第105話 和食は大好きな妻。
妻は、日本に(嫌々?)やってきて、色々とカルチャーショックな事はあったが、実は日本人の夫もカルチャーショックを味わっていて、自分と似た様なもんだと理解し始めていた。本当に夫は日本人なのかと不思議に思う事も度々あった。しかし、日本の方が米国よりも遥かに優れていると思った事も数々あった。真夜中に女性が一人で歩いていても比較的安全だと言うのは、聞いていたが、一人で暗闇を歩く多くの若い女性を実際に見て驚いた。未だ妻は夜に一人で出歩くのは怖くて控えていたが、私と出かけて、そういう風景に出会っていた。米国なら、女性一人が車で真夜中に出かけている事はある。妻も私に怒って、車で出て行った事もあった(息子が生まれて間もなく、私が大学の図書館で宿題をやっていて、行方不明になって、捜査願が出されていたのに、のこのこ帰ってきた時には、キレて、車でその辺を走り回っていた事があった。顔を見ると、怒りが押さえられないので、一人になりたかったが、真夜中に外を歩いていたら危ないので、車だった。)
中でも予想以上に好ましかったのは、食べ物だった、数件の例外を除いては、全ての食べ物とも言ってよかった。例えば、妻は米国のKFCは余り好きではなかったが、日本に来てからは、住んでいた街で店舗を見つけたら、少し懐かしいと思い、入ってしまった。そこで食べた品々は、米国にもありそうメニューの一つだったが、米国で食べた経験のある物とは少し違った味がした。まず、チキンが油っぽくなく、カラッと揚がっていた。コールスローも甘過ぎず辛過ぎず。全ての品の調理がパーフェクトに近いではないかと驚いた。米国にないメニューもあってどれも美味しかった。因みに、米国へ帰って来てから、妻は、旅の途中に渋々入った時以外にはKFCへ足を踏みれ様としない。米国のファーストフードを嫌っている。これは、日本のKFC従業員が優れているからだろうと思う。米国のKFCで働く者には、余り期待できないし、されてもいないと思う。米国の従業員は真面目にやるだけ損だと思っているのだろう。
何と言っても、妻は和食が好きで、その中でも懐石料理が大好きになった。私はあの小さい量の食べ物が比較的に大きな容器に乗って出てくるのが面倒くさくて、料理が出てくる待ち時間もイライラする。妻は一つ一つの料理を、器の美しさに触れながら、ゆっくりと楽しんで味わう。私はほぼ全ての品を一口で飲み込むので、余計にイライラする。どっちが日本人かと問われる事も多かった。湯葉懐石を大喜びで食べる妻、こんなもんフルコースを3回くらい食べないと満腹にならんぞと思っている夫とは対照的だった。近くにできた、中華を懐石の様に出してくる店も、妻は気に入って、よく通っていた。
懐石以外にも、日本の料理屋も好きで、居酒屋と言うよりは料亭的な板前さんとカウンターで話ながら海の幸を味わえる料亭とかが大好きだった。近所にあったそんな料亭(小料理屋とでも言うのだろうか)では、行くと必ず天然の岩牡蠣を生で食べていた。しかし、米国に帰って何度目かに食べた生牡蠣にあたってしまい、それ以降は調理された牡蠣も食べなくなった。焼き鳥屋も蟹も好きだった。鮨も、クルクルも回らない鮨も大好きだった。イカが好きで、呼子までイカを食べに行った事もあった。因みに、イカ以外のものがメニューにないと知った息子は逆上しかけた。今では、呼子でイカを食った事があると自慢している(笑)。一方の妻は、私の東京出張について来て二人で行った渋谷にあった全ての皿が百円のクルクル寿司を経験した後、地元のクルクル寿司の方がよっぽど良いと言い放った。私の知らない間に、大学の近くの回る寿司屋のなじみ客なっていたのだった。そこは、老夫婦が経営していて、客もそんなに多くはなかった。妻は、他の寿司屋で食べた彼女のお気に入り、「月見イカ」、切り刻んだイカの上にうずらの生卵が乗っている軍艦巻き、をここの大将に作らせて、ちゃっかりメニューに乗せられていた。妻に、初めて連れて行ってもらった時、大将夫婦に例を言われて、こちらが恐縮したものだ。
こんな感じで、妻は日本での食生活をエンジョイしていた。しかし、妻にも苦手な食べ物はあった。その話は次回に。
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