第12話 おさそい


 ――光の種族の長……か。


 まさか自分のしていた事が治りょうで、傷が治らなかったら消えてしまうなんて思ってもいなかった。


 ようせいがケガをしてしまう原因は、今は主に鳥などの動物によるモノがほとんどらしい。


 ――動物は人には見えていないモノも見えるって何かで見た様な……。


 その「見えていないモノ」が何を差しているのかは……あえて考えない様にする。


 ――まぁ、何となく分かるし。


『昔は人間によるモノがほとんどだったけど、各ようせいの種族の長が人間たちとは関わらないと決めまった事がきっかけで見える人が減ったみたい』


 それでも私の様に見える人はごくまれにいて、それはきっとご先祖様の行いが良かったのか、はたまた私自身が先祖の生まれ変わりなのか……詳しい事は二人もよく知らない様だ。


「キャー!」


 ――そして今日も素晴らしい声援……と。


 チラッと外の方を見ると、今日もグラウンドではサッカーをしている男子とそれを応援している女子の姿が見える。


「……」


 今でも正直信じられないと思っている。


 ――いや、でもまぁ。同じ学校だし、同じ学年でもあるワケだし……。


 それを考えると、全く話す機会がない……というワケでもない……と今は思う。


 ――でもまさか……あんなところで会うとは思わないよね……。


 外でボールをけりながら走って女子の黄色声援を受けているサッカー少年の趣味が手芸で、まさか学校帰りに「手芸店」にいるなんてだれが想像出来ただろうか。


 ――でも、そもそもだれとだれが一緒に帰っているかとか知らないや。


 そもそも興味もない。


『……相変わらず人気者だな』

『ね。あの姿を見ちゃうと彼ってあのキーホルダーがなかった全く見向きもされなかったの?』


 サラリと鋭い質問を投げかけてくる女の子に対し、ちょっと考えてみると……。


「いや、全く……という事はなかった……と思う。さすがにここまでではなかったけど」


 ちなみに二人は『これから何が起こるか分からないから!』と一緒に学校に来ていて、授業中はどこかで情報収集をしていたらしい。


「……」


 たまに他のようせいたちと話しているところを見ると、確かに仲は悪くなさそう。


『ところで……今日は来るかな?』

「ど、どうだろう?」


『昨日来て次の日も来るか? 普通。そう何度も行くところじゃないだろ』

「そう……だね」


 ――確かに、男の子言う通りかも知れない……。


 なんて事を思いながらチラッとランドセルの方を見る。


「……」


 実は今日。私は池里くんに「ある物」を持って来ていた。


 ただ、これを学校で渡す勇気なんて友達作りすらできない私にはかなりハードルが高い。


 ――でも……。


「また話そう」


 そう言ってくれた池里くんの言葉を信じて放課後に渡そうと思っていたのだ。


 ――ただ……さすがに昨日の今日じゃ来ないか。


 なんて思いつつ「でも、昨日はゆっくり見られなかったから!」と理由をつけて放課後「手芸店」に行く事にしたのだった――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「いらっしゃい……おや」

「こ、こんにちは」


 放課後。私は二人を連れて「手芸店いやし」を訪れていた。


『ん? 昨日はいなかったな』

『ね』


 入口で声をかけてくれたのはここの店長さん。


 いつもレジのところにいるのだけど、昨日は用事があったのか別の人だった。


 ――アルバイトさんだったのかな?


「家には帰らなかったのかい?」

「え、帰ったよ? ほら」


 そう言っていつも使っている手提げのカバンを見せる。


 ――本当は学校終わってから来ようと思っていたんだけど……。


 そういえば池里君が「いつもこの時間」と言っていたのは一度家に帰ってからここに来た時だったという事を思い出した。


 ――だったら池里くんがよくここにきても会わなかったワケが分かる。


 要するに、池里くんが来ていたころにはすでに私は帰っていたという事になる。


 ――なるほど、コレがいわゆる「すれ違い」ってヤツか。


 このお店の店長さんとおばあちゃんは昔からの友人で、私が小さいころに毛糸で色々な物を作る時にも教えてくれた人だった。


「おや、そうだったのかい」

「うん」


「ああ。そういえば、ここ一二か月くらい前からお前さんと同じくらいの年の男の子がよく来るようになったねぇ」

「あ、そうなんだ」


 多分、池里くんの事だろう。


「店に入って買う様になったのはここ最近なんだけどね。それまではチラチラと店の外から見ていたもんだよ」

「へぇ」


 コレは意外だった。


「やっぱり男が手芸っていうのは色々と考えちまうんだろうねぇ。特に年ごろの子は周りの目とか気にしがちだろうし」

「それは……店長さんも?」


「私かい? 私は違うさ! でもまぁ、人それぞれって事だよ」

「……そっか」


 人によってなやんでいる事もがんばっている事も色々。全く同じ人なんていないだろう。


「ああそうだ。お前さん『羊毛フェルト』に興味はないかい?」

「羊毛フェルトって、確か針を刺して形を作るっていう……」


「そうそれ。今度の休みなんだけどね。人が集まらなくてねぇ」

「へぇ……」


 そう言いながら店長さんが見せたチラシに手をのばそうとしたところで……。


「え……」


 なぜか私の横から手がのびてきた――。

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