第9話 可能性


『あー』

「い、行っちゃった……」


 池里くんの後ろ姿をぼうぜんと見送ると……。


『人の話を聞かないヤツだったな』


 男の子はカバンからヒョコッと顔を出して私と同じように出入口を見ながら言う。


『えー? でも、急いでいたのかも知れないよ? 見たいテレビがあったとか!』

『はぁ? お前じゃあるまいし』


 あきれた様子で答える男の子。


『違うって! あの時はぐうぜんテレビがついていたから見ていただけで、決して熱心に見ていたワケじゃないもん!』

『……どうだかな』


 ため息交じりに言う男の子はどうやら女の子の主張を信用していなさそう。


 ――というか、テレビ。見るんだ。


 男の子の話を聞く限り「ようせいさん」たちは人間をきらっているみたいだけど、どうやらみんながみんな……というワケではないみたい。


「あ」


 ――そういえば……。


『?』

『どうした』


 ふと私は「ある事」が気になった。


「どうして二人とも池里くんと話している時、カバンに隠れていたの? ふつうは見えないはずでしょ?」


 そう、ふつうであればわざわざ「かくれる」なんて事をしなくてもいいはずだ。それに、学校にいる時は周りを気にしている様子すらないにも関わらず。


 ――本当にだれが見ているのか分からないのにリラックスしているはずなのに……。


 しかし、池里くんと話している時の二人はまるで「バレない様に」と言わんばかりに二人そろってコソコソと隠れていた。


「なんで?」


 ――それに、二人がコソコソと話していたことも気になるし……。


 もう一度聞くと、女の子は『えーっと』と言いながらなぜかわかりやすく私から顔をそむける。


「?」


 顔をそむけられる様な事をした覚えはないけれど、その態度は「何か理由がある」と言っている様なモノだ。


『はぁ。ごまかすの下手くそか』

『だ、だって……』


 ――やっぱり……。


「何か理由があるんだ」


 再度確認する様に聞くと、女の子に代わって男の子は『ああ』とうなずく。


『つーか、理由大ありだな』

「?」

『……というか、何となく気づいているだろ?』

「え?」


 ――な、何にだろう?


『あのキーホルダー。ふつうに手作りしたワケじゃないって事をだ』

「!」


 男の子の言葉に思わずハッとした。


 ――言われてみればあのキーホルダーは「ふつう」とは違うと思っていたけど……。


 確かに、私が見た時。池里くんのキーホルダーは光って見えた。


「え、じゃあ。あれって……」


 ――私の見間違いじゃなかったんだ。


『……あれは。ようせいが手を貸したモノだろうな』


 そう男の子はため息をつきながら小さくつぶやいた。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「え、手を貸した?」


 私の問いかけに男の子は小さく「ああ」とうなずく。


『当の本人は気がついていなさそうだったけどな』

「気がついていないって……あ」


 そこでついさっきまで池里くんとの会話を思い出すと、確かに本人も心当たりがないって言っていた。


『で、でもあの子。まるでこの子と似たようなふんいきだったよね? なんか、私が知っているのとはちょっと違ったけど』

『まぁ、そうだな。そうなると……あと考えられるのは……こいつくらいめずらしいヤツなのかもな』

「めずらしい?」


 一体何の話だろうか。


『ああ、悪い。さっきのヤツなんだが、あいつは多分おれたちの姿は見えていないだろう』

「え、でもさっき……」


 女の子が「私にふんいきが似ていた」と言ったはずだ。しかし、ふんいきが似ていても私と同じ様に見えるってワケではないらしい。


『さっきのヤツが話していた事も一緒に考えると……』

「?」

『あいつは……ようせいに好かれる人間じゃないかっていう話だ』

「ようせいに好かれる人間?」


 ――え、でも今までの話じゃ……。


 ようせいさんは人間をきらいなはずだ。


『ごくごくまれにいるんだよ。そういうヤツが』

『しかも種族によって好む人間も色々だし、そもそもそんな人間なんてごくまれだけどね』


「……え、待って。二人は違う種族……だよね?」


 ――まるで同じみたいに話しているけど……。


 ここに来るまでに話していたまほうの話を考えると、二人は違う種族だという事は何となく分かる。


私がそう言うと、二人は顔を見合わせ……。


『おれたちはいいんだよ』

『そうそう。あ、ちなみにみやこちゃんは色んな種族が来ていたから違う種族が一緒に来てもおかしな話じゃないよ? そもそも種族間で仲が悪いワケじゃないし』

「そ、そうなんだ」


『まぁ、みやこちゃんとあの男の子では全然状況が違うけど』

「へ、へぇ」


 ――な、なんか。上手くごまかされた様な……?


 気がするけれど、それはつまり「これ以上聞くな」という事なのだろう。


『それはそうと、お前。いいのか?』

「え?」


『時間。そろそろ帰らないと……だろ』

「!」


 お店にある時計を見ると、思っていたよりも時間が経っていたらしく、いつも買い物をして帰る時間よりもずい分と遅い。


 ――そりゃ話していたからね!


 でも、あんまり遅くなってしまうとお母さんたちが心配してしまう。


「と、とりあえず……」


 私はよく使う白と黒と赤の色をそれぞれ二つずつ入れて急いでレジへと向かったのだった――。

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