『能力:ソウルガチャ』で学園無双!-転生したら固有スキルがガチャだったので、運に任せて無双します-
夜野やかん
第1話 転生
いいか、お前を転生させる。
その言葉は
つまり、セリフとして聞こえたわけでも頭に直接響いたわけでもなかった。
俺自身が念じているような、リンゴをみて「リンゴだ」と感じるように脳内に浮かんできた、そんな声だ。
「誰だ」
漫画や小説でこういった「転生を告げられる」場面になると、俺はいつも主人公は気が利いたこと一つも言えないのか(例えば全知全能のパラドックスを突きつけてみるとか)と呆れるが、実際そういったことは言えなさそうである。
白いモヤのような空間は上下前後左右どこまでも広がり自分との境界がわからない。漠然とした恐怖を抱く。
お前は死んだわけでも、召喚されたわけでもない。選ばれたのだ。
再びその声が俺の中から響いて、俺を混乱させた。自分が発したのか念じたのか、それさえもわかりにくい。
空間に響く声をゆっくり吟味して、確かに俺は死んでいないと確信する。
確か昨日はいつも通り電車に乗ってシャワーを浴びて泥のように眠ったはずだ。
ならここは―――夢の中?
夢か現実かを見分けるには頬をつねると良い、と聞くがあいにく今の俺は実体を持っていないただの白いモヤである。友人から聞いた「自分が知っている知識を列挙してみる」という方法を試してみることにする。
「日本。人口1億3000万の先進国。首都は東京。人口1400万の大都市。旧石器時代からの長い歴史を持つ。」
ふむ。すらすら言える。
「野球。9対9で行うスポーツ。ピッチャーが投げた球を打つ。三振、打球が地面につく前に捕球もしくは一塁に送球するなどで1OUT。3OUTで交代。表裏で攻守を交代し9回繰り返す。」
ざっくりだがスポーツのルールなんかも列挙できる。まあ仮にも中高6年間やっていたスポーツだし。
中高6年間?
中学?高校?
中高6年間、と考えたとき脳にノイズが走る。
俺はどの中学に通っていた?
俺はどこの高校に入学した?
なぜ自分についての情報を列挙しないんだ?自分は自分の情報が一番詳しいはずだ。
「...あれ?俺...名前なんだっけ...?」
例えば、自分の名前とか年齢であるとか。
そういった記憶がすっぽり抜け落ちている。
日本や東京、野球と言ったどうでもいいことは覚えているのに。
自分の一生を振り返ってみる。
社会人として働いていたような、気がするし、ありふれた苗字と名前だったような気もする。
「名前なんて所詮記号。年齢なんて所詮数字、だったっけか。」
そんな名言を誰かが言っていた気がした。どっちにしろこんな変な空間に来て転生だのなんだの言われているからには、もう俺には必要ない情報なのだろう。多分。
お前にはポテンシャルがあった。うちに秘めたる才能は大きく、しかしあの世界に適応する才能ではなかった。
再び頭蓋に声が響く。
ポテンシャル...うちに秘めたる才能?
世界に適応しない才能ってなんだ、むちゃくちゃ上手に女のスカートを捲れるとかか?
くだらないことを考えながら“自分”を見失わないように精神を集中。頭に響く声だけに耳を傾ける。
お前はめんどくさくなくていいな。そういったポテンシャルを持った奴らは毎回私に斬りかかってきたり何かを投げつけてくる。
そんな礼儀のないキチガイと一緒にされるのは大変心外である。俺はそういった奴らと同じ才能を秘めている?ノーだ。俺は東京にごまんといる一介の会社員か学生にすぎなかったはずだ。
「そろそろ読者のみんなが根を上げるだろう。君の思考と私の声が混ざってわかりにくい、とな。もしくは転生が遅いだとか。」
「読者...なんのことだ?」
頭に響いていた声が急に耳元で囁くようにして聞こえ、俺はモヤを霧散させる。
読者。小説を読む人のことだ。なぜそれが今関わってくる?
「まーともかく、君のうちに秘めたる才能を発揮するにはあの地球ではもったいなかったって話。だからその才能を発揮できるような世界に飛ばしてあげますよー、と。」
「余計なお世話だ。」
急にフレンドリーになったその声に俺は牙をむく。
「神だか閻魔だか知らんが俺は前世では楽しく生きてたはずなんだ。自分でも気付いてなかった才能なんかのせいで人生を終わらせられるなんて、真っ平だぞ。」
言いながら、「前世」という単語が素直に出てきたことに驚く。俺がここにくる前まで何十年も生きていた期間は、もはや俺にとっては前世なのである。
「そんなこと言われても。君、ワクワクしてんじゃん。」
「...ッ!」
痛いところを突かれた。確かに俺は「転生」
にワクワクしているし、内に秘めたる才能はなんなのかも気になっていた。それでも神に牙を向いたのはそれが自然な反応だと思ったからだ。別に俺自身は転生に関して何も感じちゃいなかった。
「んじゃ、君の才能はあっちの世界にいればすぐわかると思うから。頑張って。」
は?そんな急に?、という言葉は言葉にすらならずにかき消えて、モヤの体が回転を始めた。洗濯機だ。俺の意識は電灯を消すように呆気なく途切れた。
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