ようせいさんのいやし手
黒い猫
第1話 遠野みやこ
「おーい! サッカーしに行こうぜ!」
「あ、待てよ!」
給食を食べ終わった後の待ちに待った「お昼休み」はみんな自由に外に遊びに行ったり体育館に行ったり……。
「ねぇねぇ――」
「――だよね!」
教室に残って友達とお話をしたり、本を読んだり……みんな自由に過ごしている。
「ZZZ……」
中にはねちゃっている人もいるみたい。
そんな中、みんな自由にお昼休みを過ごしている中。自分のつくえの上に針と糸を出してせっせと何かを作っているのが……私『
「うーん……と」
今年、私は小学五年生になったのだけれど……。
「……」
「えー! 本当!?」
「本当だって!」
私の耳に、外や体育館に行かずに教室に残って楽しそうに話している子たちの声が耳に届く。
「ねぇ、何読んでいるの?」
「……探偵シリーズ」
「あ! 知っている! 面白いよね!」
「……うん」
さっきまで一人静かに本を読んでいる子も話しかけられてうれしそうに答える……のを見ながら私は一人チクチクとぬい物をしているけれど、私に声をかける子はいない。
「……」
この光景を見ての通り「友達」と呼べる子はいない。
五年生になって「クラス替え」というモノがあり、去年まで一緒だった仲の良い子たちとはクラスが離れてしまった。
元々私は三年生の時にこの学校に転校して来た。
だけど、どうやら「クラス替え」は二年に一回あるみたいで、ちょうど私が転校してきたタイミングも「クラス替え」があった数日後だったらしいの。
だから……なのかは分からないけれど、タイミングが良かったのかその時は何とか上手く入り込めたと思う。
でも、今回の「クラス替え」は前回とは違ってなかなか上手くいかない。
しかも、運が悪い事にどうやら私のクラスの女の子たちはみんな塾やクラブ活動ですでに自分たちで仲のいいグループが出来ていたみたい。
そんなすでに出来上がっている仲の良いグループに入りに行くのは……なかなか難しい。
だって……みんなの楽しいふんいきをこわしたくない。せっかくみんな楽しそうに話していたのに……自分が入った事によってその良いふんいきがこわれてしまうのがイヤだ。
それに「人」ではないけれど、私には「友達」の「彼ら」がいるから「さみしくはない」と言いたいところだけど……でも、実はやっぱり少しさみしい。
「……」
そんな事を考えていると、突然「キャー!!」という悲鳴が外から聞こえてきた。
「??」
私はその「悲鳴」がした方が見ると……。
「あ」
転校して来たばかりのころは驚いていたけれど、二年も経つとさすがに「ああ、彼ね」と慣れる。
「今日も元気ね」
そこには女の子たちが何人か集まっているのだけれど、どうやらさっきの悲鳴はその子たちのモノだったらしい。
そして、その子たちの目的は『ある男の子の応援』らしく、今。外では男の子たちがサッカーをしている真っ最中らしい。
「
たった今「池里」と呼ばれた男の子はチラッと女の子たちの方を見た……様に感じたけれど、すぐに視線を戻した。
私は「名前を呼ばれたのに気が付いたのなら手くらい振ってもいいのに……」なんて思ってしまう。
でも、女の子たちにとっては「自分たちの方を見てくれた」のがうれしかったのか「キャー!!」と隣にいる女の子たちの手を取り合ってまたさけんでいる。
「……」
転校したばかりのころはこの光景に驚いていたけれど、その時の同じクラスだった子から『
でも、一度も話した事なければ名前と「晴れた日の昼休みにサッカーをしている」という事以外何も知らない。
「……」
――後は……女の子たちに人気……と。でも。なんか、楽しそう。
そんな楽しそうな光景を見てしまうと……思わず一人教室で過ごしている自分と比べてしまう。
『――大丈夫?』
『悲しい?』
そんな私を心配したのか「小さい声」が聞こえてくる。
「うん、大丈夫だよ?」
私も小さく人に聞こえるか聞こえない声でその「声」に答える。
『本当に?』
「うん」
私に声をかけたのは小さいお人形さんくらい小さな服を着た人……の様な人。
――でも、私とは違って「羽」がある。
例えを上げるなら……私が小さい頃に遊んでいた今の私の手にちょうどすっぽり入っちゃうくらいお人形さんくらい小さい。
『よかった~!』
『何かあったら……ちゃんと言えよ』
一人の子はホッとした様な顔をして、もう一人の子はぶっきらぼうに言いながらプイッと私からそむけた。
「うん、ありがとう」
でも、知っている。コレはきっと「照れ隠し」だって。
――だって少し耳が赤くなっているもん。
「……」
でも、実はこの「声たち」は私以外には聞こえない。いや「声」どころか「この声の主すら見える」という人すら会った事がない。
――もっとちっちゃいころはそこにいるのに気が付いてもらえなくて泣いちゃった事もあったっけ。
その頃は「目の前にいるのに!」とか「すぐそこにいるのに!」どれだけ私が言っても全然分かってくれなくて……。
――あの時は「なんで分かってくれないの!」って思っていた。
保育園の先生やお父さんやお母さん。おじいちゃんもおばあちゃん。どんなに「大人の人」に言ってもみんな困った顔をして、私のほしい答えを言う人は……誰もいなかった。
でもそれ以上に「大人の人」だけじゃなくてお友達にも言っても「え、何もないよ?」とか「みやこちゃん。どうしたんだろう?」っていう顔をしていたのが……実は一番悲しかった。
そして、ずっと言い続けていたらみんなに心配されて……結局、お母さんが病院に連れて行ってくれた事もあった。
でも、こういった事があってようやく分かったんだ。
――あ「みんなには見えていないんだ」って。私だけに見えているんだって。
病院で色々と調べてもらっても悪いところはなかった。
「……」
みんなに「分かってもらえない」という事が分かった時は、寂しい気持ちになったけれど……。
――でも、今は全然寂しくない。
この学校に転校してからは「この子たちが見えている」という事は誰にも言っていない。
――だって、本とかに出てくる「不思議な力」みたいな感じがするし!
今ではそう思う事にしている。ただ、実はちょっと言いそうになってしまう事があるんだけどね。
その時は何とか誤魔化しているのだけれど……。
『おい、手が止まっているぞ』
「あ、ごめん」
そう言ってきたのはついさっき私をそむけた男の子。
『もう、直してもらっているんだからそんな事言わないの!』
そんな男の子に注意をするのはかみを肩まで伸ばした可愛らしい女の子。
「ふふ」
私はそんな彼らを『ようせいさん』と呼んでいる。
本当は違うかも知れないから誰にも……二人にも言っていない。私だけの呼び方。
――違ったら失礼だもんね。
そう思って誰にも言っていない私だけの「秘密」の呼び方だ。
「もう少しで終わるからね」
『ありがとう!』
『おう』
二人の顔は見て分かりやすい位「うれしい」って感じだったけれど、男の子はまたプイッと顔をそむけてしまった。
――でも、大丈夫。それも「うれしい」って事だから。
私は小さく笑ってチクチクと針と糸を使ってぬう。
そう、今私がぬっているのは「二人の洋服」で、つまり「ようせいさんの洋服」を直していた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「よし! 出来た!」
そして、私はお昼休みが終わる前に直す事が出来た。
『ありがとう!』
『……ありがとう』
女の子は笑顔でお礼を言ってくれた。
でも、男の子は直った服を見て目をかがやかせていたけれど……すぐにハッとして顔を見られない様に下を向いてように小さな声でお礼を言った。
そんな二人を見て、対照的な態度だったけれど……私にはちゃんと二人が「うれしい」という気持ちが伝わった。
「どういたしまして」
だから、私も二人に笑顔でそう答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます