3.だって気になりませんか?
「陛下!私、犯人探しをしてもいいでしょうか?!」
高らかに宣言するわたしの背後で、ルチアがさめざめと泣いている気配がするが気にしないでおく。
見舞いに来てくださって早々豆鉄砲を百発くらったような、皇帝陛下がそんな顔していいのかなって顔をしていらっしゃるけどそれも気にしない。庭園から伐って下さったという綺麗な花束が陛下の腕から床に落ちかけてルチアが咄嗟に拾って花瓶に活けてくれたのは嬉しい。ありがとう。
「──ルチア?この子は何を言っているんだ?」
「──ぐすっ、は、はい皇帝陛下。お止めしましたがどうしても犯人をご自身でとっ捕まえると頑なで──、ううう…」
あ、今まで鉄仮面だったシャルル様の従者さんですらこっちを見て訝しげな顔してる!
みんなそんな何とも言えない様な顔で見ないで!
「──アルエル、その、犯人を捕まえたい、というのは一体どういう心境で、」
対面のソファに座り直し、紅茶を飲んで一息ついて、ようやく落ち着いた様に見えたシャルル様だったけどまだ落ち着いてはいらっしゃらないみたい。
言葉がたどたどしい。
そんなに変な事だろうか。
「だって気になりませんか?元のわたしが狙われた理由とか、どうやって飲み物に毒を入れたのかーとか。」
厳重な宮廷の警備を掻い潜り、人の目を盗んで寿ぐべきその日に私を殺めるべく私専用に淹れられたお茶に毒を入れ今も何処かで罪を犯して素知らぬ顔をしているどこかの誰か。
正直に言って、犯人探しをしたいというのは建前で、わたしは自分探しをしたいというのもある。(ハズカシイ)
今現在、宝物の様に扱われていることにも目が覚めて話しているだけで有り難がられていることにも違和感しかないし、自分が生まれた時から絶大な力を持っているということに気持ち悪さも覚えた。
自分で努力して勝ち取ったものでもなく、生まれつきというラッキーカードを引いたことに嫌悪すら覚える。
だからこそ、打開したかった。
アルエルとは何なのか。どう生きていくべきなのか。精霊に愛されすぎるこの身を、どう使っていくべきなのか。
わたしは、愛されるに値するべき存在なのか。目覚めた時からここ1週間ずっと、ずっとずっと苦しかった。動悸が鳴り止まなかった。
笑って、明るく振る舞っては、後ろを振り向いた。また狙われたらどうしよう。眠るのも怖かった。食べるのも怖かった。散歩も怖かった。寝込みを襲われたら、外に出たら、また食事に仕込まれたら、
「──だから、皇帝陛下。どうかわたしに許可を下さい。以前のわたしが命を狙われるに至ったそのワケを、どうしても知りたいのです。」
命を狙われない、明日が欲しい。
しばらく思案したシャルル様とようやく目が合う。この目の色は、真っ暗闇の夜がだんだん朝焼けに染まるあわいの空のように美しい。
飾り立てられた宝飾品よりも、並べ立てられた絵画よりも、ずっとずっと。
「──分かった、許可しよう。」
その目に見惚れて惚けている間に、いつの間にやら許可が降りていた。
「あ、ありがとうございます!!」
「ただし、ルチアと──…そうだな、火霊騎士のアーウィンを同行させる事が条件だ。アーウィンは騎士団でも腕利だからな…そのように取り計らってくれるか、コルト。」
「畏まりました。」
「──では、ルチア・ニニ・アルトナイト。アルエルをしっかり守ってくれ。」
背後に立つルチアの気配が引き締まる。
幼名であるニニも含めて皇帝陛下がフルネームで呼ぶ、ということは勅命に近いということだ。
「心してお守りいたします。」
「ああ。──まずは俺の子供達に話を聞くといい。あの子たちは霊素に耐久が無いために俺と暮らすことが出来ないから5つの離宮にそれぞれ住んでいる。」
私に誂えられた部屋の窓を陛下が指差す。そこからは美しい庭園と、ずっと先に立ち並ぶ五つの離宮が見えた。
「最初は、あの白離宮に住む第一王子のルドルフから尋ねるといい。歳もアルエルと同じで一番気性が穏やかだ。俺から話を通しておくから、明日には会えるだろう。」
「はい、ありがとうございます!」
──こうして、わたしの探偵ごっこが始まったのでございます。
いわゆる継母になりましたが幸せになれますか?! 十月いと @t0tuk11t0
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