第14話 突撃調査
「というわけで」
「何がと言うわけだスカタンッ」
「なによ?結局ついてきたじゃない。
今更文句とは言われても困るのだけれど?」
スリナの報告を聞いた後、ルナはすぐに例の商会に訪れていた。
隣は眉間に皺を寄せているミレイズの姿がある。
二人の服装は騎士団の装備ではなく私服だ。
「俺が付いてきたのはお前が変なことしないように監視するためだ。
全く余計なことしやがって」
「でもその余計なことをしてもいいと許可してくれたのは団長様よ」
「それは、そうなのだが……」
そう言われてしまうと何も言えなくなるのかミレイズは言葉に詰まる。
段々この男の扱い方が分かってきた気がした。
「ハイハイ、これもお仕事お仕事」
「ぐぬぬぬ」
それでも何か言いたげなミレイズの背を押してルナは商会の店内へと入る。
フェアリーローズ商会。
この王都ではそこそこの大きさで3階建ての店を持ち、情報通りの品揃えをしている。
ルナたちは一通り見回った後に店を出て、露店で買った飲み物を啜りながら店の事を思い返す。
「聞いていた通り品揃え自体は悪くないわね」
「そう、だな」
「なに?
何か違和感でもあるの?」
「少しな。
どの商会でも取り扱っている商品は似たり寄ったりだがここで見るのはあまり見かけることは無いものばかりだ」
「例えば?」
「そうだな……。
食器はこの国の製法ではないな。
もう少し東で見かけたことがある」
「他には?」
「薬品だな。
ポーションの類はともかく、香草や丸薬等はここでは珍しい類のものだ。
ただ需要自体はある物だし、販売しているということは然るべき機関の検査を通っているから特別問題があるわけではない」
「ふーん。
じゃあ妙に若い客が多いのは?」
「新しい物、物珍しい物を目当てとしているから。
あとはちょこちょこ貴族の従者らしき人間も見かける。
次の流行になるかチェックしているというところだろう」
「流行?」
「貴族社会では必要なことだ。
まぁ、それは横に置いておくとしてだ」
ミレイズの言葉にルナは頷く。
見て回った結果、あるものがなかった。
「化粧品売り場に香水が無かった」
自社ブランドで作られていたものだったが、売り上げも良くはなかったらしい。
販売も制作も取りやめられており、本来なら大量の在庫が倉庫に眠っているはず……だったのだが、しばらく前にある客が在庫にある香水を全て買い取っていったそうだ。
商会としてもお金になるならばと売り払ってしまったらしい。
「在庫含めて買い占められたと言われていたが」
「売った人の素性はわからなかったらしいけれど、十中八九あのボンボンよね」
「ボンボンってお前……」
「でもおかしくない?
買い占める必要あるの?
支援してるんだから評判の悪い香水なんて融通してくれそうなものだけれど」
「可能性としては誰か別の人間に頼んで購入したとかだな」
「やる必要ある?」
「わからん」
「……まぁ考えようと思えばいくつか思いつくけれど」
「なに?」
ルナの言葉にミレイズが怪訝な顔になる。
「まず、自分が手に入れた痕跡を残さないため」
指を一本立てて言う。
「次に、慈善事業。
支援しているほど懇意にしているのなら、抱えている在庫を買って売り上げに貢献してあげた」
更に続けてもう一本立てる。
「最後にボンボン以外の誰かが別の目的で購入した。
これまでの考察全部ドブ行き」
「おい」
「まぁ多分一番目の方だとは思うけれどね」
ズルルとジュースを飲みながらルナは言う。
「……いやいやまて。
そもそもなんで香水を買うんだ」
「例の薬物って甘い臭いするんでしょ?
それを隠すためじゃないの?」
「なんで疑問形なんだ」
「段々考えるのだるくなってきたの。
もう令状引っ張って突っ込みましょうよ」
「できるかスカタンッ」
「これ以上調べるとしても現物の香水が必要。
あとは話せる状態の薬物使用者。
それらが揃っていれば、多分詰められると思うんだけれど」
「理由は」
「女の勘」
「キレていいか?」
ミレイズが紙の容器をグシャリと潰す。
中身はもう空なのか中身が出ることは無い。
「捕まえてる薬物使用者って」
「軒並み意識混濁して治療院に入院中だ」
「ちなみにその人たちって臭い隠してたりしてなかったの?」
「使用者の大多数はしていない。
だからしょっ引けたわけだが」
「少数は?」
ミレイズは少し躊躇ったように息を飲みながら答える。
「香水で隠していたが、それでも薬物の臭いは隠しきれていなかった。
それに挙動が不審になってきていたからな。
連続していたとしてもどこか異常が出始めるみたいだ」
「それ初耳」
「そうか、すまん。
それもあってコレクトル卿が怪しいとは思えん。
使用していた場合、彼の生活や仕事に異常は出るはずだ」
「……回っている薬品が未完成品で完成品を使用しているとか」
「お前、それはもう屁理屈だ」
もしもという可能性の話をしているだけだ。
とはいえそれが屁理屈だということもルナは理解している。
正直な所、何も進展しないことに苛立ちを覚えてきていた。
もう都合のいい展開が起きて全部解決してくれればいいのになんて考えてしまうほど。
「あの~」
「はい?」
声を掛けられたので振り返る。
そこにいたのは化粧品売り場で接客をしていた店員だった。
だが着ているのは制服ではない。
白いワンピースに小さなバックを片手に持っている。
「先ほどはどうも」
「えぇ、こちらこそ。
お仕事は?」
「今日はもう退勤です。
友人のお見舞いに行く予定だったので」
「そうなんですか。
それで、俺たちに何か?」
「えぇ、香水のことが気になっていたようなので。
無いとお伝えしたらそちらの女性がその、悲しそうな顔をなされていましたし」
あからさまに不満そうな顔をしていたことをとても厚めの布で覆った表現をしてくれる定員。
ミレイズはルナを睨みつけ、すぐに定員に笑顔を向ける。
「いえいえ、お気になさらないでください。
これは感情表現が下手くそなだけなので」
「はっ?」
「ほらこの通り」
「そ、そうなのですか」
店員はひいていた。
ルナはこの後ミレイズの鳩尾にに拳を入れようと決意する。
「あ、いえ。
よろしければなんですけれど、こちら要りますか?
未使用品ではあるんですけれど」
ハッとした店員がバックから取り出したのは一つの瓶だった。
話の内容からするに、恐らく例の香水。
「これは」
「お店の在庫処理に付き合わされて購入したものです。
私もこの香りはあまり好きではないので入れるだけ入れて記憶から消していたのですが」
「アナタも凄いことしてるわね」
「あははは……。
それで、よろしければお譲りしますけれども」
「ありがとう。
とても助かるわ。
あっ、それと聞きたいことがあるのだけれど」
「はい?なんでしょうか?」
ルナは丁度いいと思い、店員に問う。
「貴女の商会、コレクトル卿に支援されていると聞いたわ。
なんでか知っているかしら?」
「あぁ、コレクトル様はウチの商会長と既知の中とのことで、その繋がりから支援してくださっているようです。
商会長はここら辺では手に入りにくい商品を売りだしていきたいと変わった思想をお持ちなので、仕入れや商売の伝手などとても助かっているそうですよ。
おかげで業績は良くなってきています。
その香水以外ですけれど」
店員は苦笑いをする。
「質問に答えてくれてありがとう」
「いえ、力になれてよかったです。
では私はこれで失礼します」
「えぇ、気を付けて」
店員が立ち去る姿を手を振って見送り、受け取った香水を見る。
そしてキャップを開け、ミレイズの頭に振りかけた。
「ぐおっ!?何をする貴様っ!?
んふっ、匂いつよっ」
「物はこれで間違いないわね」
「確かめるなら自分にやれ!」
「はいはいごめんなさーい。
指南役殿っていつまでいるの?」
「知らん。
あの方は気まぐれだからな」
「じゃあすぐ持っていきましょうかコレ」
「それに魔術的な効果があるということか?」
「わからないけれど、あの人ならちゃっちゃと鑑定してくれそうだし。
変に時間かけて調べるより手っ取り早いと思って」
「それは……否定はしないが」
「じゃあ戻りましょうか」
「待て、匂いがまだついている。
これで戻るのは」
「そこら辺の噴水で洗い流せば?」
「貴様ふざけているのか?」
復讐完了乙女は騎士になる ~復讐したらスッキリした~ projectPOTETO @zygaimo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。復讐完了乙女は騎士になる ~復讐したらスッキリした~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます