第116話 米国史を米国で学んで思うこと。リンカーンの演説
前章に書いた様に、私が留学した田舎の高校は、技術的な教育では日本の工業高校の様に実践的な内容はとても充実していたが(毎年、実習で家を一軒建てていた)、アカデミックの部分の大半は日本に劣っていた。理系のクラスは、学校でもトップレベルのクラスを取ったのだが、どれもかなり劣っていた。英語と文系のクラスは私が受けたのは、最も低いレベルのクラスだったので、(大学進学を目指す生徒のための)上のレベルのコース内容はわからなかった。昨日書いた様に英語はお遊びなクラスだった。米国史はレベルが低くても、ちゃんと歴史を教えていた。先生は、ベトナム戦争で足を負傷していまだに障害が少し残る先生だった。その中で、私が最も衝撃を受けたのが、南北戦争の終わりに、リンカーン大統領が行ったゲッティーズバーグ演説の全文だった。日本の教科書にも出てくる、「人民の人民による人民のための政治」(A government of the people, by the people, for the people )と言う部分は、知っている人も多いと思う。私も知っていた。米国史で最高の演説と言われているし、独立宣言と共に米国民もよく知っている。しかし、この演説の最初の部分に、
Four score and seven years ago our fathers brought forth on this continent, a new nation, conceived in Liberty, and dedicated to the proposition that all men are created equal. We are met on a great battle-field of that war. We have come to dedicate a portion of that field, as a final resting place for those who here gave their lives that that nation might live.
「87年前、我々の父祖たちは、自由の精神に育まれ、人はみな平等に創られているという信条に捧げられた新しい国家を、この大陸に誕生させた。 今我々は、一大内戦のさなかにあり、戦うことにより、自由の精神をはぐくみ、自由の心情にささげられたこの国家が、或いは、このようなあらゆる国家が、長く存続することは可能なのかどうかを試しているわけである。」(この翻訳はウキペディアから引用)
つまり、1776年の独立宣言で立国した米国ではあったが、その政治体制は、旧大陸の制度とは異なる、全ての人民は平等であると言うことに基づく、全く新しい民主主義体制であった。この演説では、地球史で初めて、全ての民(米国民)が平等であるとする試験的な政治体制であり、南北戦争によってその存在が問われていると言う様な内容で始まる。英国の植民地だった13州が、1776年に独立宣言して、そして英国との独立戦争で勝利し建国が叶ったとしか習っていた私。その後は、問題なく大国への成長の道を歩んでいたと思っていた。87年後に、この新しい試みとして生まれた米国の民主主義の政治体制は、未だに試験的な体制であり、その座が危ぶまれていた?そんなの日本の学校では習ってなかったぞ!と言う反応だった。これは衝撃的な経験だった。中学生のある日、新聞に東パキスタンが、バングラデシュとして独立したと言うニュースを見て驚いた時を思い出す。戦後、多くの植民地が独立して、世界は安定した状態に堕ちっていたと思っていた。これも学校で習っていた歴史や地理には出てこない事情を繁栄していたのだろう。(この内容の一部は、佐藤宇佳子さんとのコメントのやり取りに書かれれtいます、)
リンカーンは最も尊敬されている大統領と言われているが、イリノイ出身(生まれはケンタッキー州で、幼い頃はインディアナ州へ移り住み、若い頃に家族とイリノイへやって来た)であったので、イリノイ州ではさらに人気のある大統領であった。南北戦争戦争時の指導者であり、奴隷解放宣言と、暗殺されてしまった事実も、全米で人気が維持される理由は多くある。
ちなみに、独立宣言時には、米国南部には奴隷がいたのだが、彼らは国民として認識されていなかった。その奴隷制度の存続をかけた戦争が南北戦争だった。現在の南部では、南北戦争は奴隷解放とは関係なしに、経済的な政策の違いだけから北部が南部へ侵略して来たとか言っている奴らも多くいる。工業生産が主要産業だった北部は、英国などの外国からの輸入に対して関税をかけることを望み(米国では、産業革命がまだ起こっていなかったので、特にイギリスからの製品へ輸入制限をしたかった)、農業生産物(奴隷制度によって生産された綿花)を多く輸出したかった南部は、関税を低くしたかったのは確かだったが、新しく加入する州で奴隷の扱いをどうするかと言う問題が引き金になった。例え経済的な思惑が重なったとしても、南北戦争を奴隷解放なしで語ることはできない。
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