第89話 プラムダンス 米国高校の重大イベント 2回目は

前回、米国高校へ留学した時の、週末クルージングとダンスパーティーの話を書いた。一学期の終わりに近い時期(と言っても11月だったと思う)にあるダンスでは、学校一可愛い同級生とダンスへ行けたが、最後のビッグイベントであるプラムまでには、見事に振られていた私だった。それでも、彼女以外とはプラムに行きたくないと、執着心(ストーカーになりそう?)を引っ張っていた私は、デート相手のいない数人の三年生と一緒にこのダンスへ行った。ダンス前に、周りの同級生やホストファミリー関連の大人達は、別のデート(デートの相手のことをデートとも呼ぶ)に申し込んで、プラムはカップルとして行った方が思い出になると言うアドバイスをして貰っていた。同級生である三年生が主な友人達であった私は、下級生の女の子が何人も私に声を掛けて欲しかったと後で知ったが、その話は私のところには伝わってこなかった。下級生の女の子達とは余り交流がなかったのが災難だった。今顧みれば、留学初めに、仲良くしてくれた3年生達に取り巻かれて、それが私のコンフォートゾーンになってしまい、別の学年まで友人の輪が広がっていなかったのだと思う。三年生の間では、もうプラムに行くカップルは2〜3ヶ月も前から決まっているケースが多かった。


行ってみると、ダンスをする相手には困らなかったが、終わった後で一緒に行動する相手がいないのは、少し惨めだった。それでも、日本にいた時に比べると、遊んでいると言う感覚は充分あった。米国の高校生に取って、プラムと言うのは重大なイベントだと何度も書くが、ダンスの後、深夜から早朝まで続くパーティも多く主催されていて、カップルの朝帰りというケースも親から認められる事が多かった。プラムダンスの後、処女を失う娘も多いと言われていた。


私はデートもいなかったので、深夜にはホストファミリーに帰宅した。プラムダンスに、デートなしで参加してしまった私だが、その後、大学生になってからプラムに、もう一度参加するチャンスが巡ってきた。それは、妻が高校から卒業する時の自分のプラムに連れて行ってくれと頼んできたからだった。妻は、余りデートにも出かけておらず、ダンスへ参加するのも、これが初めてだと言ってきた。その頃の私は大学生だったが、タキシードを借りて妻のエスコートをした。花を一輪持って迎えに行き、その花をデートの胸に飾り飾りつけるしきたりに乗っ取った後、彼女の家からダンス会場までエスコートした。そに前に、妻がプラムの為に購入したドレスは、彼女の母が中々OKを出さず、決まるまで時間がかかったのを覚えている。南部出身の彼女の母は、娘が肩を見せる様なドレスには猛反対した。胸の空き方にも文句があった(と言っても、あの頃の妻はほとんど胸はなかったのだが)。私は妻に母が好きなドレスを買ってそれを着て家を出て、友人宅て、別の彼女の好みのドレスに着替えることまで提案した。私がもう一着ドレスを買っても良いと言っておいた。結局、二人が満足(妥協する)ドレスを見つけるまで、ショッピングモールへ何度も通った。


妻とは彼女が高校二年生の時から付き合っていたが、彼女のクラスメイトは、彼女にボーイフレンドがいたとは知らなかった者ばかりで、少数を除いては、プラムに連れて来る程の間柄のボーイフレンドがいたとは知らなかった。それもアジア人だった。全く接点がない世界からデートを連れて来たのだ、皆驚いていた。大学のある街なので、アジア人教授の子息である高校生もいたが、そんなに多くはなかった。彼女の高校の生徒は9割以上が白人で、その他の人種は合わせて1割以下だった(私の留学した高校は、メキシコ系の姉と妹を除くと、100%が白人であり、私も入れて非白人は3人)。このリベラルと言われる大学街の街でも、アジア人男性と白人女性のカップルは珍しく、目立ってしまった。70年代〜80年代には、アジア人女性と白人男性のカップルはそんなにそんなに珍しくもなかった。そんな中で、逆の組み合わせの私達夫婦はかなり稀で、良い意味でも悪い意味でも注目された。そんなこともあったが、私は妻が、高校生として最後の思い出に付き合えたことが嬉しかった。ダンスの後は、二人で少しダンスの話をしたが、私は、やましいことはせず、深夜までに妻を家まで送り届けた。そう言えば、ダンスの前に、若者は行かないレベルのレストランで食事をしたこともあったのを、これを書いている間に思い出した。これも、しきたりの一つだった。


こうやって2回目のプラムでは、ちゃんと付き合っている女性と参加する事ができた事は妻に感謝だ。妻以外、知った顔はほとんどなかったが、野郎どもと行った前回プラムよりは遥かに良かった。妻にも忘れられない思い出となった様だった。その数ヶ月後、妻は、母親と継父と喧嘩してしまい、家を飛び出した。行くところのない妻はは私と同棲することになった。自立していた兄の所へ駆け込んでも良かったのだろうが、兄にはルームメイト(男)がいて、その男が余り信用出来なかったらしい。兄よりも私を信頼し頼ってくれた妻の期待に応えるしかない私だった。

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