花の名前

羽入 満月

花の名前

 校庭のすみにある、一番大きな木の下の日陰に服が汚れるのも構わずに座り込む。

 いわゆる、体操座りってやつ。

 校庭で遊ぶ人たちを眺めながら、私は膝の上に顎を乗せる。


 さらさらと風が吹くと頭の上の葉っぱがざわめく。

 このまま居眠りできたら気持ちいいだろうな。


 そんな気分にはなれない。

 ため息をついたって、気にかける人はいない。

 反応をされても困るだけだから、いいのだけども。


 ふと、隣をみると小さな花が咲いていることに気がついた。

 小さな花びらが5つに別れていて、薄い紫色のその花は、花の真ん中が黄色くなっている。


 その花の名前を私は知らない。


 よくみる花だが興味なんてなくて、名前を調べてみようなんて思ってもいなかった。


「私と一緒だね」


 そこにいても興味がなければ、いないのと一緒。

 誰にも気付かれる事なく、ただそこに在るだけ。

 私も「いるけど、いない」存在だから。


 風が吹く。

 花びらが揺れる。


 まるで私に同意するようにうんうんと頷くように。


「ふふっ。花に話しかけてるなんて、おかしなやつだってまた言われちゃうね」


 今度はきっとサイコパスって言われるのかな。

 あの人たちは、新しく覚えた言葉を使いたがるから。


 ツンツンと花びらをつつく。

 やめて、と言わんばかりに花びらが震える。


「きっと、お前なんてあっちにいけって思ってるよね」


 隣に突然誰かが現れたら、私ならそう思うから。


 いつもいた君がいないだけ。

 まだ、一人でいることにまだ慣れないだけだと自分に言い聞かせる。

 しかし、いくら言い募ったって、今は変わらない。

 君が隣に座ることは、もう二度とあり得ないのだから。


 どこかから歌が聞こえる。君が好きだった春の歌。

 楽しそうな笑い声が聞こえる。

 私の気持ちは置き去りで楽しそうに歌う声を聞きながら考える。


 生まれ変わったら貴方になりたい。

 美しく咲いて、散っていく貴方に。


 きっと一人でも大丈夫でしょう?

 孤独という言葉を知らなければ、幸せな一生を送れるでしょう?


 例え綺麗ね、素敵ね、って言われなくても、邪険にはされないでしょう?


 誰も私の事を気にかけないけど、私はあなたを連れてはいかない。

 あの子が私を置いていった孤独が、あなたがいなくなった時にまた帰ってくるといけないから。


 立ち上がって服の砂を落とし、私はあなたに別れを告げる。


「私の気持ちなんてわからないでしょ」


 私の言葉に花びらがヒラリと一枚、落ちたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花の名前 羽入 満月 @saika12

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説