第78話 息子が襲われた?見た目ヤ●ザの父登場

私たちは、日本へ移住してから1年ほどして、最初に住んだ官舎を出て、一軒家に引っ越した。息子が通うインターナショナルスクールにはだいぶ遠くなったので、息子は、もう、ローラーブレード自宅から学校までは通へなくなった。電車と地下鉄を乗り継いで通うようになっていた。我が家から電車の駅までは、いまだにローラーブレードで通っていてた。ある朝、息子が出て行ってからしばらくして、息子から電話がかかってきた。その頃は未だ携帯ではなくphsだった。団地の中をローラーブレードで走っていたら、誰かに、足を蹴り付けられ、そいつの方を見ると、その辺の家の花の鉢植えを投げつけようとしていたと言った。さらに、息子が逃げ出すと、その鉢植えを持って追いかけてきたらしい。息子はローラーブレードを飛ばして、坂を降りて行ったが、この男の足は早かったと言っていた。なんとか、その男を振り切って、姿が見えなくなってから、横道に外れ、普段からちょっとした買い物をしている酒屋の前の小さな駐車場から電話してきた。私は、すぐさま、車に飛び乗ってその駐車場まで降りて行き、息子と合流した。そこで、酒屋のオーナーに事情を説明して、110番通報をしてもらう様頼んだ後、息子を車に乗せ、その辺を車で徘徊し始めた。すると、バスが通るちょっと大きな道路の歩道に若い男が座り込んで、誰かの財布の中身を物色しているのを見つけた。周りには、三台の自転車が倒れており、3人の高校生がその男の行動を困った様に見守っていた。息子が、その座っている男が、息子を襲った男だと言ったので、私は、車を急停車させて、車から飛び出すと、「わりゃー何しょうんなら?」と叫んだ(私が育ったところの標準語、広島弁でした)。するとその男は、私の顔を見て、財布を捨てて逃げ出した。私は、とてもではないが、走って追いかける体力はなかったので、まずは、まだローラーブレードを履いていた息子に後を追う様に言った(後でわかった事実は、この男、高校時代は陸上部だった)。その3人の高校生に都合を聞いて、3人のうちの一人の自転車に、この男が急に飛び蹴りしてきて、自転車を倒し、止まった3人に財布を出させて、物色していたと言われたので、警察を呼ぶ様に言って、男と息子の後を車で追った。その男は、団地の下の、垂直に立つコンクリートの壁が道路に沿って長く続いている方向に走っていたため、脇道はしばらくないので、車ならすぐに追いつくを判断していた。息子に追いつき、車に入れて、また男を追った。しかし、ちょうど男に追いついたところで、バス停から登る長い階段の歩道があったため、この男はその階段を登って行ってしまった。車で遠回りをして、上の団地の道路をややジグザグ気味に走っていると、ジョギング程度の速さで走っているその男を見つけた。歩道を走る男に、車から「わりゃー、止まれ!」とか怒鳴りつけると、その男は迷惑そうに「なんですか?なんで後をつけてくるんですか?」とか、自分が被害者の様な話し方になった。(これを目撃した人は、若者がヤ●ザに言いがかりをつけられて、団地内を追い回されていると勘違いしたに違いないであろうと、息子は思ったらしい。自分でも、きっとそうだただろうと思う。)ある通りに入ると、男は、ポケットにあった物を捨て出した。そして、その通りの家の中に入って行った。強盗に入ったのかもしれないので、車を止めて、しばらくその家からの物音を聞いていたが、何も聞こえないので、警察に電話した。警察は、すでに、最初の酒屋と高校生の110番通報で、このあたりに向かっていたので、10分もしないうちに、二人の警官がやってきた。私達がその二人に事情を説明していると、母親らしい年配の女性が、息子を襲った若者を伴って家から出てきた。警察官の年上の方の一人が、この二人と話し始めた。しばらくすると、今度は中年の男性が家の中から現れて、警官との話に加わった。その警官は、息子に、苦労して大学まで進んだうえ、もうすぐ卒業して社会人になるのに、親にこんなに心配をかけてはいけないとか説教をしていた。若い方の警官と私たちは、そばで見ていただけだった。年上の警官が私のところにやってきて、状況を説明し始めたが、この男は、大学生(それも私の教えていた大学の別の学部の学生)だった。そこで、両親は、朝、男がランニングに行くと言って出て行って、帰ってきた後、高校生を襲ったことなどを話したので、前から、お世話になっていた精神科のクリニックへ連れて行こうとしていたところに、私が呼んだ警官たちがやてきたらしい。年上の警官は、私にこの男を訴えないで欲しいと言い出したが、若い方の警官は、もう一人が聞こえないところで、訴えるかどうかは私の自由だとも言ってくれた。精神的な問題であり、すでに両親は専門医をつけていたと言うので、私は、訴えることをやめて、この男は、両親と精神科に出向いて行った。


その家族が去った後、私に追いかけられている間に、その男が捨てた物を警官と歩きながら回収した、高校生の財布に入っていた学生証やマックやツタヤのスタンプカードとかで、金目のものはなかった。その後、家に帰って、妻に説明をして、私と息子は、職場と学校に遅れて行くことになった。息子から電話が入って、2時間もしないうちに全ては終わったのだが、私に取って、一番やばかったのは、妻に叱られたことだった。まずは、報告が足りない。そして、息子に一人で、この男の後を追わせたことについて、危険すぎると、叱られた。追いついても、十分な距離を取り、私が車で着くまでは、取り押さえる様な真似はするなと言ってあったのだが。これで、終わりとなるかと思っていたが、実は、この話が思わぬ方向に発展して行ってしまった。その話は次回に持ち越させていただきたい。

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