ、そこらの宇宙を巡回するようになった。


 <ブラックワーム警報>が鳴れば、船は余計な戦闘を避けるために逃げなくてはいけない。カオスファイターを出して戦闘になれば、一体どんな大軍に囲まれるかもわからないからだ。


 幸いなことに、ブラックワームの索敵能力はオムニ・ジェネシスには遠く及ばない。



 ______ビッビッビ


 コズモの電話が鳴った。


(また電話か。まったく、他にすることないのか。)


 コズモはぶつぶつと独り言を言いながら電話を取る。


「もしもし、君はそんなに僕をストーキングするのが好きなのかい?」


 コズモは、冗談と取られるか皮肉と捉えられるかのギリギリを攻めて、不快感を持っていることを曖昧なメッセージに載せた。


「くだらない冗談はやめてください!見て欲しい映像があります。」


 コズモは「ウグッ」と口を詰まらせ、血が頭に瞬間的に込み上がってくるのを感じたが、全身にギュっと力を入れてから深呼吸と脱力をしてやり過ごした。


 映像からは、ハルモニアから何か大きな物体がおおよそハルモニアの脱出速度を超えるであろうという速度で打ち出されていた。


 そして、その物体は大気圏を抜けて宇宙空間に入ると破裂する。中からは何体ものブラックワームがウニョウニョと出てくる。


「これは・・・」


「はい、やはりブラックワームは、ハルモニアから放たれていたことがわかります。」


「うむ、予想通りといえば予想通りだったが、これで、ハルモニア文明が我々を敵対視していることがより明確になったわけだな。」


「はい。」


 しばし沈黙が走り、ステラはじっとコズモを見ている。


「で、他に、なにかあるのか。」


「あ、いえ、船長、このことに関して、どのように対処するおつもりで・・・?」


「え、あ、いや、わかっているような話だったのだから、今更という感じであろう。別に何も言うことはない……とりあえず、これは内部だけで共有しておこうか。」


 ステラは少し首を傾げて片目を吊り上げる。


「船長、我々は今、戦争へ突入するか否か、という状態なのですよ。そのような適当な感じでいられるのは困ります。」


(戦争、ね。)


 リアルな地獄である戦争を経験したコズモからすると、無人機をゲームのように操作して戦うのを戦争というのかと疑問に思った。


 しかし、そんなことを言うとまたしてもステラはガミガミと言い始めそうなのでなにも言わないでおいた。


 だが一理ある。この「戦争」は負ければ人類が全滅という、最も危険な戦いでもある。ゲームのような戦い方とはいえ、軽んじることはできない。


 コズモは軍備強化のため、ビリー将軍などらと軍議を開くことにした。


「現時点で言えることは、今戦えば、我々が敗北するということでしょうな。」


 ビリー将軍はズバリと言い切り、会議に集まった要人たちはお互いに顔を見合わせた。


「し、しかし、ヤツらはテクノロジーで劣るのでは?」


 官僚の1人が尋ねると、ビリー将軍は首を横に振る。


「確かにそこに差はあるかもしれない、が、決定的な差ではない。数の差がありすぎる。先日のカオスファイターの戦闘、もしかして我々の4機が3000匹のブラックワームを相手にして勝てるとでも思われたかな?」


 官僚は黙り込んだ。


「おそらく現時点でカオスファイターの性能を最大限に引き出せる我々でさえ、敵を分断させたり作戦を立てないと数倍の数の差の敵と戦えんのだ。かといって中性子爆弾で敵を吹っ飛ばしても、『ライフ』も一緒に吹っ飛んでしまう。まあ、もっとも、いったん敵を吹っ飛ばしたところで、あの規模相手じゃあ焼け石に水だ。毎日増えているのであろう、巡回するブラックワームが。」


「では、どうするというのだ。」コズモが尋ねる。


「先ずは、カオスファイターの増産です。できるだけ沢山作らなくてはいけませんな。それにパイロットの育成ですな…それに関しては、すでにアイデアがあります。」


 ビリー将軍は、ヒュンサブ副将軍に合図を送ると、立体スクリーンにデカデカとした文字が浮かび上がる。


 ------ゲーム・オブ・ライフ-----


「ゲーム・オブ・ライフ!ブラックワームのデータを元にリアルなブラックワームの動きをトレースすることに我々は成功している!これは、『ライフ』回収を目的とし、リアルなカオスファイターの性能を持ってして、ブラックワームと戦ったり逃げたりするゲームである!これを軍はリリースし、半年以内に大会を開く!そして、上位入賞者には賞金と、軍の特別待遇によるコントラクトをプレゼントする。おわかりかな?隠れた才能を引っ張り出し、このようにして軍を強化する!」


 皆が度肝を抜かれる。しかし…確かに良い考えだ。


 普段は日の目を見ることのないゲーム中毒者たちが、人類を救う最高戦力となりゆるのだ。


「こ、このゲームのリリースは?」


「ん?すでにデモ版は配信しておりますぞ。すでに80万人以上のプレイヤーがおります。船長、カオスファイターの増産の件、頼みましたよ。」


 こういうとビリー将軍は、本格リリースに向けて準備があると言って出ていってしまった。


 かくして、ゲーム・オブ・ライフ大会に向けて、オムニ・ジェネシスは空前絶後のゲームブームとなる。


 上位100チームまで賞金が出る上、上位10チームなどは、軍との契約を条件にオムニドル億単位の賞金になるという。もちろん軍との契約でも大きなお金が動く。


 参加者は、900万人を超えたという。




 第19話『ゲーム・オブ・ライフ ②』に続く

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