物語の舞台は現代のアメリカのような国ですが、人間のいない、エルフやゴブリン、吸血鬼といった種族の暮らす世界です。
その世界らしい種族差別や貧富の格差、現代のような社会問題もありますが、やっぱり少年少女にとっては友情に恋といった人間関係、青春の悩みが大きいのです。
エルフに育てられたゴブリンのウィリアム、ゴブリンに育てられたエルフのビアンカ。
紳士を信条とする優等生とスラングだらけの問題児。
正反対でよく似た境遇の二人は、衝撃的な出会いから始まって、相棒として補い合い、そしてかけがえのない存在となっていきます。
二人とも家族や友達を本当に大切にしているのが台詞や地の文から伝わってきて応援したくなります。
その善意がクラスメイトにも広がっていく様にも心が温かくなりました。
多彩な文章表現が青春の華やかで悩ましい心情を細やかに描いており、惹き込まれます。
個性的な世界観が楽しい、真っ直ぐで王道のラブコメです。
人間の代わりに様々な種族が暮らす現代アメリカ風な世界。そこの名門校プラード・アカデミーに通う、ウィリアム・ハートフィールドはこの学校唯一のゴブリン。時には周囲から差別的な扱いも受けるが、エルフの義両親に育てられた彼はそんなことではへこたれず、立派な紳士になるべく日々努力している。
このウィリアムが、エルフでありながらゴブリンを自称する問題児ビアンカ・バルボアのエスコート係を命じられたからさあ大変。種族も性格も正反対の二人の学園生活がここに始まる!
人種差別やそこから生じるスクールカースト、生まれや育ちによる価値観の相違など、現実世界にも存在する問題を、ファンタジーの種族を使ってフィクションに落とし込む手腕が上手く、学園ものながら日本の高校生が主人公の物語とは少し違うユニークな読み口に仕上がっている。
そして本作はキャラクターがとにかくいい! 紳士なウィリアムと喧嘩っ早くてスラングまみれなビアンカは、一見正反対に見えるが、それぞれがしっかり他人のことを思いやれる気持ちの良い性格をしている。時には教室でクラスメートと衝突することもあるけれど、読んでいく内に自然と二人の学園生活を応援したくなる内容になっており、青春小説が好きな人にはぜひ手に取ってもらいたい一作だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)