一敗

「はい、いらっしゃい。」

 占いの館と書かれた簡易テントの、暖簾っていうか布っていうか。テント特有の入口をくぐるとそこには想像する占い師より一回り若いお兄さんがいた。襟シャツにサルエルパンツというすごいラフな格好。占い師も時代に合わせて進んでるんだななんて思う。なんだかちょっと顔もかっこいいし詐欺師とかだったらどうしようか。パイプ椅子に座るよう促されたときに一瞬目が合って、反射的に目を逸らしてしまった。表情を伺うのも怖いのでそのまま周囲を観察する。中は意外と広いけどお兄さんの荷物に、お互いの座るパイプ椅子と木目がよく見える机以外は何にもない。あの、多目的室とかによくあるやつ。

「どんなことを占いに来たの?」

「その前にすみません、無料ってあったんですけど本当ですか。」

「うん、まぁ趣味みたいなものだからね。お代は結構だよ。」

じゃあこの人はどうやって生活してるんだろう。このテント、結構頻繁に見かけるし。広告で見かける投資とか副業みたいなことをしてるのかな。それこそ本当に詐欺師だったりして。まぁいいや。無料だっていうならそれに甘えよう。

「私、好きな人がいて、それで、告白しようか迷っているんですけど。するべきかどうかとか、うまくいくかとか、占って欲しいです。」

「そっか。制服だしこの辺の高校生?青春だねー。でも大丈夫かな。俺、恋愛経験全然ないからなぁ。」

別にお兄さんからのアドバイスが欲しくて来たわけじゃない。なら、占いによるアドバイスが欲しいのかと言われるとそれもそうじゃなかったりするんだけど。

「恋愛相談ならともかく、占いでも占う人の恋愛経験って大事なんですか?」

「確かに。関係無さそうだ。」

お兄さんは納得のいったような表情をした後に君、賢いね。とこちらを指さし片目をつぶるキザなリアクションをとった。それからトランプを取り出すと、何やらカードを一枚一枚確かめながら4つの山に分けて並べていく。

 私は、これからのことを思うとそれを真っすぐ見れなくて机の木目を見ていた。一定のリズムを刻むカードの音が心地良い。当たり前だけどカードの扱いに慣れていて、なんとなくマジシャンみたいだなと思った。服装もどちらかと言えば占い師よりはそっち寄りだし。


「はい、できたよ。これはうまくいくんじゃない?」

そんなことを考えているうちに終わったらしい。どうやらしっかりとマジックではなく占いをしてくれたみたいだけど、結果が漠然とし過ぎている。

「それは、えっと、どうして?解説をお願いします。」

「今、一人でスピードやってたんだけどね。スピードってどうしても詰むことあるじゃん。それが無かったんだよ。きっとすごい良い結果だよ。」

スピードってあのスピード?なんかありがちなルールだし、占いの手法で使われていてもおかしくないけどこの人は今間違いなくスピードと言った。なんというか、それは、アウトってやつなんじゃないか。

「しかも見てよ。一番上のカードが全部ハートなの。これはきっと恋占いにおいて最高なやつだと思わない?」

自信満々に小学生並みの占い結果を披露してくれるお兄さんに呆気にとられてしまう、一周回って可愛いかもしれない。

「あ、えっと。すごい、ですね。私も上手くいく、んですか?」

「あ、君あんまりすごいと思ってないでしょ。いいけどさ。上手くいくと思うよ。」

分かりやすく口を尖らせるお兄さんがおかしくて表情に出てしまう。当初の目的が、私の黒い感情がどこかへ行ってしまった気がする。

「占いって不思議なパワーが~とか、絶対当たる~とか言う感じだと思ってました。もし私が失敗してまたここに来たらなんていうんですか?」

「占いなんて、背中を押せたら上等だからさ。勢い余ったとき前から受け止めてもらうのはお友達を頼りなよ。」

多分、この人は。今から"もうフラれた後"だってカミングアウトしても狼狽えないんだろうな。そもそも、この人自身占い信じて無さそうだし。私の、"もう終わった告白"を占わせて貶めようという作戦は失敗したのだ。しかしそれが私にとって一番良い結果だったようにも思える。あぁいや、告白が成功するのが一番か。ダメだな、何にも成功しないや。

「ありがとうございました。また来ます。」

「また来てくれるんだ。じゃあ、次は特別にハーゲンダッツでも用意しとくよ。お詫びになるかお祝いになるかはそのとき教えてくれたら嬉しいな。」

私はゆっくりと席を立つ。お兄さんは座ったまま小さく手を振っていた。




「そうそう、目の周り赤く腫れてるよ。告白するときは気をつけなね。」

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