第69話 ふざけたテーチィングアシスタント危機一髪
前回は、生徒に私が仕掛けた芝居の話を書いたが、米国では、似たようなことをやる教官もいる。その中で、私の友人の同僚が、学生達に仕掛けた芝居で、本人はコメディーと思っていたが、首になりかけた話を紹介しよう。
私のいた州立大学は、学部生も大学院生も多く、その多くは、リサーチアドバイザーが決まって、その教授の研究費から給料をもらうリサーチアシスタント(RA)になる前には、ティーチングアシスタント(TA)をしていた。TAを使った講義形式は、週に2−3回、教授が大講義堂で500−1000人+もの学生の前で講義を行い、同じ回数の質疑応答のセッションをTAが担当していた。米国の講義は、講義の他に、質疑応答の時間を儲けるのが普通であった。このTAとのセッションで、教授の講義の際に沸いてきた質問をTAに聴いたり、ホームワークの解き方等を習う。TAの中には、宿題として出た課題にクイズやテストの採点をする担当の者もいた。文系の大講義では、何ページものレポートを読んで評価するのもTAの仕事だった。理系でも実験のコースのTAになると、事件レポートの採点をする必要があった。
TAが関わっている講義の試験監督も役目の一つだった。学部一年生物理のTAをこなしていた私の友人と、彼の同僚TAもその試験監督の役をこなしていた。そんななか、期末試験で、彼の友人がTAのリーダーを任されていた。その同僚は、学生達の緊張を解くためにある漫才劇を企画した。彼は、ジーンズの下に運動用のショーツ(英語で言うGym Shorts、ジムショーツ)を履いて、500人くらいがいる試験場の前に立った。そこで、彼は、「みんな、ポーラックはどうやって緩んで踵まで落ちたソックスを引き上げるか知ってるか?」と聞いた。ここで、ポーラックというのはポーランド人又はポーランド系米国人のことで、彼自身がポーランド系米国人なので、使っても良いと考えたらしいが、今では禁止語だ。その頃でも、公には使わない方が良い言葉だった。米国はポーランド移民が多い州がいくつもあり、イリノイ州もその一つだったが、イリノイ住民はポーランド人をバカにするジョークを数多く知っていた。話は少しずれたが、みんな、「ポーラックはどうやって緩んで踵まで落ちたソックスを引っ張り上げるか知ってるか?」と聞かれると、多くの米国人は、このような質問はジョークだと知っていて、「How?」と返答する。テストを受けにきていた学生の多くも、このTAにそう答えた。彼は、「This is how.」と言って、自分のジーンズのボタンを開けて、くるぶしまで下げて、ジーンズの中から、あらかじめ引き下ろしてあったソックスを引き上げた後、ジーンズを元の一まで上げて、ボタンをかけた。彼は、長めのシャツを着ていたので、ジムショーツを履いていたは気づかれなかった。これは、大半の生徒には大ウケだったが、後に大変なことになった。
そのテストの後、何人かの生徒が苦情を言ってきたと、このTAが学科の教授連中に呼び出された。事情聴取みたいなことをされて、大学の学生新聞にまで載ってしまった。彼は、ジムショーツを履いていて、下着姿にはなっていないと弁明し、一緒に監督をしていた他のTA達もそれは証言してくれた。しかし、ポーランド人のことも問題となり、首になるかもしれないと告げられて焦っていた。学科から学部へと問題は登っていき、一応、厳重注意で、首はまの逃れた。個人的には、これは面白いとおもってしまった私だった。
ちなみに、イリノイに住んでいる間、多くのポーラックジョークを聞いたが、中西部以外の州ではあまり聞かない。私が仲良くしていた、技官の男性は、彼の奥さんがポーランド系アメリカ人(2世)なので、いろんなポーラックジョークを知っていた。家で言うと殺されるので、私の前にで披露してくれていた。単純でばかばかしいものばかりだった。たとえば、木の上の片腕しかないポーラックを木から下ろすのにはどうするレバ良いか?これ又、「How?」と返答すると、「手を振れ」と帰ってきた。片腕がないのに、一本の腕で手を振ろうとして落ちてくるからという意味だった。さすがに、こんなのは自分の奥さんには言えない。実は、フロリダ生まれで、イリノイには中校生の時に引っ越してきた私の妻でも、ポーラックジョークをいくつも知っていた。
今では、このポーラックジョークが人種差別になるのは常識だが、その頃はそんなに気にされてなかった。実際に、ポーランド系の若者には、自分達のことなのに、ポーラックジョークを言い放って、友人を笑わせていた者も多かった。自己防衛のようなものだったのかもしれない。他にも、ユダヤ人の友人がユダヤ人ジョークをたくさん知っていて披露していた。妻も、米北部では、南部ジョークで揶揄われたこともよくあったと言っているが、本人が南部人を見下してもいると思う。
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