心鏡怪談

テラホラ拓也

前編

 光と影・表と裏・安心と恐怖・法律と犯罪・この世とあの世・天国と地獄・炎と水・大空おおぞら大地だいち。世界には様々なついになる概念が存在する。そして人は皆、どちらか一方を選ぶ事が多い。というか、そういう生き物なのかもしれない…。

 高校1年生の森田もりた れんは、ここ 

秀才大学付属秀才八百万中学高等学校しゅうさいだいがくふぞくしゅうさいやおよろずちゅうがくこうとうがっこう》の五年生。中学は別。高校入試で外部受験により合格し、二年もの間ここに通っている。

 菜奈「蓮〜、一緒に帰ろう!」

・梅田 菜奈。蓮のクラスメートにして、親友。

加えて、二人とも、演劇部。

 蓮「いいよ」

今日は部活も休みなため、二人は早下校はやげこうの帰りの支度をしている。

 先生「最近、悪戯をする奴がいる!心当たりがあるやつは、早めに名乗り出たほうがいいぞ〜。」

この学校では、最近、壁に落書きがされている。どれも、文字のように見えるが読むことはできない。そして、この落書きのほとんどが窓や鏡にされている。この学校は「エリートの育成」という建前の教育方針のもと、心の身だしなみまで意識するために教室や階段の踊り場に1枚ずつ鏡が置かれている。その鏡を学校の人間は「心鏡しんきょう」と呼んでいた。

 蓮「この鏡の落書き、消えないね」

蓮は菜奈に話し掛ける。すると、菜奈は下をうつむいて、

 菜奈「ねえ、これ、鏡の裏から書かれてない?」

 蓮「???」

蓮は一瞬、理解ができなかった。そして、鏡を見返すと、どことなく、反転した文字に見える。

 菜奈「私ね、見ちゃったんだ。」

 蓮「…へっ!?」蓮は息を飲む。

 菜奈「昨日、忘れ物に気づいて戻りに行ったんだ。そしたら…

鏡の中にが写っていたんだ。まるで新聞紙を燃やして出る灰や、習字の授業で使う墨を塗りたくったような

 蓮「はは、い、嫌だな〜。怖がらせようとしてるだけだよね?」

 恐る恐る尋ねる蓮。すると菜奈は…

 菜奈「ごめん私も怖くなっちゃって、つい…」

と、蓮に抱きつく。

 菜奈「早く帰ろ。」

二人は抱き合っていたので気づいていなかった。心鏡の中から、が出てきていたことを…。


 次の日

菜奈は部活終わりに倉庫で、今度の文化祭の劇で使う道具の予備チェックをしていた。すると、扉から蓮が入ってきて、

蓮「菜奈〜、お疲れ様〜。一緒に帰ろ」

菜奈「うん、待ってて。あと2分で終わるから。」


  2分後

 菜奈「ごめん、お待たせ〜。じゃあ、荷物取りに行こ。」

菜奈が蓮に話し掛けると、蓮は菜奈の左腕に抱きついた。

 菜奈「えっ!? ちょ、蓮…?」

 蓮「ねぇ、ここ、薄暗くて‥怖くない?」

お化け屋敷も平気な蓮が、暗闇に対し、恐怖で震えている。

 蓮「は、早く ここから出よ?」

 菜奈「え? あ、うん…」

 蓮「私、暗闇が怖いの。」

倉庫に窓は無い為、パッと見だと時間の把握が難しいが外に出たとき、月が出てるものの、まだ鮮やかな夕焼けが明るい。しかし、蓮はまだ震えている。

 蓮「菜奈、お願い…ここから出して。」

異様に怖がる蓮の様子に、菜奈にも恐怖が伝染している。震えが止まらない。

 菜奈「もう少し、もう少しで部室だから。落ち着いて、蓮…。」

そして、部室に、戻ってきた二人だが、部室に着いても尚、蓮は菜奈の腕にしがみついている。

そこへ、先輩が来て、

 先輩「菜奈ちゃん、お疲れ様!」

 菜奈「お疲れ様です。」

 先輩「あ、そういえばさ、蓮ちゃん、なんで今日来ていないかわかる?」

 菜奈「…へ?」

 一瞬で言い切った先輩の言葉に頭が追いついて行けてない。何故か、それは勿論、目の前に本人がいるにも関わらず、いないなんて。無視するにも程がある!

 菜奈「えっ…と、何を言って?蓮は此処に…」

 菜奈はもう頭が回らずにいた。だから周りがどうなっているのか気づいてない。いや、菜奈と先輩の間だけ時間が止まっているとでも言おうか。

 るぇね「あ…あぁ…あっ」

さっきまで菜奈の隣にいた蓮とは似ても似つかぬ姿。肌は煤を塗りたくったように黒人よりも真っ黒で、白目を向けながら血の涙を流している。

 るぇぬ「どぁ〜すぃて、ぇぇぇ〜」

 菜奈「あれ? 私‥蓮と、確かに…」

すでに蓮はいなくなっていた。

 先輩「菜奈ちゃん、大丈夫?」

 菜奈「えっ? っ! …はい。」

 先輩「あれ?手に持っているのは何?」

 菜奈「えっ?!」

菜奈の手には灰色の糸で束ねられた藁人形。

 菜奈「やだ!もしかして倉庫から持ち出しちゃってたかな?」

 先輩「いや〜〜、こんなの倉庫にあったかな〜?まぁ、後で落とし物として届けようか。」

 菜奈「…はい。」


  次の日

 蓮が行方不明になった。昨日の夜、蓮の親から連絡が来て、

 蓮の親「蓮が昨日学校行ったきり帰ってない。」と云う。

 どういうことか?菜奈は確かに昨日蓮と一緒にいたはずだったが、

 今日、菜奈は掃除当番でトイレ掃除をしている。

 菜奈「中々落ちないな…」

菜奈が行っているのは、鏡の拭き掃除。そう、あの落書きに試行錯誤している。

 菜奈「先生〜、あの落書き全く落ちません。」

 先生「そうか〜やはり落ちないかー。皆、どうしても落ちない。と言うからな〜...他の先生もそう言うし。」

 菜奈「あのなんかこれ、鏡の裏から書かれてません。」

 先生「え?何言ってんの?」

 先生「仕方ない、何か貼って隠すか。掃除ありがとう。もう帰っていいよ。」

 菜奈「はい。先生さようなら。」

 先生「はい、さようなら」

菜奈は、ひとつ気づいたことについて、考えていた。

 菜奈(やっぱり、あの文字反転している。それに、書いてあった言葉…)

 菜奈は不意に落書きの中身について考える。

 菜奈(「つぁすけつぇ」って、声に出すと「助けて」に聞こえるんだよね…)

 菜奈「…えっ?!」

 教室を出て数歩のところで菜奈は気がついた。まだそこまで遅い時間じゃないのに、暗い。窓の外は、雲一つないのに、星も見えない。それに電気もついていない。真っ暗な廊下。

 菜奈「ラ、ライトを、、」

すぐさまスマホのライトをつける。

 歩き出すも、薄暗く、何も見えない。

 階段を降りるにも、恐る恐る足を着地させてようやく、踊り場までたどり着いた。そして、右に曲がり、次の階段を降りようとしたその時、

 ???「ドサッ」と大きな物音がした。

 ???「はぁ~ぁ~ぁ〜」後ろを向いたと同時に、生暖かい息が顔に当たる。眼の前に女性の人が、もう少しで鼻と鼻がくっつくかもしれない程至近距離で話しかけられた。

 菜奈「キャッ!!」菜奈は後退りするが、幸い後ろは冷たい床な為尻もちを着くだけに留まる。

 すると、女性は菜奈を見下ろす状態で喋る。

 女性「ぐえ…つぁ…ぶぁ…こ」 その言葉と共に菜奈に向けて何かを渡そうとしている。蓮が自分の鞄につけていた御守りである。

 菜奈「それって、蓮の鞄にあった……

 …もしかして蓮が来てるんですか?」

 女性「ぐえ…つぁ…ぶぁ…こ」

 菜奈「あ、ありがとうございます。」

 女性「おむぁえふぁ、むぃぐわぁるぃ…」

 菜奈「…?」

菜奈は、女性から御守りを受け取り、一階に向かう。

 一階の下駄箱までたどり着き、あたりを見回す。だが、誰もいない。あの女性が言ったことは嘘だったのか?そう思って蓮の名前を呼ぶも時計の針の音しか応えてくれない。でも何故か人気は感じる。それもそのはず。

 菜奈が気づいていないだけで、蓮は後ろに立っている。但し、菜奈が気づいても蓮だとはわかるまい。その姿は、肌が黒いだけでなく、両目に、いや、目と言って良いものか。眼球が無い。そして、下瞼から、血?なのだろうか、紅いから血であろうが、そうとも思えないぐらい濃ゆい紅。呼吸をしていないように思えるほど、場は静寂である。が、蓮は発声しようとしている。

るぇね「つあ〜す〜け〜つぇ〜」

 声でない声。そして遂に菜奈は後ろを振り向いた。


が、蓮の姿は、もうなかった。それに加え、外の景色も戻っている。いつもの放課後。昇降口で燕の巣から鳴き声が聞こえ、いつもの位置にスクールバスが停車している。

 菜奈「結局、蓮に会えなかった…」

ため息を付きながら、革靴を取り出そうとしたとき、ふと、御守りがないことに気がついた。

そしてその手には、昨日の藁人形があった。

                                 


                              [続く]

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