第38話 心を守り抜け 終

 ベリーショートのオレンジ髪の美少女は鮎川未央あゆかわみお

 ツインテールの黒髪美少女は若杉日和わかすぎひより

 それぞれ心から紹介された。


「えっと、菊池桃矢です。よろしく」


 二人はジッと俺のことを見つめる。口を開いたのは鮎川さんだ。


「へー。心、もしかしてこのマッチョが例の?」


「うん。桃矢さんは私のボディガードとして雇っています」


「頼りになりそうな人ですね。話には聞いていたけど、実際に会うとまた違う。なんていうか、そう! お似合いって感じ」


 思いついたことをそのまま言っている若杉さんの発言に心はカーと赤くなった。


「み、未央。からかわないで下さい!」


「ねぇ。それよりケーキ。食べないと勿体ないよ。私が全部食べちゃうぞ?」


 食べる手を一切止めない若杉さんは言う。


 そう言えば、この子ずっと食べているな。身体は細いのに大食いなのだろうか。

 バイクング用のケーキを皿いっぱいに盛って席について口に運ぶ。


「う、美味い。ケーキ食べたの久しぶりすぎて何だか感動」


「久しぶりってどれくらい?」と鮎川さんは聞く。


「えっと、忘れた。でも五年以上は食べていないかも」


「ご、五年? じゃ、誕生日は? クリスマスは?」


「食べないかな。食べるとしたらチキンとか」


「なるほど。食べ物に関して意思が固いってことですか」


「そう言う訳じゃないんだけど」


 ただ、普通に金が無くて食べられていなかっただけとは言い辛かった。


「と、ところで心。二人の関係って……」


「あぁ、二人は中学の時の友達です。いつも三人一緒でしたものね」


「そうそう。心の秘密があるんだけど、菊池くん。聞き合い?」


「秘密?」


「あぁ! 未央。それは言わない約束でしょ?」


「分かったよ。言わないから」


 おいおい。心の秘密って何だ。そんな言い方をされたら気になるではないか。


「ココちゃん。高校では素を隠せているの?」


 不意に若杉さんの発言で心は固まる。


「素?」


「な、何でもありませんわよ。桃矢さん。さぁ、ケーキを食べましょう。全種類コンプリートしませんとね。うふふふ」


 明らかに動揺している。心は何かを隠している。いや、隠しているのは確かだ。


「それにしても日和。あんた相変わらずよく食べるわね」


「私、食べても太らないんだよね。不思議なくらい」


「羨ましいこと」


「うっ。来たかも」


「どうぞ。言ってらっしゃい」


「失礼」


 あぁ、トイレか。

 たまに見かける。大食いで太らない人はトイレの頻度が多いと言うことに。

 若杉さんもその一人なのだろう。

 それにしても心にも気軽に喋れる友達がいたことに驚きだ。

 学校では一目を置かれる立場でこうして同じ目線で話せる人がいることに安心した。

 俺は自分を出し過ぎずに三人の会話を聞きながらケーキを食べることに徹していた。


「心は学校ではどうなの? 友達と言える友達はいる?」


「いるよ。皆、優しい子ばかりで楽しい」


「へーそうなんだ。それは何より」


「二人はどうなの?」


「女子校ならではの楽しさはあるよ。聞きたい?」


「うん、うん」


 華やかに見える女子校だが、実際は黒い話やイメージと違う話が耳に入る。

 聞いている分にはいいのだが、イメージを壊された感覚は射止めない。

 一時間ほどケーキバイキングを堪能した俺たちは店を出る。

 一生分のケーキを食べて満足だった。


「それじゃ、またね。心」


「うん。バイバイ」


 二人は去っていく。


「あれ? もういいの?」


「はい。何か?」


「いや、久しぶりに会ったならもう少し話してもいいのかと」


「お二人は忙しい身です。メッセージのやりとりは毎日しているから特に話すことはないんですよ」


「それならいいけど」


「さぁ、帰りましょうか。長い一日もそろそろ終わりです。桃矢さん。今日もボディガードお疲れ様でした」


「あぁ、うん」


「何かモヤモヤしています?」


「まぁ、ちょっと」


「二人が言っていた私の秘密……ですか?」


「いや、心が言いたくないことなら聞かないよ」


「優しいんですね。桃矢さん。言いたくない訳ではないんです。ただ恥ずかしいだけです。だから一つ、ヒントを出しますね」


「ヒント?」


「実は私、ある条件が揃うと無敵になるんですよ」


 そう言い残し、心は笑みを浮かべた。ある条件? と、ますます疑問が募った。

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配達する部屋を間違えて届けたら誘拐された美少女の監禁部屋だった。持ち前の格闘技で誘拐犯を撃退したら美少女は御礼がしたいと○○を差し出した。 タキテル @takiteru

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