第21話 また、30代になるまで知らなかったこと。
私は、生物の他に、国語(特に古典系のやつ)とか社会とかあまり本気で勉強していなかった。日本で大学へ行っていれば、学べた常識を身につけずに渡米した。おかで、日本の常識を知らずに30代を迎えていた私が、急に日本へ帰国して大学で働くことになってしまった。
日本語では、手紙を書き始めるのに、拝啓と前略を使うとは知っていた。拝啓の後に、面倒臭いことを長々と書く習慣があり、それは、季節によって変わるようなとうっすら覚えていた。もちろん、そんな洒落た言葉は全く知らなかったので、私の手紙は必ず「前略」で始まった。しかし、私は、前略で始まるのだから、「後略」で終わるものだと思っていた。30年以上の間、この論理が間違っていないと確信していた(今でも、こっちの方が、絶対に理にかなっていると思っている)。そして、いつも、「前略」で始めて「後略」で終わる手紙を送っていた。「前略」で始めると「草々」で終わることを知ったのは、30代にになって、カリフォルニア州サンホゼのジャパンタウンにあった毎週土曜の日本語学校へ、息子と妻が通っていた時だった。そこへ、子供たちを通わせていた日本人女性と、学校のボランティアなどで知り合いになった。ドイツ人と結婚していた、この女性は、私の日本語がおかしいのを察知していて、時々、私に日本語の質問をして来た。そのなかで、「手紙を前略で始めたら、どう終わるのか知っている?」と尋ねてきたので、即答で、「「前略」なら勿論「後略」でしょう!」と自信を持って答えた私に、笑いながら、「きっとそう言うと思った!」と返してきた。周りにいた日本人たちが笑っている中で、もう一人の日本人女性が、「草々」で終わると教えてくれた(彼女も笑っていたが)。これこそ、青天の霹靂だった。(もう一つのショックな事件、幼い頃母に騙されて、ポパイのように強くなると信じて、嫌いなほうれん草を我慢して食べていたのは、自分だけで、3歳下の弟はそんな嘘は信じていなったと知ったのは、これよりも2ー3年ほど後だった。)
後に大学で教官をしていた間、「社会人の常識、、、」とかいうタイトルの本を読んで、面接等に備えて就活準備をしていた学生さん達が、自分達が知らなかった社会の常識を私に教えてくれたり、聞いたりしてきた。社会の常識、知らないことばかりだった。「御社」と「貴社」の使い分けの仕方とか。
最後に、もう一つ、日本の常識を知らず、喧嘩を売っていた話をもう一つ。大学で働き始めてすぐ、研究に必要な実験装置を組み立てるための部品調達に、色々な会社に電話をかけていた。すると、私が「〇〇大学の▲▲ですが、この部品について質問したいのですが、、、」という感じで、電話すると、「〇〇大学の▲▲様ですか?いつもお世話になっております、、、」という返事が返ってきた。「いつもお世話になっております」と初めて話す人間に向けて言うとは知らず、こいつ、同じ大学の別の誰かと間違っているのだろうと思った私は、「いいえ、今回、初めて電話しますので、あなたの世話とかした覚えはありません。」と答えていた。それが、何度も起こるので、ついに、学生さんに聞いてみたら、「いつもお世話になっております。これは社会人のエチケットです。」とか言って笑われた。向こうは、大学には変な先生がいるもんだと思っていただろう。
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