第35話 一族の強者(?)#2 従弟
前回はケンカが強すぎる叔父の話を書いたが、私の親族の中には強者は他にもいる。その一人が私の従弟、父の一番若い弟の息子だ。彼の両親は美男と美人の夫婦で、彼も生まれた時から美形だった。しかし、3〜4歳くらいになっても普通に話し始めなかったので、心配した祖母が、ある日突然、私と弟を連れて関西の大都市にある叔父の家まで押しかけた。着くとすぐに、私と弟を残して、孫であるこの従弟を医者(小児科)に連れて行ってしまった。医者には、発達の遅れは、許容範囲でまだ余り心配する必要はないと言われて、渋々帰って来た。この話を帰宅してから知った叔父は、自分の妻である叔母を攻めていた。母親であっても、叔母は、姑には逆らえなかったのに。叔父も祖母には頭が上がらなかったのだし。いつも、おっとりしたように見えた祖母だったが、その時の祖母の行動力には驚いた私だった。実は、祖母は私の母が私を厳しく躾けていたことを放任していたのではなく、影で奨励していたのかもしれない。息子と嫁が従弟を甘やかし過ぎていると思って飛んでいったのだろう。この従弟は、ヤンチャで、我儘なまま成長していた。
小さな会社経営をしていたこの叔父は羽振りが良く、私と弟をいろんなところへ連れて行ってくれた。ある日、叔父と従弟と共に私と弟は京都を訪れて、銀閣寺の廊下を歩いていた。そこで、叔父が従弟を叱り、怒った従弟が砂の庭に飛び降りて、綺麗に盛り上げられ整備された砂盛りを壊してしまった。叔父はなんとかして従弟を捕まえ、抱き抱えて退散した。国宝の一部である砂盛りを痛めてしまった従弟には、さすがの私も驚かされた。
この従弟の逸話は他にもいくつかあるが、その中でも、朝の子供向けのテレビ番組を真似して死にそうになったとこがあった。その従弟の家族は大規模な公営住宅の5階に住んでいて、従弟と妹は遊ぶ相手には困らなかった。ある日、叔母は、二人とも小学生になった従弟と妹を残して、夕飯のための買い物に行った。買い物を終え、帰って来た叔母は、自分が住んでいる建物の前にある公園を見ると、多くの子ども達が何かを見上げたり指差しているのに気づいた。その子供の集団には、自分の娘もいたが、息子は見当たらなかった。そして、子ども達が指差す方向を見上げた瞬間、息を呑んだ。5回と4階の階段の隙間から、自分の息子が、傘を広げて飛び降りるのを見てしまったのだ。後で叔母から直接聞いた話では、その時、叔母は息子が死んだと思ったそうだ。従弟の傘はほんの瞬時の間パラシュートの役を果たしていたが、すぐに逆向きにひっくり返り、従弟は地面に向けて落下して行った。死んだか、最低でも、大怪我をしたであろうと駆け寄った叔母は、砂場に転がった自分の息子の無事を確かめた。すると、従弟は足をくじいたようだったが、血も流していなかった。念の為、病院へ連れて行って検査をしてもらったが、足首の捻挫だけだけで助かった。その夜、従弟はこっぴどく叱られたそうだが、余り効かなかったようだった。
なぜ、そんな無茶なことをしたのかを聞かれた従弟は、その朝の子供番組で誰かが、傘をパラシュートとして高い所から飛び降りるの見たので、自分もやってみようと思ったそうだった。(これが、米国なら、テレビ局を訴えてやるという弁護士はたくさんいると思う。今から10年ほど前に、イラクから国費で米国に来た留学生が、私に、頭の傷跡を見せて、これは子供の頃、ウルトラセブンを見て、自分の家の3階から飛び降りた時に受けた傷だと言っていたことも、これを書いていて、ちょっと思い出した。)
この従弟、高校も卒業できず、自衛隊へ入ったが、逃げ出すとか、どうなるのかと心配されたが、今はちゃんとした職についている。職人肌の職業で、木工に関連しているのは、我が家の遺伝子かもしれない。結婚して子供も二人いる。
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