第4話

 本日、僕と燈摩は麗奈宅にお邪魔している。なんでも大切な話があるとか。


「懐かしー、昔たまに来てた覚えあるよ。」

「まあ、適当に座って。」


 リビングのソファに座らせてもらう。


「それで、話ってのは?」


 燈摩が切り込む。


「廻と王子さん、2人にお願いがあるの。」

「お願い?なんでも言ってよ。」


 麗奈には助けてもらってばかりだった。少しずつでも恩返しがしたい。


「ほんの1ヶ月だけ、学校に来てほしい。」


 麗奈は絶対に僕に登校を強要しなかったし、現状にも納得してくれている。

 それが、唐突に僕たちに登校を願ってきた。なにかあったと考えるのが普通だ。


「私はいいけど、廻······、」

「いや、行くよ。」


 はっきりと言いきる。1人ならまだしも、燈摩と麗奈がいるのなら。


「麗奈がそんなこと言うなんて、なにかあったんでしょ?」

「······正直、ちょっと問題を抱えてて。」


 申し訳なさそうな麗奈から、彼女の優しさが垣間見える。

 あれだけ僕を助けてくれたのにも関わらず、自身のことになるとこれか。こちらの方が申し訳ない。


「それで、問題って?」


─2日後────────────────


 ついに予定していた登校日。馴染みのない制服がどうにもこの身には苦しい。

 最後にネクタイを締め直し、荷物を確認して部屋を出る。


「楓さーん、行ってきまーす。」


 キッチンの楓さんに一声かける。するとひょいと顔を出してきた。


「行ってらっしゃー、い、え······、」

「どったの?」


 僕の姿を見て目を丸くしている。僕の登校がそうも衝撃だったらしい。


「まあ、なんか、楽しんでね。」


 考えた末にかけた言葉がこれだったらしい。

 「気をつけて」でも、「無理するな」でもなかったのが、この人らしくて嬉しかった。



─10分後───────────────


 燈摩の家に向かい、2人で登校する。


「一応言っとくけど、きつかったらすぐ逃げろよ?」

「大丈夫、なんとかならあ。」


 適当に言ってみてはいるが、流石に緊張する。なんとなく、いつかこんな日が来るのではと思っていた。

 でも、今は1人ではない。いざとなったら燈摩や麗奈がいる。それだけで心が軽い。


「ああ、2人とも。こっち。」


 学校の校門で、麗奈が待っていてくれた。


「おはよー。」

「おはよう。2人ともありがとう。」


 そのまま麗奈に連れられ、見覚えのない下駄箱から教室に連れていかれる。

 道中、四方八方から視線を感じる。いくら珍種とはいえ、ここまで見るものなのだろうか。


「2人とも、ビジュが良いから嫌でも注目を引くのよ。」


 そう言われると素直に嬉しいが、状況としては心地のよいものではない。


 教室には、窓側の最後列にひっそりと机が2人分置かれていた。

 右が僕、左が燈摩のものらしいが、どちらも5人程度のギャルたちに占領されている。その中の1人が記憶にある容姿だった。


「雅さん?おはよう。」


 飛びっきりの営業スマイルで、フレンドリーを演出する。第一印象の重要性はよく理解している。


「えっ、廻クンじゃん!」

「廻クンだよー」


 ノリノリで両手でハイタッチ。彼女以外のギャル達が驚きを隠せていない。


「どったの?」

「たまには学校来てって言ってたでしょ?」


 適当にバッグを机に掛けて、ギャル達に囲まれた状態で座る。段々と眩暈がしてきた。

 すると、燈摩が現れ、なんとなしギャル達を追い払った。


「燈摩は僕のSPだね。」

「相棒と言えよ。」


 雅はメンバーに僕達のことを紹介しているようだった。


 嫌でも注目を引く、ならばそれを逆手に取ろう。こういうコミュニケーションは得意中の得意だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悠々自適に僕たちは 危機ロマロ @noted

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ