2つの再会

やまのなつみかん

再 会 〜その1〜

 ある秋晴れの昼下がり、私は久しぶりに母校へと向かっていた。高校を卒業して半年あまり。音楽部の後輩から、文化祭でミニコンサートをするので是非聴きに来てほしいと連絡をもらったのだ。半年前までは毎日飽きるほど歩いていた道程なのに、なんだかとても新鮮な気分だった。

 駅からの坂を上りきり、少し下り始めると校門が見えてくる。門には賑やかな飾り付けがされていて、実行委員の生徒達だろうか、数人が忙しそうに動き回っていた。

 校門をくぐるとまた上り坂がある。そういえば坂が多かったなあ、と懐かしんでいると、こちらへ向かって歩いて来る人が見えた。高3の時の担任、A先生だ。思わず声をかけた。「先生!お久しぶりで…す」


 だが、挨拶も終わらないうちに、先生は私の前を通り過ぎて行ってしまった。こちらを一瞥もせず、正面を向いたままでニコリともせずに。ただぼそっと「あら、来たの…」とだけ言い残して。気づいた時には先生の背中は遠ざかっていた。え?なんで?どういうこと?挨拶途中の笑顔が貼り付いた顔のまま、私の頭は混乱していた。「久しぶり!元気だった?大学はどう?」なんて会話を期待していた訳ではないけれど、まさか卒業以来半年ぶりの再会で、挨拶さえスルーされるとは思いもしなかった。

 そのままA先生は校門の側で作業していた生徒達の方へ向かって行った。きっと先生はすごく急いでいたんだ、そう思うことにした。卒業してしまった過去の生徒より、現在の生徒の方が大事に決まっているし、優先すべきなのは当然のことだ。そう考えることで自分の気持ちを慰めようとした。


 だけど、思いのほか心の動揺は収まらなかった。私は先生に嫌われていたのか…?高校時代、何か失礼な言動をしてしまったのだろうか…。

 あぁ、また始まった。私の悪いクセだ。いくら考えても答えなんて出ないのに、ネガティブ思考が止まらない。こんなことなら、もう一本早い電車か遅い電車に乗ればよかった。そうすれば、A先生と出会うことなく、こんな思いをすることもなかったんだ…。

 せっかく楽しみにしていた文化祭なのに、気持ちはすっかり沈んでしまい、後輩達のいる部室へそのまま向かう気持ちには、なかなかなれなかった。幸い学校へは早めに到着していたから、時間はまだ充分にある。他の教室の展示や催しを見ながら気持ちを切り替えて、それから後輩達に会いに行こう。私はとりあえず一番近い校舎へ入ろうと、靴からスリッパへと履き替えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る