廻る運命に身を委ね

アヌビス兄さん

廻る運命に身を委ね

 仕事は普通に卒なくこなしている。資産は投資にまわし、貯金は半年生きていける程度残して、普通の生活を送っているOL。仕事が終わると部屋に帰って掃除をするか、買い物でもして帰る時もあるが、最近は少し立ち寄る場所がある。パチンコ、スロットの店である。


 これらは店が圧倒的に強く店に来る連中は大半負けるようになっている。

 そして、はっきり言ってこんな店に来る連中は生きていても死んでいてもいいようなクズか、人生を終えて楽しみもない老人が多い。

 こんな店に入る私もまたクズに片足を突っ込んでいると言われれば否定はしない。ただし、私はこれらギャンブルで年平均50万程稼いでいる。


 正直に告白すると界隈では嫌われるハイエナ専門の打ち手だ。詳しくは書かないがパチンコなら1球入れたら当たる状態の台が平然と捨ててある時が稀にある。大体これらで稼げるのは1000円から4000円程だが、去年の7月に私はたった1球。一応500円刻みの投資の為、500円で20万近い金額を叩き出した事がある。これは不正でもなんでもなく、この時代の台の仕様上存在する穴ともいえる。


 そしてスロット、ようやく昨今どういうカラクリなのか、パチスロ全盛期と呼ばれた時代を彷彿させるような台が出てきて、これらも独自の喰い方を見つけた。予想ではあるが、来年以降この状態が続けば年平均70万~100万程は稼げるかもしれないと思っている。


 そして私は狙った台が無ければ打たずに店を出ていくので、ひと月単位で言えば一度も打たずに収益0円の月もある。が、別に構わない。これらパチンコやパチスロの収益は私からすればまさに遊ぶ金欲しさでしかないし、余った分は投資に回す種銭になるだけだ。


 だから私はいつも通り、19時頃に店に入り、擦り切れた老人達、きっとド底辺のDQN、ストレス発散の為に散財しにきているサラリーマン諸君らに最大の礼儀を払って心の中でこう言うのだ。


“ありがとう! お金を私の為に捨ててくれて”


 まずはパチンコの島をざっと周り、当てられる台を探す。当然だが一カ月に1台から2台見つかればいいものだし、予想通り見つからない。時点で優先度は低いが、ある一定回数迄回せば当たる遊タイムというハイエナ狙いもあるが、これは店側が釘を締めていると期待値以上の損害を受ける可能性が高いので、私はあまり狙わない。宵越し残り100回転を切っている場合のみ候補に入れるくらいだろう。こちらも打つ台がないのでパチンコの島は終了。


 続いてスロットの島を見に行く。常連のお金を捨てる事が好きな連中は私をチラりと見るとまたアイツが来たとでも思っているんだろう。スロットには大体4種類くらいのゲーム性の台がありそれぞれ設定という物で制御されている。設定は数字が高ければ勝率が上がり、低ければ勝率が下がると言われている。が、高設定を使う店なんてほぼ存在しない所謂ベタピンというやつだし、エナ専である私には設定なんて関係ない。ハイエナ専門は低設定だろうと食える物で出してさっと帰る。


 打つ台がないので、帰るかと思った時、若い女の子が波の荒いAT機に座っている。幼い見た目だし10代かもしれないな。そして、この娘はいつも若い彼氏とパチンコを打ってる常連だ。最近スロットの規制が軟化した事でこっちに流れてきたんだろうか? 要するに私のお客さん候補になったわけだ。

 パチンコにもあるアニメタイアップの台を打ち、620ゲームにてボーナス、ATに入らなかったか、このまま続行かと思いきやその少ないメダルを持ってAタイプという標準機に座った。一応このおつむの悪そうな女の子が打っていた台をキープ。現在4ゲーム。この台の特性、ボーナスからATに入らなかった場合。AT直撃の天井までのゲーム数が継続する。前回330前後でATに入らないボーナス、その前が前日400程ハマっている。


 やっぱあの女の子バカだな。このスロットの台は1000円あたりのベースは36回。この台のAT直撃までのゲーム数はもし今朝リセットされていたらあと400ゲーム程。金額にして1万2千円程。あるいは前日のゲーム数を引き継いでいる場合、2千円。いや偏りを考慮して3000円でATに入る。ここで私は台に座ると、2000円目で何も引いていないのに台が騒がしくなってきた事で確信した。宵越しの天井を仕留めたと。


 予想通り3000円でATが落ちてきて、この台はハマればハマる程に別フラグのポイントをため込むタイプ。それが今放出され、画面がピカピカと騒がしい。

 この場合、3000円打って天井に入らない場合は撤退するか考える。偏りがよく1000円あたり36回のベースを越えていればギリギリ捲れる可能性があるので、続行する。平均ペースであればやめて3000円負けで帰る。


 今回はATを仕留めた事と、ポイントの放出により、最低3万程。打ち込みの金額を差し引き2万7千円程は稼げる。これは最低だ。何も引けない事は逆に少ない。そこから私は出玉を増やし最終的に8万程の勝ちでこの台を終えた。


「フッ」


 笑けてくる。時間にして3時間程。時給にして2万6000円程。風俗嬢より稼ぎがいいんじゃないだろうか? 私は投資分と1万円だけ抜いて残りを投資に回す。ここに通う連中は朝から撒き餌を撒いて、魚を集めてくれる。そして私はすぐに魚を釣り上げて帰る。いつもの事、もう夜の21時42分。これから食事を取る気にもならないし、缶ビールでも買って帰ろ。


「なんであの台やめてんだよぉ! メイおまぇ! おカマ掘られて箱吹いてんじゃねぇかよぉ!」

「だってそんなの知らなかったんだもん!」

「ふざけんなよ! マジ死ねよお前ぇ!」


 私が大勝した台に座っていた女の子が彼氏と揉めている。よくある底辺の人間のいざこざだ。関わらないようにしよう。こういうDQNは勝った時は自分の力、負けた時は他人のせい。学習する事を忘れたクズ共だ。

 そんな風に心の中で二人を見下していると、彼氏の方が女の子に手を出した。

 パシンと。


「痛っ! なんで叩くのよぉ!」


 バカだな。あぁ、バカだ。

 次は握りこぶしを握った彼氏の方が女の子を殴ろうとしているので、私はスマホを取り出して、


「もしもし、警察ですか? えぇ、はい。暴力事件です」


 と私が電話をするフリをしたら、彼氏の方が「チっ、いくぞ!」と声を荒げて去っていく。あの彼氏はこのまま誰の役にも立たずに他人のせいにして生きて行き、老後になれば老後になったでもちろん年金の支給もなく生活保護に頼り世の中に迷惑をかけて死んでいくんだろう。女の子の方は風俗で働き、似たようなDV彼氏と立て続けに付き合ってその内子供を産んで夢も未来もない生涯を終えるに違いない。

 日本という国も、たけなわだなと私は思う。


 コンビニで缶ビールと明日の朝に食べるパンにプロティン飲料を買って店を出ると、店の外にさっき彼氏に叩かれていた女の子の姿。奇遇な事もあるなと思ってたら。


「あの、お姉さん」


 話しかけてきた。金髪、頭頂部はもう黒くなりかけてる。耳にピアスの数が妙に多い。小動物のように小さい、細い手足。DQNにありがちなフリースファッション。お姉さんって私の事か、なにこれ? カツアゲ?


「なに?」


 もしかして私のお金狙い? さっきの彼氏が待ち伏せしてるとかか? 面倒だな。こんな事なら助けるんじゃなかった。一先ずコンビニに戻ってとと思ったら。


「さっきは助けてくれてありがとう」

「あぁ、そういう。別に、もう遅いから気を付けて帰って」


 と手を小さく振ると、この女の子は私ににっこりと微笑んだ。中々可愛い。生まれと育ちが悪くなければ可愛い顔をしているからもう少しまともな男と付き合えただろうに、親ガチャや産まれガチャは存在すると私は思う。


「彼氏、あいつと別れたんでいくところなくて、お姉さんの家行っていい? 私メイ」


 は?


 私はこの時、気が動転していたのか、思いもよらない言葉を彼女に言い放った。


「身体で払ってくれるなら」


 そう、私は会社では隠しているがレズビアン、同性愛者だ。この子も前々から一発ヤレたらいいなと密かに思っていた。それにしても何言ってんだよ私。



 トントントン。


 葉野菜を切りながら私はハァとため息をついた。今は早朝の5時半、味噌汁を作っている。ごきげんな朝食? 私が食べる分じゃない。朝はプロティンと林檎酢の入ったソーダ水で済ましている。世の中デブ専という人達が一定数存在するが、男からも女からもやせ型の方がモテる事を私は知っている。ソースは私、ミックスバーで10キロ痩せる前と痩せてからの反応が男も女も違ったからだ。


「姐さん」

「メイ、朝ごはん作ってるからシャワーでも浴びてきな」

「うん、その前にちゅーしよ」

「おいで」


 朝からお互いの舌を絡ませるフレンチキス。このまま求めてきそうなので、メイから離れて料理の続きをする。

 メイ、私がおかまを掘って8万出した台に座っていた事で元彼氏にDVを受けていたところ助けた女の子と一夜を共にした。


 念入りに年齢確認をして彼女が18歳である事を確認した上で、何度も何度も、執拗な愛撫でメイに可愛い声を上げさせた。

 メイはとにかく求めてきた時の反応と表情が可愛い。私がそうなんだ。恐らく今まで付き合ってきた連中も支配欲が満たされたに違いない。そして、これがメイが生きて行く上で身につけた物なんだろう。


 お味噌汁を作り、目玉焼きを焼くと、α米をレンジでチンして一人分の朝食をこしらえる。若い燕を味わった料金としては安すぎるかもしれない。

 バスタオルで水分をぬぐったメイが上がってきた。


「ご飯できてるから食べていいよ」

「うん、ありがと。いただきます」


 その間に洗濯、私とメイのえっろい匂いがするシーツ、今日は出勤前にユンケル飲んでいこ。さすがに夜通しやると眠いわ。もふもふと朝食を食べているメイを見ていると少しムラムラしてきた。

 とはいえ今から仕事だし、

 メイクをして着替えて朝の7時半。私は私のマンションをメイと出た。


「姐さん、ご馳走様。じゃあね」

「あぁ、うん」


 なんだか夢でも見ていたようにその日は駆け抜けていった。仕事を終えて今日はさっさと家に帰って寝ようとか思ってたけど足は不思議と駅の裏側へ、いつもハイエナをする四店舗。これはいつも通りの日課だと自分に言い聞かせる。


 なのに、喫煙所や普段絶対に自分が触らないハイエナに向かない機種の島を見たり、うろうろといつのまにかメイの姿を探している自分がいた。

 いや、いたからってどうするのよ。今日もウチ来る? とでも言うの? ダメだ、睡眠不足で頭が回らない。今日は帰ろう。いつもののコンビニに寄ると糖質ゼロの缶ビールを二本。そして数年前に辞めたハズの、


「あと37番のタバコ」


 そう言ってメントール入りのマルボロを購入。お腹は空いていない。とにかく早く寝たい。家に帰ると、今朝洗って畳んでおいたシーツ。あぁ、洗わなければよかったなと思ったけど、ベットメイクをしてベランダに出ると缶ビールのプルトップを開けた。まずは一口。そしてその後のタバコ。電子タバコが出始めた頃にそういや辞めたなと思った。

 鼻腔から香る紫煙が肺を満たす。するとしばらくして、飲酒ともセックスとも違う心地よさを一瞬感じる。しばらくして紫煙をふっと長めに吐く。これも様になるように、何度も練習したものだと我ながらバカバカしく思えた。


「多分、もう前みたいには会えないか」


 私の勧はよく当たる。どれだけ振舞っても私はメイをヤリ目にしか見てはいない。相手には伝わる物だ。なんせ自分がそうだったんだから、あの子の事は忘れよう。いい夢を見た。どうせ、またハイエナをしていれば忘れた頃にあのDQN彼氏とよりを戻してしばらくすればお腹が大きくなったメイを見る事になるかもしれない。


 二本目のタバコをトントンと取り出して咥えるもなんだか吸う気分じゃなくなった。寝よう。翌朝もいつも通りの朝の5時半。口の中がねばねばする。ビールを飲んで、タバコを吸ってそのまま寝落ちしたからか、歯を磨き。マウスウォッシュ。


 いつも通りの日常。出勤をして、仕事をする。そんな際にメイと同じくらいの背格好の女子高生を自然と目で追っている自分がいた。

 中には好意的な表情を私に送るってくれる子もいる。


「あぁ、ヤリたいなぁ」


 休憩中にそんな独り言を言う私。近くのコーヒーショップでクラブサンドを齧りながら自分の資産をスマホで見る。唯一の私の趣味といえる。維持できるかは別として安めのタワーマンションの一室を一括で購入できるくらいには溜まってきた。

 とくに欲しい物があるわけでもしたい事があるわけでもない。お金は全てじゃないし、命より大事じゃないが、一番信用できる力だ。人間の信頼関係なんかよりよっぽど信用できる。


 何かを忘れるのに仕事に没頭するというのは悪くなかった。ただ、そういう時の仕事時間とはひどく早く過ぎ去っていく。私は真っすぐに家に帰るつもりが、いつもの私の狩場に足が向かう。今日もメイを探していた。あのDQN彼氏と笑いながら並んで台を打っていたらどうしようなどとそんな事を思いながら、結果……時給で3000円くらいの台を見つけたので、それを回して数千円とボールペンを貰って家に戻る。22時14分、もう夕食を食べる気にはならない。冷蔵庫にビールはあったかなとかそんな事を思いながら私は自分のマンションの入り口で突っ立っている女の子を見て呆然とした。


「姐さん、泊めて」


 メイは前と同じ表情でたははと笑いながら顔にちょっと傷をつくってそう笑った。私はそれに、きっとこう言うんだろう。


「身体で払ってくれるなら」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

廻る運命に身を委ね アヌビス兄さん @sesyato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ