後編
光と闇…光があるから影が生まれ、闇があるから光が際立つ。
この世界で絶対的に対を成すとでも言えるであろう2つ。だが、対を成すということは、状況的には、大問題に発展することでもあり、存在的には孤立しても、問題ないということである。
梅田菜奈は、ため息をついていた。それもそのはず。なぜなら、ここ1週間と2日程、親友・森田蓮と会っていないからである。
菜奈(蓮、どこにいるの? この藁人形、元々蓮が渡そうとしてくれた物なの?)
菜奈の鞄の中には一つの藁人形がある。以前、菜奈がいつの間にか所持していた物でこれが何かよくわかっていない。が、菜奈は、蓮が自分にこれを渡そうとしていたんじゃないか。と考えている。
菜奈(この前の女の人に聞きたいけど、、、どこにいるかわからないし。)
菜奈は、自分の手にチラシを持っている。大見出しには、『この人を探しています。』と書かれている。そして、チラシの写真にある女性の顔立ち・記載された身体的特徴はどれも、菜奈に蓮の御守りを渡してくれた女性と瓜二つである。
菜奈(あの女の人は行方不明者の
そう考えを巡らせていると、
プツンッ//
菜奈「えっ!?」
突然停電が起こった。起こった。だけなら、、、
起こっただけなら、どれほど良かっただろうか。気付いたときには、もう…遅かった。
見回すと、教室には、菜奈以外誰もいない。授業を執り行っていた、担任も、受講していた他の生徒も、いない。それに加え、時刻はまだ正午前のはずなのに、深夜の如く外が暗い。
菜奈「まりも、綾香、圭介、みんな、、、みんなどこ?」
困惑を隠せない菜奈はあたりを見回す。すると、廊下に見覚えのある人影…
菜奈「蓮!」
菜奈は、席を立ち廊下まで走って向かう。
菜奈「何処行ってたの‼ 心配したんだ……よ…。」
扉を開けるとそこに蓮の姿はなかった。
その代わりと言うべきか、否か。隣の教室は、アパートの角部屋のような構造で物理室があるのだが、その物理室の扉には、黒い字で大きな…落書きとも思えないものが、書き込まれていた。
『
菜奈「な、何、、、コレ」
菜奈はこの文章に驚いて足を震わせている。が、後ろから足音が聞こえる。
菜奈「ッ‼!! 蓮!」
そこには、蓮にそっくりな後ろ姿。
すぐに蓮の下に駆け寄るも、蓮は幻影のように消える。
菜奈「蓮! 何処なの⁉」
菜奈は、蓮に呼びかける、すると、声が聞こえる。
菜奈「蓮?????」
さっきとは、逆方向の女子トイレから聞こえてくる。
なんと言っているかは分からないが、おそらく、菜奈を呼ぶ声。
女子トイレの入り口へとシャンとした姿勢で向かう。
菜奈「この藁人形、蓮が私に渡そうとしてくれたの?
…私、もっと蓮と話がしたいの。だから… 」
菜奈「開けるよ……?」
そうして、菜奈は女子トイレの扉を開けた。そして入っていった。
何が起こったのだろうか。菜奈が女子トイレに入ってから1秒もしないうちに扉の奥深くの闇から、蓮が出てきたのだ。焦点の合っていない眼から、血が流れた痕。肌は薄黒く、全身墨を塗りたくったような色。
蓮「
蓮「…あれ? 言葉…が、 …戻った?
あぁ、、、あぁぁぁぁぁ、、、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
蓮は、何に絶望したのだろう。悲鳴にならない悲鳴を上げ彷徨い歩く。
その後、菜奈は行方不明となった。蓮との再会を果たす為、トイレの中へと足を踏み入れた、、、 はずだった。
菜奈「蓮! 何処なの⁉ 何処にいるの?」
トイレだと思っていたそこに広がるのは、廊下の景色だった。
そして、後ろから菜奈に忍び寄る影。
だが、それは蓮のものではない。
菜奈がそれに気づいたときは、
菜奈「…ッ⁉ キャアァァァァァァァァァ」
もう手遅れだった。
菜奈は何者かに襲われた。左眼を釘で潰されたのだ。
ここは外の世界から来た人間にとっては、危険そのものである。
菜奈「逃げなきゃ…」
明かりがない為、菜奈はスマホのライトをオンにする。
菜奈「ッ! キャッ!!」
ライトをオンにした途端、菜奈はスマホを投げ出してしまい、その拍子にスマホの画面は割れ、光は消えてしまった。
菜奈「光が…怖い? どういうこと?元の学校だと暗いときの方が断然怖いのに…」
菜奈は内心焦っていた。目の前に広がる闇に対し、恐怖で覆い尽くされているはずの自分の中に、妙な安心感があることを…
この世界に馴染み始めている自分を…
菜奈「探さなきゃ…… 出口を…」
そして菜奈は、手がかりなんてないまま、歩き続けた。
歩き続けた… 歩き続けた… 歩き… 続け… た。
そして… 遂に… 絶望した。
彷徨い続けて、どれくらい経ったのだろう。語り手として、彼女の行動を見守る…… いや、傍観していても気が狂う程にどうしようもできない。
だが、そんな彼女の目の前に味方が現れる。
「ペタ… ペタ… ペタ…」後ろから聴こえる足音。
振り向くと、そこには、見覚えのある顔の女性がいた。
菜奈はその女性に尋ねる。
菜奈「宇都木翠さん? どうして… ここに?」
そう言いながら、宇都木翠は、闇に消えてしまった。
菜奈(何を私に伝えようとしていたの?)
そしてまた、菜奈は途方もない闇の中を彷徨い続けた。
そして、おそらく、本来の学校だと、演劇部の部室にあたる部屋に到着した。
その扉には大きな紙が貼られており、そこにはこう書かれていた。
『おむぁえ言葉には、規則性がある。』と。下には次の様な表があった。
『あ…あ い…い う…う え…え お…お
くぁ…か き…き く…く け…け くぉ…こ
すぁ…さ すぃ…し す…す せ…せ すぉ…そ
つぁ…た つぃ…ち つ…つ つぇ…て と…と
ねぁ…な ねぃ…に ぬぅ…ぬ ね…ね ぬぉ…の
ふぁ…は ひ…ひ ふ…ふ ふぇ…へ ふぉ…ほ
むぁ…ま むぃ…み む…む むぇ…め むぉ…も
ゆぁ…や ゆ…ゆ ゆぉ…よ
るぁ…ら れぃ…り る…る るぇ…れ るぉ…ろ
うぁ…わ うぉ…を ぬ…ん 』
これが、この世界の言葉である。この世界の住人はこの言葉で、会話や文章を構成しているのだ。
菜奈がこの表に目をやっていると、後ろから声が…
先輩「そこに誰かいるの?」
振り向くと、そこには、下を向く演劇部の先輩がいた。
菜奈「先輩⁉ 先輩もこっちにいたんですね……」
先輩「菜奈……ちゃん? そこに…いるの?」
そうして、先輩は、頭を上げた。
……そこには、両目を潰され血の涙を流す無惨な姿の先輩がいた。
菜奈「あぁ、先輩、両目を… 私も片目を潰されました。」
先輩「傷が…傷が痛い……。」
菜奈「保健室から何か持ってきます。」
そう言い、菜奈はその場を去ろうとした。その時、
「ガシッ」
菜奈「!⁉」いきなり先輩が左腕を掴んできた。
先輩「おね…おねがい…菜奈ちゃん。 独りにしないで。」
菜奈「わかりました。しっかり捕まっていてください。」
菜奈は、先輩の願いを了承した。
すると、先輩は、菜奈の知らない情報を話し始めた。
先輩「いままで、何人もの人が行方不明になっていたでしょ。皆こっちの世界に来ていたの。まだ生きていた人達は野ネズミや昆虫、先に死んだ人達の肉で、飢えをしのいでいたの。」
まるで耳を塞ぎたくなるようなとんでもない情報。コレに絶句している菜奈を無視して先輩は話を続ける。
先輩「皆なんとかして生き残ろうと必死だった。でも、助かった人はほんの一握りだし、それでも、ここから出れない。そして、死んだ人は、
死んだ人は……… 」
段々と先輩の様子がおかしくなっている。でも、前に進むことしかできない…そんな中、先輩に異変が起こった。
菜奈「え? 先輩?」
先輩の言葉に息を呑む。
先輩「ゴホッ ゴホッ つぉ、突然、言葉が、おかしく…」
菜奈「先輩…しっかり。」
先輩「菜奈ちゃん、 あっちに光が見える。」
菜奈「え?」
先輩の一言に菜奈は驚いた。
先輩「何も、何も見えないの。でも、わかるの。あっちの方に明るい世界が見える… おねがい、私の代わりに、菜奈ちゃん、行って」
先輩は、菜奈の背中を押した。
菜奈「はい、 わかりました。」
そうして、先輩の指差す先へ向かおうとしたとき、
振り返るとそこにはもう、先輩の面影はない、別人がいた。
菜奈「むぃぐぁうぁるぃ? むぃぐぁうぁるぃって…身代わり?」
遂に気づいてしまった。
菜奈「私が⁉ 誰の?」
そう言うと、先輩は姿を消した。
菜奈は膝から崩れ落ちた。蓮が自分を身代わりにした現実を受け止められていない。いままでの、蓮との思い出が蘇る。
菜奈「蓮が私を身代わりになんて、そんなはず…… ない。」
だが、菜奈は涙を浮かべた目をこする。
菜奈「蓮に… 会わなきゃ! 会って、話さなきゃ!!」
菜奈は前を向き直し、歩み始めた。
そして、菜奈は遂に先輩が指し示した場所へたどり着いた。
そこは体育館通路の入り口であった。その扉には『
菜奈「現世!! ここから…帰れる!」
菜奈は、口角を上げ笑っている。そしてその扉を開け、教室へと足を踏み入れた。体育館へと入ると、どこか空気が違う。何か懐かしい気がした。
菜奈「…ッ!!」
ハッとした表情で、小走りになってギャラリースペースへの階段を登る。
空気の流れに沿って足を動かす。
菜奈(思い出した! 体育館に一箇所だけ、なんでこんなところにあるのか分からなかったけど!)
菜奈は思い出したのだ。体育館の上の方にあるギャラリースペースの通路にこっそりと不自然に設置された鏡『心境』を。
階段を登り終えると、ギャラリーの床にはこう書かれている。
『くぉくぉぬぉ
その言葉を見て、菜奈は鏡の下へと走った。
菜奈「これで… 帰れる!!」
菜奈は、喜びを噛み締めた。あと大股3〜5歩で鏡に着く。
が、その
「バリンッ」
菜奈「……えっ? ……鏡が… 割れた…?」
菜奈の目の前で鏡が割れた。 菜奈は絶望に打ちひしがれた。
菜奈「そんな、せっかく… 先輩が…助けてくれたのに…
そんな、そんな… こんな、怪我をしていて、不衛生で…こんな場所で生きれるわけ…ない。」
すると
「
菜奈「ヒッ!!!!!!!!!!」
菜奈の周りには、この世界の住人が菜奈を取り囲んでいる。
住人達は菜奈の体に纏わり付き、首を上に向くことを強いた。
そして、菜奈のもう片方の眼にも釘を突き立てた。
菜奈「あぁ… あぁぁ…」
菜奈の眼にどんどんと釘がめり込んでいく。
菜奈「
夜の体育館の鏡の奥から、悲鳴がこだまする。
逃れることなんて、できない。闇世に呑まれつぁ者ふぁ、逃るぇるくぉつぉふぁ、づぇくぃぬぁい。私ぬぉゆぉうねぁ、くぉぬぉ
おっと、失礼。口が滑りました。
その後、蓮はというと、菜奈の失踪から一週間後、女子トイレの個室から、遺体で発見された。そして、菜奈は……
闇世の住人になることを拒み、今もこの世界を彷徨っている。
皆様も、闇世に呑まれぬよう、お気をつけて。
完
心鏡怪談 テラホラ拓也 @toyo0706
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