第2話 手芸店『いやし』
あっという間に授業が終わって今は帰りの会。
コレが終わったらあとは帰るだけ……だからなのか、どことなくみんなソワソワとしている。
――みんな早く帰りたいんだなぁ。
私はそんなクラスの子たちを見ながらボーッとしていた。
「……」
私の席は窓側の一番後ろ。
この席は先生から意外に見えやすいのだけれど、その代わりクラスのみんなからは見えにくい場所だ。
――でも、私からはクラスの子たちの行動がよく見えるんだよね。
それこそ、早く帰ろうとソワソワしている子や先生の話を聞かずに帰る準備をしている子。なぜか本を読んでいる子……などなど意外にみんな自由だ。
――帰った後……どうしようかな。あ、そうだ。
そういえば今日、お昼休みに洋服を直していた時に糸がいくつかの残りが少なくなっていた事を思い出した。
――うーん。急いで買わないといけないって程の用事ではないけど……。
今日出された宿題は休み時間中に終わらせてしまったから、家に帰った後にやる事も特にない。
――でも、それなら一回家に帰ってからお金を取りに行かないと。
いつもはお母さんの買い物のついでに連れて来てもらうのだけれど、今日は宿題もないから一人で行ってみよう。
――自転車で行ける距離だし!
私はいつもお小遣いをお手伝いやテストの後にもらう。
――でも、一回も使った事がないんだよね。実は。
お母さんたちは「欲しい物がある時に使ってね」と言うけど、あまりそういう事がない。
――本は図書室で借りればいいし、マンガもあまり読まない。お菓子は家に帰ったらいつも用意してくれているし。しかも、買い物について行った時にいざ使おうと思ったら……。
いつもお母さんが買ってくれる。だから、私はお金の使いどころがあまり分からずにいた。
「……」
お父さんはいつも夜遅くまで働いていて、いつも私が寝るくらいに帰って来る。お母さんはお父さんより早く帰って来るけれど、それでもいつも六時よりもおそくなる事が多い。
――一度家に帰ってから「お店」に行っても……うん、時間も大丈夫そう。何より宿題は終わっているし。
「きりーつ」
そんな事を考えていると、いつの間にか先生の話が終わったみたい。
日直の人の言葉を聞き、みんな立つと……。
「先生さようなら。みなさん、さようなら」
帰りのあいさつをする。
「はい、さようなら」
そして、みんなのあいさつをキチンと聞いた先生が笑顔であいさつをすると……。
「さようならー」
「あ、待ってよ!」
そのまま授業が終わってすぐに帰る準備を終えていた半分くらいの子がランドセルを担いですぐに教室を飛び出した――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……」
――みんながあいさつと同時に教室を出ていくの……お昼とあんまり変わらない。
帰りの場合はあいさつだけど、お昼休みの場合は少し違う。でも、この光景を見ていると、思わず笑いそうになる。
「ねぇねぇ、これからどうする?」
「今日塾なんだー」
そうこうしていると、あっという間に教室にいるのは私以外に二、三人くらいしかいなくなっていた。
「……ふぅ」
しかも、その内の二人は日直。
――あんまり長く残っていると、日直の人のめいわくになっちゃうから……。
きっと日直の人たちも早く帰りたいのに私が残っていてそうじなどが出来ずに帰るのが遅くなるのは良くない。
「さっさと帰らないと……」
いつもは帰りの会が始まる前に準備を終わらせているのだけれど、今日は帰りの会が始まる前に準備を終わらせられなかった。
「後は……」
教科書とノート……と文房具だけでなく、今日使った体操服の入っているカバンも忘れず机に置き、最後にさいほうセットをランドセルの中へと入れる。
「……」
――そういえば……最近。あみ物していないな。
実は「ようせいさん」が見える事が分かった時。
その「ようせいさん」の着ている服の糸が出ていたり、破れていたりした事に気が付いて……それを直すのに針を使わないといけないという事が分かった。
それで直そうと思ったのだけど……。
――お母さんに「危ないからダメ」って言われちゃったんだよね。
でも、針を使わずに直す方法が分からなかった。
どうしようかとなやんでいる時、ふと目に入ったのが毛糸であみ物をしているおばあちゃんの姿だった。
――あ、そうだ!
そして、おばあちゃんにあみ物をならって何とか形になったモノを「ようせいさん」に渡していたんだ。
――本当に最初のころはおばあちゃんに教えてもらっても全然何を言っているのか分からなくって、思い通りに出来なくてものすごく大変だったけれど……。
何とか完成させる事が出来たのはとてもうれしかったのを覚えている。
それに「ようせいさん」に渡した時のうれしそうな顔を見た時……もっとうれしかったんだよね。
でも、学校の授業で針やミシンの使い方を習ってからはあまりあみ物をしていない。
――せっかくだし……。
今日は「お店」に行くつもりだし、ついでに毛糸も買うのも悪くない。
「……」
あみ物をするのに必要な道具はそろっているから、後は毛糸さえあれば出来る。
――ただ問題は……。
私はランドセルを背負い、体操服が入ったカバンを手に持ち「私があみ方を忘れていなければ……」と心の中で小さくつぶやいた。
――あ、後はお金……どれだけあったかな。
教室を出てげた箱で私は一番大事な事を思い出した――。
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