記録2.村民の証言 ※録音データより

 録音記録再生開始。

 約1分間、僅かな雑音が続く。


――……あの、村のことを訊いて、どうされるんですか?


 雑音が入る。


記者:它倉村の土砂災害の記録を集めていまして。


――はい……分かりました……でも、その……いいんですか?


記者:何がですか?


 ひときわ大きな雑音。


――“オクエ様”が、この街にも、来てしまうかもしれませんよ……


記者:は……? その、ええ……“オクエ様”って?


 雑音が入る。


――大它山の神様です。

  普段はお山にいらっしゃるんですけれど……

  時々、お怒りになって下りていらっしゃるんです。


記者:はぁ……


 大きな雑音が入る。


――悪い神様ではないんですよ?

  でも、私たち村民が忘れてしまわないように、時々、ね。

  ふふふ、寂しがりやな神様なんです。


記者:そ、うなんですね……

   ええと、それは它倉村の土着信仰なんですか?


――ええ、そうですね……大它山の神様ですし。

  ……ああ、でも、もうお山にはいらっしゃらないかもしれません。


 記者は沈黙。Aの声が続く。混ざる雑音が大きくなっていく。


――子供がいなくて(※聞き取れず)できなかったから。

  ああ、土砂災害のお話でしたものね、丁度良かった。


 雑音が大きく、次第にAの声も聞き取れなくなっていく。


――だから、お山から(※聞き取れず)て、もう、ね。

  (※聞き取れず)できなければ、そのままですもの。


 雑音が大きく、ほとんどの音声が聞き取れない。


――寂しがりやの(※聞き取れず)からねぇ……

  もう、他の場所に(※聞き取れず)しまったかも。

  きちんと(※聞き取れず)できないと、他も同じになるわねぇ。


記者:あの、Aさん、何の(※聞き取れず)を?


――あら、土砂災害のお話よ?

  あれは“オクエ様”が(※聞き取れず)ですもの。

  (※聞き取れず)の方法、門外不出なのよねぇ……


 雑音が止まる。


――くえるぞ、くえるぞ、おやまがくえるぞ。


記者:今、何かおっしゃいましたか?


――いいえ?


記者:え、でも今「くえるぞ」って……


――…………お疲れなのでは?

  丁度良いし、ここで終わりにしましょう。


記者:あっ、Aさん、待って……


 離席の音の後、扉が閉まる音がする。


記者:帰っちゃった……はぁ……


 雑音、数秒後、録音が停止。記録は以上。

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