第2話 スキル把握

「ここは...?」


鬱蒼とした森の中で俺は目を覚ました。古びた服を着て横たわっている状態で、徐々に視界がクリアになっていく。


「転生、したのか?」


ここは元の世界なのか。先ほどのモヤは全て夢だったのか。そんなことが頭を駆け巡るが空を飛ぶ生物を見てそんな疑問は遠くへ吹き飛んだ。


「...龍?」


悠々と空をうねって進むのは青く細長い龍。ドラゴンではなく龍である。少なくとも俺は元の世界で空を飛ぶ細長い生物を見たことがなかった。


「本当に転生したんだ...夢じゃなかった...!」


Q.異世界系ライトノベルで、転生を認識した主人公が最初にすることとは?


「ステータスを確認すること...!」


自分の脳内で問いかけた問いに自分で答えると、俺は控えめにステータスと言ってみる。元気よく口に出すのはなんだか気恥ずかしかった。


「ステータス。」


...。


燦々と森を照らす太陽。小鳥たちのさえずり。無言で硬直する俺。


ステータスの表示条件は前世で読んだ小説の種類によって全く違った。この世界ではどうやってステータスを表示させるんだ?

複雑な呪文だったら(例えばペスキピクシ・ペステルノミであるとか)自分で気づくことなんかできないだろう。まずは街へ向かわないと。

立ち上がると慣れた視線の高さよりだいぶ低くて俺は驚く。


俺は小さい慣れない体で山を下る。


● ○ ●


山を下ると、舗装された道が繋がっていた。体力のない体でその道を辿ると割と簡単に街に着くことができた。

問題なのは、街に入るための門である。大きな門が道を塞ぎ50代前半ほどの男が甲冑を着て立っていた。

とりあえず、街に入らないと始まんねえよな。

俺は深呼吸してからとてとてと門番に駆け寄り話しかける。


「どうした坊主。どっからきた?」

「あのね、山で誰かと遊んでたら頭打っちゃって、何も覚えてないんだ。自分の名前も、年齢も覚えてないの。」


不安げに目を伏せて泣き出しそうな表情を作る。ガキの見た目というのは同情を誘いやすい。


「あー、そうか。ステータスを見れば...見方がわからないんだな?坊主。」

「すてーたす?」

「脳内で窓が開く様子を強くイメージしろ。思い浮かべてる時に何か声を出すと失敗しやすい。...窓はわかるよな?」

「透明なドアみたいなやつ。」

「そうだ。」


よしっ!

茶番を続けながら俺は作戦の成功を喜ぶ。この世界の住人は元の世界の人より親切でおせっかいのようだ。


早速脳内で窓が開く様子をイメージする。


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東 奏汰 12


固有スキル:ガチャ

蝗コ譛峨せ繧ュ繝ォ2:-ERROR-

装備:古びた上着

   古びた腰履き   

   古びた靴


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「!!」


突然視界に表示された半透明で緑色のウィンドウ。触れようとしても実体はないようで手は空を切った。


東奏汰。それが俺の新しい名前(和名か、というツッコミは置いておく)。横の12というのは―――年齢だろう。

確かにこの体はまだ成長期前の12歳前後のものだ。

ステータスのさまざまなところに目を向けようとしたところで、門番が話しかけてくる。俺がステータスを見れていることがわかったのだろう。


「どうだ坊主。わかったか?名前は?」

「ア...。」


馬鹿正直に東奏汰と言おうとして俺は下唇を噛んだ。

もしもこの姓に何か特別な意味があったらどうする?

例えば奴隷一族の姓であったり。

例えば反逆者の末裔であったり。

もしも“東奏汰“が指名手配犯の名前だったらどうする?


「アー、えっと...田山雄一。12歳。」

「そうか。雄一。家はどこだかわかるか?」


送迎される流れか?

田山家なんかこの街にはたくさんあるだろうし、本物の田山家は俺のことなんか知りやしない。


「んー、名前見たら色々思い出してきた。山の中の爺さんに会いに行く途中だったんだ。ありがとう。おじさん。1人で行けるよ。」

「そうか。良かったよかった。気をつけるんだぞ!」


チョロ...と思いながら俺は山の中へ戻っていく。ステータスを見てじっくり思案する時間が欲しかった。


● ○ ●


_________________________________________


東 奏汰 12


固有スキル:ソウルガチャ

蝗コ譛峨せ繧ュ繝ォ2:-ERROR-

スキル:--

装備:古びた上着

   古びた腰履き   

   古びた靴

    

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


山の中に帰って木の上によじ登ると俺は再びステータスを眺める。固有スキル。おそらく一般的な人が覚えるスキルとは違う自分だけのスキルのことである。


「ガチャ...って、ソシャゲの?」


この世界にスマホはあるのかどうかわからないが、ソウルガチャと言うのはおそらくソシャゲのガチャのようなものである。多分。


「この文字化けは...。」


「固有スキル」の下の欄を見つめて目を潜める。よくわからない。ERRORと表示されているのも謎だ。


スキルも何も持っていないので、ひとまず固有スキルを使ってみることにする。


「ソウルガチャ!」


思い切って唱えてみればステータスウィンドウに新たな文が表示される。


_________________________________________


ガチャを引くためのソウルが足りていません

(0/1)


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「ソウル、?」


お手上げだ。ソウルが何を示しているのかわからない。貨幣か?

頭を捻る。


「うぉっ!」


突然上空から鳥が飛んできて、俺の目の前に突進してくる。咄嗟に伏せて避けると、尻が枝から滑るのを感じた。


「え?」


バランスを崩す。高い高い木の枝から。もがく手足は空を切る。ヘソの奥がキュッと痛んで歯がガチガチとなる。

全てがスローモーションに見えた。


ゴキッッッ!


何かが折れる音が大きく響く。


何か?


俺の首だ。


「...ぁ」


転生して間もないのに。1時間も経過してないのに。こんなしょうもないミスでもう―――死ぬのか?


暗転。

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『能力:ソウルガチャ』で学園無双!-転生したら固有スキルがガチャだったので、運に任せて無双します- 夜野やかん @ykn28

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