物書きじゃないけど、書かせてくれないかな

@tukumojuke

第1話

 僕は別に小説を書くのが得意というわけでもなく、他人を観察することが趣味でもなく、むしろ見ず知らずの他人にはほとんど興味もないほうで、それは知人や友人に対してもそうで、興味はないくせに人見知りだし、もっと言うと他人の気持ちを考えることほど苦手なことなんてない。あと、物事を深く考えることもさほど得意ではない。

 今、これを書いているのはたまたまお酒が入っており、昔文芸部に入っていたことを思い出したからでもあり、かつて自分が書いた小説のようなものを現在の自分が書けるだろうか、と自問自答した末に、まあ書けないだろうけど、現在の自分が書いた文章にもちょっと興味があるな、と思ってしまったからだ。

 だからここに展開されるのはただの文章の羅列に過ぎない。

 うん。

 というのは嘘だろうな。僕にとっては現実にあった出来事なのだから。いや、本当に。小説というのは、その作者にとっては現実で、読者にとってもおそらく現実に起こっている出来事が書かれている…のかも。違うかも。

 えーと。

 あれは今日みたいな、じめじめした梅雨の日だったっけ。なんだかもう記憶が定かではなくて申し訳ないのだけれど、なにせ10年以上前の出来事だ。あまりにも周囲に興味がなさすぎて、生まれてから今までの記憶がほとんど欠落している僕に10年前の出来事を思い出せというのも無理な話なので、正確な説明を求められてもそれは丁重に無理ですと言うしかない。

 そう、おそらくは梅雨の日だったと思う。いや、個人的に曖昧さというものは文章表現でもっとも慎むべきものだと思わなくもないけれど、酒を飲んでいるんだから許してほしい。そうでなくても記憶力がないのに。他人に興味がないせいで。

 これから僕が語ろうとしているのはその他人の話なのだ。うーん、嫌になってしまうな。話さないでもいいかな。話さなかったらどうなってしまうんだろう?いつになっても始まらない物語、ということになる。それもいいかもしれない。ボーイミーツガールの話がとてもしたかったんだけど、始まらないボーイミーツガールもいいかもしれない。よし。とりあえず、1話はこんなところにしておこう。

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