第46話 基礎研究はお遊び?
私は大学院時代と例の大手コンピューター会社の研究所では、基礎研と言われる研究をしていた。物理や化学の分野で、基礎研と応用研究を分けるためには、簡単にいうと、その研究が何年先に実際の製品につながるか可能性があるかという質問で答えられると思う。中には、あんたの研究はいつ実際の製品の役に立つ様になるかと聞かれて、Neverという分野もある。例えば、日本では東京大学のグループがノーベル物理学賞を2回受賞している、かなりの研究費を使い、ものすごくでかいニュートリノ検出施設を立ち上げてた挙句の、結果だ。将来、これが商品につながらないとは言わないが、商品利用としては、なんの役にも立たないかもしれない。2代目のスーパーカミオカンデの建設費は100億円と聞いたことがある(運営費も含まれているかも)。スイスにある超大型素粒子加速器CERNの建設費用は5000億円とか。(ちなみに、日本にこれを超える加速器を作る計画がある。)
逆に、応用化学の分野で、新型のフラットスクリーン(コンピューターかテレビの画面の材料として使用される)に用いられる高分子材料を開発しているような研究は、応用研究または開発の部類に属する。この高分子材料を使って、次世代ディスプレイやテレビを実際に開発するのが工学と言って良いと思う。応用研究と基礎研究と言っても、相対的な話で、中間的な研究もある。基礎研の中にも、二十年先とNeverのような区別もできる。
基礎研究は、やっていることの9割以上が使い物にならないと言えると思う。いや99%と言っても過言ではないと思う。実際の商品になる可能性が1%ほどしかない基礎研究をなぜ行うのだろうかと、一般の方たちは不思議に思うかもしれない。その答えとして、私は、私の所属する研究所を見学に来る人たちに以下の様な説明をする。
それは、米国では比較て有名な、米国の東側から、西へ向けて太平洋岸まで辿り着く陸路を発見したルイスとクラーク探検隊の話をする(1804年に、彼らはセントルイスから出発した)。そして、彼ら以前に、米国がまだ独立直後の13州を思い出す様にという。その13州はほぼ皆、東海岸位位置する州だ。今の、北米大陸を跨ぐ国になるには、西へ西へとの民族の大移動が必要だった。しかし、その東海岸の13州の西側には、アパラチア山脈という連峰が存在して、人々は簡単には、西の平らな大地(中西部)には分け入ることができなかった。アパラチア山脈を東からを見ると、メイン州からジョージア州まで、ありとあらゆる所に山の中に入って行けそうな谷がある。米国がまだ独立する前から、人々は山に入り、西へつながるルートを探していた。どの経路が一番移動の適したルートであるかは、行ってみないとわからない。何百、何千ものトレイルがあるが、誰かが一度は足を踏みれてみないと、それが使い物になるか、ならないかもわからなかった。だから、人々はあらゆるルートを探索した。これが基礎研究なのだ。結果はうまくいかなくても、やってみないとわからない実験は多くある。材料もコンビネーションも、作り方のやりくりも、やってみないと、結果はどう出るかわからない。(最近はシミュレーションも高度になり、予想はだいぶ確立よくできる様になったが。)誰も利用しないルートを探索した冒険家の努力は無駄になったのか?私はそうではないと思う、誰かが、そのルートに入って、あまり旅には向いていないと証明したから、誰もそのルートを使わなくなったのは、意味のある探索だったということだ。
しかし、基礎研究っていうのは、やっている人間にはとても楽しいものだった。
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