第6話 いいえ、でも、あなたには全く似てない!

未だ、息子が幼かった頃、私たち家族が住んでいた所は大学の既婚者用のアパートだった。ある日(イースター、復活祭)だったと思うが、妻の知り合いの日本人の友人が旦那さんと昼食に来る予定だった。息子は3歳か4歳くらいだったと思う。私と妻が昼食の準備をしていると、息子がプラスチック製のシャボン玉を吹くパイプを咥えたまま、ソファーで転げた。そのパイプが口内の上部に傷をつけてしまった。来客があるので、私が一人、息子を大型病院の救急室へ連れて行った。診てもらったら、傷は深くなかったので、大事には至らなかったので、ほっとした。


そこで、息子を担当してくれた若くて可愛い看護婦(看護師)が診察の合間に、「彼はおあなたの奥さんにそっくり。」と言ったのが少し気になっていた。それから、同じことを二度も私に話しかけてきたので、診察後に言われた時には、「何度も、息子が妻に似ていると言うけど、君は、私の妻を知っているの?」と聴いてみた。年齢的には私の妻と同じくらいだったので、同じ高校にでも通っていてたとしても不思議はなかったので。すると、その看護師は、「いいえ、知らないわ。でも、あなたの息子は、可愛くて、あなたに全く似ていない!」と言い返してきた。心の中では、「なんだと、このやろう!」と思ったが、できるだけ早く帰りたかかったので、適当に笑って救急棟から出て行った。


その頃の息子は、髪の毛が金髪で、肌も白く、顔つきも、よく見ないと、アジア人の血が雑ざっていると見えなかったので、あの様な対応になったのだろう。しかし、それから直ぐ、又、似た様なことが起こってしまった。その日は、妻が、講義を受けている間に、大学のキャンパス内で息子の子守りをしていた。校内を流れる小川の側で、息子が水に石を投げているのを見守っていると、警察のパトカーが止まり、若い警官が窓を開けて、「彼は、あんたん息子なのか?」と話しかけてきた。私は、「そうです。私の息子です。」と告げたが、あまり信用していない様に見えた。そこで、息子が振り返り、「ダディー」と言って走ってきて、私に抱き付いたら、その警官は、「Have a good day!」と言って、去って行った。この時、息子が、変な態度を示したら、もっと職務質問されていたのだろうと思った。


警官が気にしたのは、米国では誘拐事件は割と頻繁に起こっていたからだったのでだろう。しかし、カリフォルニアへ引っ越してからこの二つの話を友人にすると、人を見た目で判断する奴らに、彼はかなり怒ってしまったことがあった。彼には、もっとひどい話があったが、その話は次回となります。

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