地下進数
@yoleafy
地下進数
八本足のクモが、巣で獲物を満喫したあとでした。
クモの足は八本もありました。ほかの虫のおともだちの足は六本。たったそれだけなのに、クモはいじめられております。
「や~い、八ツ橋ちゃん。おはしおなじくもてるかな?」
「や~い。ひきこもってないで。はやくランプの光においでよ」
と、がくんにもばかにされます。
八ツ橋さんの巣には、雨つぶがついていて、彼女は少しうるりとつぶやきました。
「わたしも、あいつらより少ない足だったらよかったのにな」
「う~ん、やっぱり多足類は違うね」と、とつぜんの声がしました。
「多足類? 足がみんなより多いということなの?」
ふと我に返った八ツ橋さんは、はっと驚きました。
「ムカデだよ、ぼく」
八ツ橋さんは、おしりの糸をだしつつムカデさんと上下さかさまに顔をあわせました。
だいだい色の頭に、ピクピクと踊る触覚。
自分の二倍はありそうな身長に、もぞもぞ動く短めの足。
八ツ橋さんは、いいます。
「こ、こんにちは。……食べるの?」
「いや、べつに。ただちょっと、君をテストしようかと思って」
「テスト?」
「別に難しくないけど……じゃあ君、dはなんて読む?」
「で、……ディー? なんなの、それ」
「しっか~く。でも、そのことばはステキだよ」
「だから、なんなのって!?」
「さっきの『多足類』も、きみには当てはまらないハズなんだけどさぁ……」
「じゃあ、あなたの足の数は?」
「42本ってとこかな」
「では、わたしの足の数はいくつ? だせるの?」
「8だよ。きみなら、6の虫けらよりはエライかもね」
「エライって……じゃあ、ニンゲンはどうなの……」
「
「それじゃなくて、ニンゲンは君より弱いの?」
「そうじゃなくて、その~つまり、僕たち、この辺でおわりなんだよ……死ぬんだよ」
えっ、といおうとしたそのせつな、地上にどこんと衝撃が走ります。八ツ橋さんを支えていた糸も、あっけなく切れて地面へボトリ。
地面の裂け目ができたと思いきや、そこからモグラが顔をひょいと出しておりました。
はがねの糸のようなヒゲに、こげ茶色がこんな雨の日によくにあいます。
「あれ、もうできたの、早いね」
「トンネル掘ったところ。中はエモノでいっぱい。悪くはないだろ?」
「~うん。ちょっといつもの好みと違うんだろうけど。そうだ、そこのキミ。ついでだから、君も参加してくれないかな」
「えっ、わたしが? 何を」
「地下のトンネルさ。なあに、別に心配いらんぞ」
「どうやって入れば」
おなかをすかし、同じようなことしか言っていない八ツ橋さんに気が付き、ムカデがいいました。
「心配はむよう。ただ、彼が出てきた穴に入って、ついていくだけでいいんだ」
「はやくしようぜ、おやっさんども。もう俺帰るぞ」
「あっ、だめ!」
自分の大声に、八ツ橋さんさえもおどろきました。
「君、ちゃんとわかってる? 遊びじゃないんだぞ……」
「うんもちろん」
「もう一度」
「もちろん」
するとモグラは、するすると自分の穴へもどりました。
「どうするの、君も行くんでしょ」
地下にはミミズがたくさん、0本がたくさん。そして、ムカデは誰を食べるのでしょう。
「なんだか、わたしのダンナも食べたのにすぐまたお腹がへって、ペッコペコだよ」とクモの八つ橋さん。
「じゃあ行こう」とムカデ。
「うん」
二匹は連れそって、穴へもぐっていきます。
「よし、いる、いるぞ、雨だからよくいてやがる」
と、モグラは叫びました。
まわりには、ミミズがいっぱい。足のない0のミミズは、振動をたよりに生きていくだけです。モグラにとっては、レストラン。
二匹は気づいてはいないはず。
いえ、一匹だけです。
「0が二匹、あああと九匹、そしてしょぼいのが2匹、そのうち42が一匹、8が一匹でメスで腹ペコ、これは最後に取っておこうぜ、ヒトが使うは十進数、両手で使うは十本指、クモは八本八進数、さて、もんだいのムカデは42本の足だから42進数、理論的には。しかしそれだと俺が主人公になれない、オオトリだ」
トンネルのいちばん先には足のないヘビが待ちかまえ、モグラと正面衝突するでしょう。ヘビといっても、毒ヘビです。モグラは先手必勝、あっさりと勝つつもりでいっぱいです。
でも、その前に――。
「2シンスウ」
「一匹ムシャリ!」
「二匹目
「二匹目ムシャリ」
「三、匹、
「三匹むしゃり」
こうして、十本指のモグラは0のミミズを
「つぎは、誰の番かな」
と。
完
地下進数 @yoleafy
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