第2話 俺の息子は天才

私の母親はかなりせっかち(短気)である。私たちが、日本へ引っ越してきた後、我が家に遊びにきているとき、妻が2000ピースのジグソーパズルをやっていたのを見て、一緒にやっていいかと妻に聞いてきた。妻は、もちろん、構わないので、妻の反対側を担当して欲しいと言って、自分の部位に集中していた。しばらくして、母の姿を確認すると、あってもいないピースを無理やり鉄槌で叩き込んでいたそうだった。はっとして母が担当していた辺りを見てみると、そこは平らではなく、ゆっくりとした凸凹があった。母はほとんどのピースを無理やり押し込んでいたようだった。これを見て、妻は、私の性格が少し理解できたと言っていた。


それ以前に、母のせっかちさは発揮されたケースは何度もあった。まだ、私達が米国に住んでいたとき、朝の2時ごろ電話がなった。時差にすると、日本は午後4時位だったはずだ。私が出てみると、それは母からだった。妻は半分寝ぼけていたが、私が、母からだと告げると、何か緊急事態なのかと、心配して、眠気が覚めたようだった。母と私の会話は、4歳になった私たちの息子の教育をちゃんとするようにと言う内容だった。米国生まれの孫のことを考えていたら、いてもたってもいられなくなり、電話してしまったらしい。朝の2時に我々を叩き起こして説教するような内容ではないと思ったが、そこは、アメリカンジョークで返すことにした。「心配することはない、うちの息子は天才なんだ!」と私が言うと、母は、期待した様に、本当なのかと聞いてきた。そこで私は、「〇〇(息子の名前)は、4歳でもう英語が話せる。自分は、アメリカでホームステイして高校へ行くまで、英語はほぼ話せなかった!奴は天才だよ!」と言うと、母は一言「バカ!」と言って電話を切った。それ以来、朝の2時に電話はかかって来なかった。ちなみに私の妻は米国人で、その頃、英語しか話さなかったので、私も、ほとんど日本語は話していなかった。後に大学で、日本語のクラスを取り始めた妻が、息子に日本語を教え始めた。カリフォルニアに引っ越してからサンホセで土曜日に日本語教室へ通よわせたのも妻だった。母親譲りで、せっかちな私は、誰にも日本語を教える気にはならなかった。同じ内容を日本語と英語で話すほど無駄な事は無いと思っていた。

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