ある素人作家の縁側 神社にいるあいつ編
摂津守
ある素人作家の縁側 神社にいるあいつ編
ガンガン、と戸に何かが激しくぶつかる音がした。
縁側で小説の構想を練り練り寝ていた私は、すわ強盗か暴漢かと一気に飛び起き、傍にあった箒を手に取り、戦う決意をかため、いざ勝負と来る敵を待ち受けていたのだが、やってきたのは敵ではなかった。
やってきたのは神社にいるあいつだった。狛犬だ。拝殿の前で向き合っている一対の四足獣のアレである。しかし今日のところはコンビではなく、ピンでやってきたらしい。
「やぁ、狛犬さんではないですか、わざわざこんなところへやってきて何のようですかな?」
私は箒を放棄し、縁側に座って言った。
すると、狛犬は阿形に開いていた口をより一層大きく開いて吠えた。
「違う! 違うのです! 私、狛犬ではないのです! だからこそ、今日はあなたに私のことを知っていただきたく参りました」
「狛犬ではないのですか? しかしあなたは近所の神社にいるアレでしょう?」
「違います、私は獅子なのです。断じて犬ではないのです。反対側にいるのが狛犬なのです。ほらよく見てください、私は口を開いているでしょう? 開いていてかっこいいのが獅子なのです」
「なるほど獅子でしたか。私はてっきり神社にいるのは狛犬ばかりと思っておりました」
「大いなる間違いです。ぜひ認識を改めていただきたい。そこでお願いなのです。ぜひこのことを作品にして発表していただけませんか? 獅子と狛犬は別物であるということを世のため人のために知らしめて欲しいのです」
「お安い御用ではありますが、なぜ私なのでしょう? 私はただの素人でアマチュアですよ? 私が書いてネットにアップしたところでさほど効果があるとは思えませんが」
「ははは、有名作家と簡単にアポイントが取れるはずがないでしょう。だからただのアマチュアで素人のあなたにお願いするのです。暇でしょうから」
作家なら狛犬……じゃなかった、獅子が訪ねてくるなんて得難い神秘体験をみすみす逃すはずはないので、少しくらいなら応対してくれるとは思うのだが、少しバカにされた気がしたのでそのことは敢えて口に出さないことにした。
「なるほどわかりました。私でよければぜひこのことを一つの作品として世に送り出して見ましょう。とは言ってもネット上にですが」
「それで十分でございます。もとよりたかだかアマチュアの素人に期待してなんておりません。さて、そろそろお暇させていただきます。神社を長々開けるわけにはいかないので。こう見えても獅子は暇ではないのです。ではよろしくお願いします。本日はどうもありがとうございました」
「いえ、こちらこそ貴重な体験ができて嬉しかったです。しかし今度来るときはもう少しノックに気を使っていただけるとありがたいですな」
「これは失礼しました。何分獅子でありますし、身体も石造りなもので、へなちょこでボロな戸が相手だと軽く叩いたつもりが強すぎるようですな」
そう言って、狛犬……じゃなかった、獅子はそそくさと帰っていった。最後までどこか鼻につく感じがあった。それはおそらく自身が百獣の王たる獅子であるというプライドの現れなのだろう。
とにかくまぁ、そんなわけで私はこれを書いたのである。
ある素人作家の縁側 神社にいるあいつ編 摂津守 @settsunokami
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