再 会 〜その2〜

 靴を入れたビニール袋を持ち、あてもなく教室をのぞいていった。お化け屋敷に喫茶店、これぞ文化祭といった感じでみんな楽しそう。青春だなあ…って、そんなに年は変わらないんだけど。

 その時だった。「あれ、Yさん!来てたの?」思いがけず、誰かに名前を呼ばれて立ち止まった。振り向くとそこにはT先生が満面の笑顔で立っていた。「久しぶり!今日はクラブか何か?」「そうなんです。後輩が見に来てって誘ってくれて…」「それは後輩の子達も喜ぶね。来てくれてありがとう!」T先生は担任でもなければクラブの顧問でもない。高3の1年間だけ担当してもらった体育の先生だった。さっきのA先生とのことがあったから、まさか先生の方から声をかけてもらえるなんて思ってもみなかった。

 「大学は楽しい?」「毎日朝からびっしり授業があって、大変だけど楽しいです」そう話すと「それはよかった。Yさんいつもよく頑張ってたよね」不意に先生がそう言ったから、私は言葉に詰まってしまった。いや、言葉よりも先に涙が出そうだった。ああ、先生はそんな風に見てくれていたんだ。ちゃんと見ていてくれた人がいる。そのことが、ただただ嬉しかった。


 小さい頃から運動全般が苦手な私は、バスケをすればパスを受け損ねて顔面にボールが当たったり、テニスではボールが当たらなくてサーブを入れられなかったりで、先生によっては、ふざけていると思われて怒られたり、呆れて笑われたりもして、体育の授業がどんどん苦手になっていった。

 でもT先生は違った。丁寧に教えてくれて、少しでもできたところを見つけては「そうそう!それでいいよ」と褒めてくれた。もちろんできる人にはもっと高度なことを教えていて、生徒ひとりひとりをとてもよく見てくれる先生だった。

 T先生は「こうやって卒業生が学校に顔を見せに来てくれるのは、やっぱり嬉しいなあ」と言うと、「あっ、引き留めてごめん、ごめん。後輩達が待ってるね、行ってあげて」と最後まで笑顔で見送ってくれた。


 少し前まで暗く沈んでいた心が、なんとも言えない心地よさで満たされていた。不器用なりの努力でも、見守り認めてくれる人がいる。一方で、知らないうちに嫌われてしまうことだってあるのかもしれないけれど、全ての人から好かれることはないのだから、必要以上に恐れることはないのかな。実際のところ、A先生に嫌われているのか、本当に急いでいただけだったのかは分からないけれど。

 それに、あの時あの場所でA先生と会わなければ、あんな思いをしなければ、きっと私はまっすぐに部室へ向かっていただろう。そうしたら、T先生との嬉しい再会はなかった。そう思うと、すべての出来事には意味があるのだと思えてくる。

 T先生のおかげで、私は明るい気持ちで後輩達の元へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

2つの再会 やまのなつみかん @yama_natsumikan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ