第3話 家に帰ったら……
いつから「ようせいさん」が見えていたのかは分からない。本当に「気が付いたら見えていた」という感じで私のそばにいた。
――だから「みんなにも見えているモノ」だと思っていたんだけどな。
そして「この事を話す事によってみんなと仲良くなれる!」そう小さいころの私は思っていた。
だって「ようせいさん」はみんな自由でかわいかったから。
――それに、何かきっかけがないとみんなと仲良くなるの、難しいから。
私はお父さんの仕事でよくいろいろな場所に引っ越しをしていた。
小さい頃はよく仲良くなった友達と離れてしまうのが悲しくて、引っ越しのたびに泣いてしまってお母さんたちを困らせてしまっていたらしい。
――今では泣いて困らせる事もなくなったけど。
いや、むしろあきらめる様になったと思う。
友達を作ってもどうせ引っ越してしまうのなら……と。
そして引っ越しする事が決まる度にお母さんたちは「ごめんね」と私に謝る。ただ、私は謝ってほしかったワケではないのだけど……。
ただ、泣かなくなった理由は……あきらめもあったけれど、それ以上に私のそばに「ようせいさん」たちがいてくれた事が大きいと思う。
――だれにも言えないけれど……みんな、私のいつもそばにいてくれる。
最初はなかなか寄ってきてくれなかったけど、私が悪いひとじゃないと思ってくれたのか仲良くなった。たまにさみしくなる事はあるけど、悲しくはない。
そして「ようせいさんたちの洋服を直せる」様になったのは家庭科の授業で針と糸を使える様になってからだ。
――ずっと気になってはいたのだけれど……。
小さい頃から私に話しかけてくれる優しい「ようせいさん」の中に着ている洋服の糸が出ていたりボタンが取れそうになっていたりしている子がいて気になっていた。
でも、昔は直し方が分からなくて気になっていても「毛糸で服を作る」という事しか出来ず「直す事」は出来なかった。
――それに……。
直し方が分かっても……みんなに見えない「ようせいさんの服」を直せるか分からなかった。
そして、学校で針と糸を使うようになった時。一人の「ようせいさんの服のボタン」が取れそうになっていた。
『それ……私が直そうか?》
そう言ったけれど、実はその時私は「本当に出来るのかな?」とドキドキ。
その時は「ようせいさん」とも仲良くなっていたから、そう言った時に「ようせいさん」が『本当!?』って喜んでくれた。
ただ、自分で言ったにも関わらず「失敗出来ない」という気持ちが大きかった。
――最初は全然上手く出来なかったけれど……。
そう、最初は全然上手く直せなかった。
ただ「直せなかった」というワケじゃない。時間がかかったり上手くぬえなかったりした。それは決して「ボタンの付け方」が上手く出来なかったワケじゃない。
――でも「ようせいさん」に心配されちゃったけど。
どうしてそんなに時間がかかってしまったのか「使っていた糸」にそのワケがあった……という事を「ようせいさんの服を直す」様になって新しい糸を『ある手芸のお店』で買って使うようになって気が付いた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ここに引っ越す前、お母さんたちが「今回の引っ越しで最後だから! もう引っ越す事はないから!」と私に必死に言い聞かせた。
正直、私はその話を聞いた時に「どういう事だろう?」と意味が分からなかったけれど、ここの引っ越した時に何となく「ああ、そういう事か」と何となく理解した。
――だって、今までの『家』とは全然違ったから。
今までの家は「マンション」で、今回の「これからここで生活をするんだよ!」と言われて車に揺られて着いた家は本当に「家」で……。
ずっと「マンション」で生活をしていた私はこの家を見ると……というのも少し違うかも知れないけれど、それでもこの「家」を見ると「お父さんとお母さんの言っている事は本当かも知れない」という気持ちになった。
――その時はうれしかったけど……。
なかなかクラスになじめていない今は……ちょっと「引っ越したいなぁ」と思ってしまう。
――ズルいなぁ、自分。
転校する前は「引っ越したくない」と思うのに、今は学校生活が上手くいっていないからって「引っ越したい」なんて……。
都合の良い自分に思わず「はぁ」とため息をもらしてしまう。
でも、そんな私のため息はだれもいないから聞こえない。そして私はカギを差して玄関を開けながら「ただいまー」と言った。
――だれもいないけどね。
そう、家にはだれもいない。つまり、私の「ただいま」の声に答えてくれるのは「ようせいさん」もいなくて家族もいない。だれもいない……と思っていたら……。
『あ!』
『遅い!』
「えっ!」
どことなく聞き覚えのある声に、あわてて靴をぬぐと……。
『おかえり~!』
どこから入って来たのか、お昼休みに洋服を直した「ようせいさん」が二人、私を出迎えてくれた。
「どっ、どうしたの?」
今まで家に帰っても「ようせいさん」もだれもいなかった事がほとんど。
それに、いつも「ようせいさん」が現れるのはお昼休みごろの学校。もしくは夜のお母さんが帰ってくるくらいの時間の事が多い。
――だから、今日もだれもいないと思っていたのに……。
コレは意外だった。
『帰ってくるの、待っていたんだよ?』
「待って……いた?」
どういう事なのか分からず首をかしげていると……。
『はぁ、だから言っただろ。わざわざ待っしなくてもいいって』
ため息交じりに男の子の「ようせいさん」はそう言うと、女の子は『ダメよ!』と答える。
『私たちにとって洋服は大事なモノで直せる人なんてほとんどいないのだから!』
『いや、そもそも俺たちが見える人間がめずらしいだろ。そりゃあ、お礼が出来るのなら俺だってした方がいいとは思うけどな』
「……」
――そういえば……。
言われてみると、確かに今まで「ようせいさん」の洋服を直しても『お礼』などをもらった事がない。
――それに……お礼してもらいたいワケじゃないし。
それに、私が「ようせいさん」の洋服を直しているのはあくまで「私が直したいから」であって『目的』じゃない。
――だから全然気にしなくていいのに……。
そう思うし、その気持ちだけでうれしい。
『どうかしたの?』
「う、ううん。なんでもないよ……あ」
そこで私は気が付いた。
『?』
「えーっと」
お金を取りに家に帰ったらすぐに『手芸屋さん』に行くつもりだったということを……。
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