第55話 犯罪との遭遇、2回目

前回の警察沙汰に出会した話からそれほで経たないうちに、もう一つの警察沙汰に巻き込まれた。私は、今流行りのセンター名の付く研究所に所属しているが、センター長が頑張って10年ほど前に新しいビルが建った。私は、電子顕微鏡の隣のオフィスから移動しなった。他の装置の移動では大変な目にあったが、移動後は、皆、私の周りのオフィスからいなくなっので、オフィスが並ぶ大部屋を勝手に使っている。妻には科学的ゴミ屋敷と言われれるが、装置の備品や修理に使われる大型の工具とかが置いてある。


ここで紹介する話は、新しい建物で起こった盗難事件のことである。前にも書いたが、このキャンパスがある場所はあまり治安の良いところではない。そして、春休みとかが、高校生や中学生が暇になり、悪いことをしにやって来ていた。新しい建物に、私を除く職員と学生が引っ越した後、これは起こった。新しいビルの1階は、私の管理する分析装置が数個入り、それぞれの部屋には、二重のロックされたドアを通らないと入れないようになっていた。2階は、研究スタッフと事務系の職員のオフィスがあり、勤務時間帯は、いつも誰かはいたし、頻繁に廊下を行き来する人間もいた。それに比べ、3階は、3っつのグループの研究室(ラボ)があり、学生の簡易オイフィスがあったが、廊下を歩く人は少なかった。それでも、皆、オフィスのドアは開けっぱなしにしていた。ある春の日、学生とスタッフが、バックパックとアイフォーンやPCが無くなったと、二階のセンター事務室へ報告してきた。私は一階にいたが、清掃のおっちゃんに、怪しい若者が、装置のある部屋に入ろうとしていたが、ドアがロックされていたので、入れず、上に上がって行ったと聞いていた。その清掃員はその男の人相を教えてくれた。別の建物にある私のオフィスへ帰る前に、この目撃された男の事を、事務室へ寄って、報告することにした。事務系のボスのおばちゃんにその話をしに行くと、学生やスタッフの持ち物が三階からなくなったと、すでに大学の警察に連絡していると言った。彼女は私の情報を警察に連絡すると言った。次に、もう一人の若い方の事務の秘書の部屋で、一階で目撃された男の人相を話していたら、彼女が、私の顔を見ながら、指を廊下に向けて差し出した。小声で、その人相の男が、今彼女の部屋の前を横切ったと言った。私は、彼女の部屋を飛び出して、その男の後を追った。追いついてから、この建物で何をしているのか聞くと、誰かを探していると答えた。私がその探している人物の名前を聞いたら、適当な名前を返してきたので、その名の人間がこの建物にはいないと答えた。男は歩くペースを上げたが、私も彼の横に並んで歩いていた。その男は私に、Are you accosting me? と聞いてきたので、私は、 Yes, I am!と答えた。accostingというのは、ネットで翻訳してみると、「(大胆に) 近寄って言葉をかける」とあるが、この場合「大胆に」よりも「攻撃的な」という意味が適切だと思う。警官が職務質問を強制してきたような意味合いだ。質問が終わると、私はこの男の少し後ろを歩いた。その間、何か武器を出す様子があれば、すぐに叩きのめす心構えはあった。その男は、ビルの端まで行き、エレベーターに乗った。私は、一緒には乗らず、彼の視覚から消え、エレベーターが下に降りたことを確認して、大学の警察の緊急番号へ電話し、事情を説明した。その間に、男はエレベーターで一階に降りた後、建物から出て、東へ向けて小走りに移動し始めていた。警察への電話で、その男のことを報告してみると、似たような男が、私のオフィスが入っている別のビルに入り、不審に思われて、通報されていたと聞かされた。すでに、警官が何人かその建物の周りで捜査しているので、この男の行方を電話で通報してくれと言われた。そこで、私に見えた男は、図書館の前を通って、小走りにキャンパスの東へ向かっていると告げた。数秒したら、警官らしい男が二人が猛スピードで図書館の隣をかけて行った。私の役目はそこで終わったので、電話は切った。その後すぐ、この若者は逮捕されたらしい。


翌日、関係者は事情聴取に警察の建物まで来てくれと要望があり、五人くらいが出向いて聴取された。そこで、聞いた話によると、例の若い男は、私の通報で、逮捕され、全て白状したらしかった。彼が、建物の中に入り、盗みをして、盗んだものは、ビルの裏の植え込みや茂みに隠し、仲間が、それを回収するという手筈だったそうだ。彼は、3階で盗んだ物を隠した後、2階を物色しに来た様だった。逮捕後、最初は、何も知らないとシラを切っていたが、実はビデオがあると言われ、全てを認めてしまった。(このビデオは、研究所を建てるとき、このキャンパスで初めて多数の監視カメラを設置した建物としたために得られた証拠だった。しかし、警察にそのことを最初に通達しても、ビデオには何も写っていないと言ってきた。そこで、事務の責任者のおばちゃんが、監視カメラの時刻設定が数時間ずれているということを警察に伝えたおかげで、見つかったものだった。)おかげで、盗まれた物は全て回収された。その中には、携帯(スマホ)とノートブックパソコンが数台と、iPadも何台かあった。3階で働いていたアフリカ出身の学生は、バックパックを盗まれ、その中には、彼女のパソコン、携帯、そしてパスポートまで入っていた。パスポートが返ってきたので、遠くの大使館まで行って再発行する必要がなくなり、大喜びだった。


最終的には、犯人も捕まり、盗難物も全て回収され、めでたしだったのだが、又、無謀なことをしたと妻に叱られた。刃物や銃を持っていた可能性があるからだった。そして、清掃のおっさんにこの男の話をして、アフリカ系米国人の若者がこういう犯罪でよく捕まってしまうのが残念だという話をしていた。しかし、その清掃員は、自分もアフリカ系米国人であるにもかかわらず、きっと母親は生活保護を受けていて、奴には五人兄弟(姉妹)がいて、全ての子が別々の父親を持っているだろうと言った。これは、白人の人種差別主義者がよくいうセリフで、これが黒人から出て来るとは思っていなかった私はとても驚いた。彼は、生活保護を受ける者が住むアパートに住み、隣人はそのような女性ばかりで、彼女らの息子たちのおかげで、アパートの治安も悪くなると苦情を言った。彼は、ニューオーリーンズの出身で、ハリケーンカトリーナのおかげで、移住してきたらしかった。かれは、黒人女性に関してかなりきついオピニオンの持ち主だった。後に、イスラム教徒の関する暴言や自分の上司を脅したととして、解雇されてしまった。

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