第4話 心配事
『おれたちの事は気にしなくていい。何か予定があるんだろ?』
私を見て男の子はそう言い、女の子は「うんうん」とうなずく。
――予定……。
確かに「予定」というか……ただ「手芸屋さんに行こうかな?」くらいのぼんやりとは考えていた。
――でも、急ぎではないし……。
そう「どうしても今日じゃないと!」というほどの「予定」でもない。
――そもそもこの子たちはどうしてここに?
むしろそっちの方が気になる。
「……」
『……』
そんな私の様子を見ていた男の子はふと『なぁ』と私に声をかけた。
「な、何?」
『いや、おれらの服を直せるのであれば服を作る事も出来るんじゃねぇか……って思っただけだ』
――それは……。
「出来る……よ?」
何せ針を使えなかったときは毛糸で服のようなモノを作っていたくらいだ。作ろうと思えば一から作れる。
――針と糸を使う前に何度か毛糸で作っていたから洋服がどういう風に作られているのか分かったんだよね。
本当は「直したい」と思っていたけれど、毛糸で作っていた経験があったおかげで「ようせいさん」の服を直す時に「知識」として役に立っている。
――洋服を一から作るのって、やっぱり直すよりも時間がかかっちゃうし。
でも、実際に作った経験がある事で洋服を作るのがどれだけ大変なのかも知る事が出来た。
『え、じゃあじゃあ服以外も作れる?』
男の子の質問に答えた私に女の子はグイグイと寄る。
「え、う、うん。あまり難しいモノじゃなければ……」
――ちょっとしたモノならおばあちゃんに教えてもらったし。人形とか……。
そう、意外にもあみ物は基本的なあみ方さえ覚えてしまえば色々と作る事が出来る。
――ただ……。
「ちょっと今は材料がなくて……」
私が「ごめんね」言うと、女の子は『そっか』と残念そうに言う。そんな顔を見ると少し申し訳ない気持ちになるけれど、ないものは仕方がない。
『……材料があれば……出来るのか?』
「え? う、うん」
そう答えると、男の子は「よし」となぜか納得した様子で答える。
「?」
『じゃあ買いに行くか』
「え」
『元々そのつもりだったんだろ?』
「……」
どうやら男の子は最初から私が買い物に行くつもりだったと分かっている様だ。
「た、確かにそのつもりだったけど……」
『あ、じゃあ早く行こう? あまり時間ないから!』
「う、うん……そうだね」
チラッと外を見ると、あっという間に空がオレンジ色になっている。
いくら冬が終わったとは言っても夏と比べたら外が暗くなるのは意外と早い。
――あんまり暗くなっているとお母さんも心配するし……。
何より暗い道はこわい。
私は「ようせいさん」が見えると分かってからというモノ、実は同じように「おばけ」にも注意していた。
――だって、あんまり……いい話を聞かないから。
この「おばけ」とか「ゆうれい」の話は小学生になってからよく聞くようになったと思う。
――今のところは「ようせいさん」以外を見た事はないけど……。
でも、どちらもふつうはみんなに見えない存在。
だからそこまで気にする事でもないかも知れない。ただ……私の場合は「ようせいさん」が見えるから……。
それを考えると……いてもたってもいられなくなる。
『……どうした?』
『大丈夫?』
ハッと我に返ると、二人が心配そうに私の方を見ていて、女の子は突然動かなくなった私を心配してか私の目をのぞきこむ。
「だ、大丈夫だよ。ごめん、少し考え事してた」
『……そうか。で、どうする?』
「ど、どうするって?」
『買い物。体調が悪いなら……』
「それなら大丈夫! ありがとう、気にしてくれて」
そう笑顔で言うと、男の子は『お、おう』と照れくさそうに言ってそっぽを向いてしまった。
「あらら」
『あ、えと……』
「大丈夫。分かっているから」
――今のは照れかくしだって。
私が笑顔で答えると、女の子はホッとした様子で『よかった』とつぶやく。
「じゃあ、すぐに準備してくるね!」
そう言うと、女の子は『うん』と答え、男の子はぶっきらぼうに『おう』と言い、私は自分の部屋へと急いだ。
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