第51話 ゲリーの話 II

先日登場した元上司ゲリー、もっと面白い話がもちろんあるのですが、今では、ちょっと危ないような内容のもあります。


ゲリーの奥さんは超有名大学で、研究倫理の判断をするオフィスに勤めていました。実験対象になるものが生物や人間で合った場合には、この研究倫理(リサーチエシックス)オフィスの許可がないと、実験を遂行できません。おかげで、彼女らの判断で、研究費をもらえなかったり、もらった研究費を返さなくてはならなくなる教授達が出てくるのです。こうなると、出世の道から転げ落ちことにもなりかねません。特に、米国大学のAssistant Professorは、6年の任期で雇われ、その間に、十分な業績を残して、Tenure(無任期の雇用)を勝ち取るのです。ですから、ゲリーの奥さん達が研究を却下すると、このTenureを取れなくなる可能性も高くなるのです。


ある日、研究室にいたゲリーに奥さんから電話がかかってきて、彼は「オーノー」(ジョンレンの奥さんのことではありません)を繰り返していました。昼の休憩時間に、家へ忘れ物を取りに帰って奥さんが、メールボックスをチェックすると、そこには、スカンクの皮が入っていたのだそうです。その後、奥さんのサポートにゲリーはすぐに家に帰りました。金曜日だったので、次の月曜日に、話を聞いたら、スカンクの皮は、生の物ではなく、偽物だったようでした。しかし、大学は、これを厳しく受け取り。ゲリーの家に、住宅警報システムの一番レベルの高いものが設置されました。その後、この警報システムが作動するようなことはなかったそうです。しかし、問題は、ゲリーが忘れっぽいということでした。ゲリーが飼っていた猫が、深夜に外でトイレに行きたがるので、その度に、ゲリーは、ドアを開けて、猫を庭に出してやっていました。しかし、時々、猫は用が済んでも家に入ってこないことがありました。ドアから少し離れたところで、ゲリーを見つめていて、いくら呼んでも入ってこないので、ゲリーが捕まえに行くと、ドアがしまってしまうことが何度も起きたのでした。このドア、警報システムの会社のおかげで、閉まると、いつでも鍵がかかってしまうようになっていたのでした。そして、猫を抱えたゲリーはいつも鍵を身につけておらず、家に入れなくなるのでした。ドアベルを鳴らして、奥さんを起こすか、朝まで、猫と一緒に外で待つかの選択を迫られるのでした。奥さんに対して気の弱いゲリーは、できるだけ彼女を起こしたくないので、ドアベルを押すか、どうしようか、いつも迷ってました。ラッキーな時は、夜中にトレイに起きた奥さんが鍵を開けてくれたりしてたそうです。


我が家も、犬達を裏庭へ出してトイレに行かせるのは、私の役目でしたが、我が家のドアは、オートロックではなかたので、同じようなことは起きませんでした。


ゲリーが奥さんに叱られた話をもう一つ。ゲリーは、大学の学部は、私と同じ大学の出身でしたが、私と仕事をしていた時期には、彼の発表した論文がかなり有名になっていました。そこで、ひょっとしたら、この大学の卒業者の中では、自分は2番目くらいに有名かもしれないとか、冗談で言ってました。そこで、私が、「いや、あのフランク・ザッパのアルバムの曲になったエネマ・バンディット の犯罪を犯した奴には及ばないだろう。」と言うと、「そうだった、そんなことがあった。自分が在学中に起こったんだった。」と言って、笑いながら懐かしんでいました。この事件は、若い女性(主に女学生)の住むアパート忍び込み、ロープをでぐるぐる巻きにした後、その女性にカ○チョウをしていた男がこの大学のキャンパスにいたのでした。結局、その男は逮捕されたのですが、エネマ・バンディット というあだ名がついていました。ゲリーは家に帰り、その話を奥さんにしたそうですが、奥さんは、冷たく、「この話のどこが面白いの?」と冷たく返したそうでした。またもや、次の月曜日の朝、ゲリーは、私があんなことを思い出させるから、奥さんに叱られてしまったと私に苦情を言ってました。いや、あの奥さんを知っていて、口を開けてしまったあんたの責任だろうと、私は言い返しました。(この10年以上後、息子が寮に住んでいて、謹慎を食らった時の話を電話で聞いて、笑いながら、妻に話した私への妻の反応が、全く同じ、「その話のどこが面白いの?」でした。)

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