第71話 息子の育て方を間違っていた?

昨年末、孫を連れて、息子が遠くから遊びに来てくれた。正月明けまで滞在した。現在、妻の体が長旅が出来ない状態なので、初めて孫の顔を見せに来てくれたのだった。息子の嫁は、急遽、海外出張が入ったので、嫁を空港まで送り届けた後、一人で車を運転してやって来た。滞在中、息子はよく孫の面倒を見ている事がわかった。食事(哺乳瓶でのミルク)、オムツ、入浴、寝かしつけ等、どれを取っても、全く躊躇えなく、手っ取り早く、スムーズにこなしていた。普段から子育てをしているのが分かった。きっと、嫁がいても、息子が世話する機会の方が多いのだろうと察する。私も息子の世話をよくしていた。昔から、妻は夜、起きるのが苦手だったので、息子が生まれてからずっと、夜間は、私が面倒を見ていた。息子が孫の世話をするのを見ていると、私と同じ感じだった。いや、私よりも、親としてのスキルは上と見えた。息子が生まれた時の私達の年齢に比べて、かなり年をとっている息子の方が、親らしい行いだったとも言えたと思う。妻は息子の歳の半分以下の年齢で母親になったのだから、我々は未熟であった事は間違いない。息子は、私と同じく、やると決めたら、やり通す性格だ。


それは良いとしておいて、私の息子の他人への態度が、時々弾けていたのを目にしてしまった。通常は、他人一般には、礼儀正しく振る舞う息子なのだが、偶に、きつい対応をしてしまう。今回も、孫の事で、妻の意見を聞かず、自分のルーチンを通していて、妻が寝る前に泣いた事があった(孫と息子はもう寝ていた)。私は、息子はもう大人で、我々のいう事を聞く必要はないと思っているのだが、妻はついつい、息子が未だ若かった昔と同じ様に考えてしまう。その頃もちょっとした反抗期や、母親を無視したり、言い返したりする様な事もあり、妻の怒りをかっていたのも確かだった。私と息子の場合も、似た様な意見の違いは生じても、二人で議論していたと言う認識だった為、お互いを罵り合っても、全くしこりは残らなかった。これが、妻となると、そう言う論理的な討論とは呼ばず、争いと受け取っていたのは、今でも変わっていない。泣く妻にハグをして宥めながら、孫の世話はもう我々が口出しできない事だと慰める(?)と、その日は、妻も安心した様に眠りについた。起きたら治っていた。


それよりも気になったのは、ある日、孫の必需品を買いに行った際に、地元のハンバーガー店に行き、夕飯の為に持ち帰るオーダーを待っていた時の話を聞いて、妻と私は引いてしまった。その店では、待っている客に、フレンチフライ(ポテトフライ)を、ただで振舞ってくれる。そのフライを食べながら待ってた息子に店長が、話しかけて来た。遠くからの来客と知り、店長は、フライの味はどうかと息子に聞いた。すると、息子は、まずは、表面の澱粉を取り除くための水漬けの時間が十分でないため、外側が焦げて、くっつき易くなっている。揚げる温度と時間もイマイチで、もう少しカラッと揚げるべきだとか、苦情をつらつらと話したそうだ。店長は空いた口が塞がらないうちに、ちょーどオーダーが上がったので、受け取って帰って来た。これを聞いた妻が、こんな生意気に育ったのは、私のせいだと、私に文句を言ったのは間違いない。前夜の件も、私のせいなのだ。


その話の続きの様な感じで、同じ大学で働く息子の嫁が、息子が担当する大学院生(C国出身)への対応がキツすぎて、この学生が何かヤバイことやるのではないかと心配していると判明した。昨年、別の大学で、この国からの院生が、担当の教授を撃ち殺した事件があった。息子の嫁はは似た様な事が起こるかもしれないので、余りキツく言うなと息子には忠告しているらしい。しかし、息子は態度を変えようとはしないらしい。アカデミックなところでは、妥協しないのが息子の方針らしい。もう、私と妻がどうこう言える事ではないが、育て方を少し間違ったかなとも思っている(いろんなところで私ににすぎていると、私は苦笑する程度だが、妻は、そんな息子が私の性格に似ていることが気に入らない)。


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