第49話プリン騒動(直した後)

 オレの同居人はとても我儘だ。


 四六時中、何かにつけては文句をいい、同居人であるオレを困らせた。


 ある日、散歩に出ていた同居人が帰って来るや否や、何処で購入したのか、大きくて怪しいビニール袋を、玄関まで出迎えたオレに突き付けた。


 オレは不機嫌な態度で中を覗き込むと、何かの材料らしきものがが入っていて、思わず眉をひそめる。


 そんなオレに何一つ説明もせず

「これで今すぐプリンを作れ」

と、同居人がほぼ無表情で命令した。


「やなこった、自分で作れ!」


 オレは“召し使いじゃねぇ”と言わんばかりに反抗するが

「ここの部屋代、誰が出していると思っているんだ?」

と、弱味を言われてしまう。


「……それを言うな」


 オレは途端に不貞腐れて、もう一度袋の中身を確認しながら

「作ってやってもいいが、何かが足らん」

と呟き、表情を出さない同居人に袋を突き返した。


 オレの瞳には、どうしても牛乳という物が捉えられなかったのだ。


「なぁ、牛乳……」

「買うの忘れた」

「仕方ねぇなぁ、ちょっくら行ってくるから、用意だけしておいてくれ」


 案の定そうだろうなと思ったオレは、大きく溜め息を吐いてそう言うと、自室へと向かう。


 数分後、再び同居人の前に姿を現したオレの手には、可愛いアヒルの絵柄の財布が握られていた。


 それから、近くのスーパーで牛乳とプラスα《アルファ》を購入して帰ってきたオレは、“これでプリンが作れる”と意気揚々として、早足でキッチンに入った直後驚愕する。


 出掛ける前のキッチンは、毎日磨いているのかと錯覚を引き起こさせる程、綺麗に整っていたがなっていたはずが、今はまるでそこにだけ台風が通過したかのように、何もかもがひっちゃかめっちゃかになっていたからだ。


「こ、これは一体……?」


「……あっ、ゴキブリがいて、追っかけていたらこうなった」


”仕留めた”と言わんばかりに、机の上にある丸めたティッシュを指差した同居人に

「どうでもいいから、さっさと片付けろ!」

と、オレは目くじらを立てて命令する。


 流石にまずいと思ったのであろう。


 同居人は特に反抗もせず、辺りを無言のまま片付け始める。


 オレも、“こんなに本気で怒ったのは久しぶりだな”と思いながら、黙々と手を動かす同居人に倣い、片付けを手伝った。


 それから一時間後。


 普段よりももっと綺麗になったキッチンで、珍しく2人で協力しあって出来たプリンは、市販されているプリンよりも、大きくて食べがいがあるプリン《モノ》になった。


 同居人と一緒に食べるプリン。


 数年後、いつか笑い話として語り継がれるんだろうなと思ったら、なんだかいつもよりも美味しく感じた。


お仕舞い


令和6(2024)10月1日~令和6(2024)年10月18日作成


令和6(2024)年11月20日~11月24日改稿




 

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作品集1 淡雪 @AwaYuKI193RY

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