第16話 手袋
「え……と」
突然現れた目の前にいる女の人は……私より少し背の高い「お姉さん」という感じがする。
――落ち着いたふんいきもあって「大人」だなぁ。
それに、とてもきれいでスラッとのびた手足が印象的で、着ているドレスもとても似合っている……なんて初対面の彼女を見ていると……。
「え」
なぜか彼女は突然私に頭を下げた。
『まず謝罪を。うちの者が大変失礼いたしました』
よく見ると、彼女が頭を下げたとほぼ同時に一緒に来たと思われる他のようせいさんたちも同じ……いや、それ以上に深く頭を下げている。
「そ、そんな! 頭を上げて――」
『いえ、彼女は許されない事をしました。ましてやいやしの手の担い手であるあなたになんて事を』
「い、いやし手?」
またも聞き覚えのない言葉に戸惑ってしまう。
『前にも言っただろ。おれたちを直せる人間の事だよ』
「ああ。なるほど」
男の子の言葉に思わず納得する。
――って! それよりも!
「あの、私。おこっていませんから。とりあえず頭を上げてもらえませんか?」
相手がだれであれ、ずっと頭を下げられたままではこちらも気をつかう。
『ありがとう。実はね、あなたの事は長たちの間でも有名なのよ』
「あ、そう……ですか」
ニッコリとおだやかに笑う長に、あまりほめられた経験がなくてついて照れてしまう。
――それに、なんていうか……。
この人の持っている元々のふんいきだろうか。ちょっと笑っただけでも絵になる感じがした。
――なるほど。光の種族か。
なんて、思わず納得してしまった。
『元々、私たちようせいは古い時から人間と共にあったのだけど……時間が経つにつれ、いつしかお互いの気持ちはすっかり変わってしまったわ』
「……」
そういう長の表情はどこかさみしそうだ。
『でもね。私たちも変わらないといけないと思っているの』
ニッコリとその人は男の子と女の子を見る。
『変えるべきところと変えなくていいところ。そこはしっかりと判断すべきところだらろうけど、少しでも良い生活が出来るようにしようと思っているの。今回の一件も彼らがいろいろな種族から話を聞いてくれたから分かった事だもの。ありがとう』
長がそう言うと、女の子は『そ、そんな』とあわて、男の子はいつも通り『ふん』と顔を背けた。
――でも、きっとうれしいんだろうな。
だって照れている時のくせが出ているから。
――でも、今はそれよりも……。
「あ、あの……」
『何かしら?』
「その手……」
私は話を聞いている間ずっと気になっていた事があった。
「その手……」
『ああ、コレ?』
そう言って長は自分の右手を見ながら私に視線をうつす。
『もうずい分と汚れてしまったわ。もう昔からずっとこのままよ』
――汚れ。
本当にそうなのだろうか。
「……」
そんな時に頭をよぎったのはさっき「使い」を名乗っていたようせいさんの言葉。
――これがもし汚れじゃなうてケガと同じものだったら……。
それを思うと……いてもたってもいられなくなり……。
「あの! 私に新しい手袋を作らせてもらえませんか?」
気が付いたらそう口にしていた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『そ、それは願ったりかなったりだけど……いいの?』
「はい!」
私はすぐに返事をして、早速準備に取りかかる。
――でも、手袋なんて作った事ないけど……。
そう思いつつ取り出したのは毛糸と『かぎ針』だ。
――久しぶりに使うな。
この『かぎ針』はその名の通り針と同じ形をしているけれど、ふつうの針よりも大きくふだんから針を使っている私にとってはコレが使いやすい。
――その前はあみ棒を二本使っていたっけ……。
毛糸ももちろんあの手芸店で買ったモノだ。
『あら……コレはお店で買ったモノかしら?』
「え、あ。はい。いつも行くお店で……」
『そう』
「あの、何か」
そうたずねると、長は少し得を見る様な目をした。
『そうね。私にとっては少し前。でもあなたたちにとっては昔。こうして私たちのケガを直してくれた子がいたのを思い出したのよ。少し……あなたに似ていたわね』
「え。そ、それって……」
何となく、それがだれなのか分かった気がした。
『ふふ。そのお友達はね、自分はさいほうが上手じゃないから! って糸とかを作れる場所に行ったみたい』
「……」
それを聞いてハッとした。
実は私が使っている毛糸も糸もはあのお店の「自社ブランド」というモノらしい。
――ふつうは安くなるらしいけど……。
独自で作っているからなのか、同じ毛糸や糸でも他のモノと比べると少しお高い。
――という事は……。
おばあちゃんと店長さんはようせいさんが見えていたという事になる。
『彼女が亡くなってしまった時は悲しかったけど、ちゃんと後継者がいたのね』
「そんな……私なんて…」
そう言って長はニッコリとほほえむけれど……。
――そんな期待される様な人間じゃない。
その気持ちが出てしまい、思わずうつむいてしまう。
『ふふ。大丈夫よ。自信を持って』
「え」
『あなたをちゃんと見てくれている人はちゃんといるって事よ』
「?」
――な、なんで……。この言葉を聞いた瞬間に池里くんが出て来たのだろう?
『忘れないで。私たちはがんばっている人の味方だから』
「じゃ、じゃあ。あの、一つ聞きたい事があるのだけど」
『何かしら?』
「ここ最近。私以外の人間にまほうを使いましたか?」
池里くんを思い出したと同時に私は思わず長にそうたずねていた――。
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