第109話 息子のこだわり1

私の息子はやや自閉症気味なところがある。一般的な生活には支障がないが、思い込みとこだわりはかなり強い。この傾向は幼い頃からあったが、その頃は、私たち両親は、別に気にもしていなかったし(今もそれほででもない)、この私も、こだわりは強い方だと自覚している。嫌いな食べ物も多く、幼い頃食べなかった食品もいくらかは食べる様になったが、マヨネーズやグリーンピースの様に今でも絶対に口にしない食品も多くある。


幼い頃(小学校低学年まで)は、恐竜にハマっていて、将来は古生物学者(paleontologist)になるとか言っていた。お陰で、私は息子が図書館から借りて来る恐竜関連の本を読まされて、恐竜知識を身に付けた。次は、小学校の社会科で習った南北戦争に興味を持ち、小学校高学年では、南北戦争に関することなら全てを知りたがっていた。特に、多くある戦場に詳しく、何人の犠牲者が出たかとかを把握していた。あまりにも深入りしていて、息子が嫌いで普段は食べない野菜スープを、妻が「シビルワー・スープ(米国では南北戦争をCivil Warと呼ぶ)」と呼んだら、食べてしまった。それも、妻が、息子の興味に合わせて、わざわざ作ってくれたと勘違いして、礼まで言いながら食べていた。妻の親戚を訪ねて米国南部へ旅すると、南北戦争ゆかりの地へ訪れたがっていた。この「趣味」は、生まれ育った街が、アブラハム・リンカーン大統領のゆかりの地であったためかも知れない。住んでいた近所には、リンカーンが停ったことのある家がいくつかあった。弁護士だったリンカーンは、この街にある裁判所へ仕事の為に、定期的に訪れていた。貧乏弁護だった彼は、民宿みたいな所に泊まっていた。お陰で、息子を連れて日帰りで行けるリンカーンの家と墓(スプリングフィールド市)とか、青年時代を過ごした村(こっちはリンカーン市という街の近く)等にも行ってみた。これが、カリフォルニアへ引っ越す前まで続いた。


カリフォルニアへ引っ越してからは、運動系にハマり始めた。幼い頃から、少年野球(リトルリーグ)等はやっていたが、体がまだ出来ていなかったためか(同学年の子供たちの中では一番誕生日が遅かった)、そんなに活躍はしていなかった。同級生のチームメイトは、年齢的に出場資格が尽きてしまったが、若過ぎた息子はもう一年プレイできるのに、引っ越してしまった。引っ越し後は、リトルリーグのチームは遠くにしかなく、妻は近くにあった少しルールの違った少年野球リーグに息子を加入させた。最初に入ったチームの練習が余りにもきついと、他のチームメイトがやたらにデカいので、不思議に思った妻が、年齢を聞いてみると、実は、年齢枠を間違って加入させていた事が分かった。やっと、自分の年齢にあったチームに入り一年間はこのチームに所属していたが、その頃から、アイスホッケーのNHLに興味が湧いてきた。カリフォルニアにはアイスホッケーのチームは少なく、その代わりに、ローラーブレイドを履いてプレイするローラーホッケーのチームへ入った。家の駐車場でいつも練習していた。しかし、この野球経験で、気になる事が判明。息子は人前で、下着姿に慣れなかった。新ユニフォームを与えられて、チームメイト達はユニフォームのズボンを平気で着替えているのに、うちの息子だけは、上だけ変えて、下は履き替えようとしなかった。これを見て、妻は息子にやや呆れていた。後で、息子が人前で半裸になるのに、かなりの抵抗があるとは知らなかった事を妻と二人で話ていた間にも、妻は「弱虫」的な発言をしていた。私が、将来、女の子とああゆうか関係になった時、ズボンが脱げなくては困るだろうと言うと、妻に後頭部を叩かれた。


その頃の息子が、もう一つハマったのが、トム・クランシーの小説だった。この作家は、米国では、テクノスリラーとか言うジャンルの小説の第一人者だった。軍事兵器に関する知識が非常に強い作家で、時には、彼の小説に、米国国防省からクレイムがついたとも言われていた。映画化された彼の小説も、かなりの人気があった。ハリソンフォード主演の「今、そこにある危機」とか「レッド・オクトーバーを追え」が代表作だと思う。後に、日本人機長が747で米国連邦議事会へ突っ込んでいく話を書いて、911同時多発テロを企てた者達が、この作品からヒントを得たと、非難された。息子は大学(学部)を卒業するまでに出版されたクランシーの本は全部読んだと思う。その前には、マイケル・クライクトンの「ジュラシックパークを中一で読んで、生意気にも、映画よりも小説の方が良かったとか抜かしたこともある。クランシーの小説以外の本は殆ど読んでいなかったが、日本へ移住した後には、漫画スラムダンクを欠かさず読んでいた。


私達夫婦は、こんな息子の一つの事に深くハマってしまう性格を快く思っていた。




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