第6話本多忠勝の矜持!
僕の機神の武器は回転式連弾銃だ。しかし威力はかなり低い。
理由としては心力――機神を動かすエネルギーのようなものだ――が低いことに起因する。加えてまだ機神の操作に慣れていない。だから相手の装甲を撃ち抜けられないのだ。
でも決闘相手の本多忠勝は違う。
僕と同世代くらいだけど背負ってきた覚悟と繰りぬけてきた戦いが圧倒的に違う。
それが如実に機神で表われている――
「参るぞ――筑波ぁ!」
丸太のような槍を叩きつけるように、忠勝は僕に向かって叩きつける。
これは見え見えだったので後ろに回避できた――否、それは悪手だった。
槍を叩きつけた瞬間、地面が爆発して――土や石が辺り一面に吹き飛んだ。
当然、石礫が僕を襲う――両手を交差して防御するけど、ダメージは避けられなかった。
「いってえ! な、なんだあ今の!?」
よく見ると槍が燃えている――いや、爆発させたのか!
ぶつけると爆発する槍!? なんだよそんなの反則だろう!?
「くっそおおおおおお!」
僕は距離を空けて――回転式連弾銃で忠勝を狙った。
一点ではなく、多面を狙うように――
「愚かな……俺の槍の能力を知っただろう!」
忠勝が槍を前方に突きだす――不味い!?
銃弾が槍先に当たった瞬間、凄まじい爆発が辺り一面を覆った!
爆風で僕は吹き飛び、草原の草に火が点いた。
おそらくしばらくは草刈りをしなくて済むくらいに燃え尽きてしまうだろう。
「――ぐっはっ!」
地面に叩きつけられてごろごろと転がってしまう僕。
機神遣い相手だと、よく地面に寝かされるなと自分でも呆れる。
「この程度か……それでよく我が主君の機神を奪えたものだな!」
奪ってないって言いたかったけど、恐ろしい迫力で声が出ない。
忠勝がゆっくりと近づいてくる。
ちくしょう、装甲が厚いから爆発に耐えられるのか。
なんとか起き上がって、僕は征士郎さんが作ってくれた落とし穴のほうへ逃げる。
後ろから怒声がするけど気にしない。
一刻も早く、罠に嵌めないと――僕の身が持たない!
「はあ、はあ、はあ……」
荒い呼吸のまま、落とし穴の前まで来た僕。
そしてこっちに迫ってくる忠勝を待つ――
「ふん。逃げ回るだけだと思っていたが、死ぬ覚悟はできたようだな」
憎しみを最大限に込めた声。
ゆっくりとこっちに近づいてくる。
あと五歩、四歩、三歩――
「……むう? どうした? 何故何もしてこない?」
もう少しというところで忠勝は足を止めた。
怪しまれている感じがする……
仕方ない、あんまり挑発したくなかったけど……
「ど、どうした本多忠勝? 急に病気になったのか?」
「病気? 貴様、何を――」
「病名は『臆病』だな。これは帰って薬をもらったほうが――」
ぶちっと忠勝がキレた――早足で僕のほうへ近づく。
そして落とし穴に足をかけた――落ちていく。
「ぬううう!? 貴様、この俺を!」
深い穴に落ちた忠勝。自力で這い上がるのは不可能だろう。
ふう。なんとか助かった――
「……ふんぬ!」
忠勝の気合の言葉ともに、穴の中でどごん! と大爆発が起こった。
あまりの爆音に思わず尻餅を突く――それ以上に驚くことがあった。
爆風を利用して――忠勝が穴の中から出てきた!
「でたらめすぎる……!」
僕がそう呟いても責めないでほしい。
穴の淵に手をかけてゆっくりと這い上がる様は心底恐ろしい。
まるでゾンビが墓地から出てくるような――
「卑怯な真似をして……覚悟はできているんだろうな……?」
流石に装甲だけじゃ防げなかったのか、機神がところどころ破損している。
それでもチャンスだとは思えなかった。
僕を殺そうとする気迫が全然収まっていない――
「策は尽きたようだな……!」
「ど、どうかな? また穴に突き落とせば、勝機はあるかも……」
とは言うもののどうやって落とせばいいのか分からない。
くそ、こんなことならもっと落とし穴を用意すれば良かった。
後悔後に立たずだ。
忠勝と穴の距離は三歩くらいだ。
回転式連弾銃を撃って――穴に落とすことはできるかもしれない。
だけど槍が――うん?
「愚かだな。この俺に銃など使うとは」
右腕を構えた僕に忠勝は槍を見せた。
また爆発させる意思も見せている。
けれど僕はそっちのほうがいいと思った。
「本多忠勝。もし槍を使ったら――爆発の衝撃で落ちるかもしれないぞ?」
「…………」
「それに破損しているとはいえ、そんな重い機神じゃ素早く動けない。さらに言えば穴に落ちたら這い上がれない。破損している機神じゃあさっきの方法は使えないだろう」
将棋やチェスでたとえるのなら既に詰んだ状態だ。
これ以上の戦闘は意味がない。
「降参したらどうだ? 君だって分かっている――」
「それがどうした? まだ俺は、負けていない!」
一歩踏み出そうとしたので、僕は反射的に撃ってしまった。
忠勝は槍で防がずに――機神で受けた。
いくら低威力でも、銃弾は銃弾だ。穴のほうへよろけてしまう。
「ほ、本多忠勝……」
「たとえ勝てなくとも、死ぬと分かっていても――」
再び歩もうとする忠勝。
呼吸が自然と荒くなる僕。
「――降参などせん!」
その言葉に僕は右腕を構えて――撃った。
銃弾を受けながらも前へ進もうとする忠勝だったけど。
それも限界が近くて――
「ぬうううううう!?」
穴の淵に足を取られて――バランスを崩す。
そのまま後ろから落ちて――駄目だ!
「うおおおおおおおお!」
僕は機神につけられた加速装置、つまりブースターを使って――滑り込むように落ちゆく忠勝の手を取った。
かなりの重量だったけど機神で身体能力が向上しているので、ぎりぎりで忠勝が落ちるのを防いだ。
「な、なにをしている!? 貴様、俺に恥をかかせるのか!」
「ち、違う! 落ちたら死ぬつもりだろう!」
僕は両手で引っ張り上げようとする――だけど重すぎる!
「うぐぐぐ! も、もう一度、爆発を試そうとする……だけど、それじゃあ確実に死んじゃう……」
「貴様には関係ないことだ!」
「関係あるよ! 僕は、君を死なせたくない!」
僕の言葉に忠勝は息を飲む気配がした。
「決闘の条件、言っただろう! 僕は、僕たちは、君を仲間にしたいんだ!」
「…………」
「それなのに死んじゃったら意味ないじゃんか!」
必死に言ったものの、なんて自己中心的な理由なんだろう。
忠勝の気持ちなんて無視するような言いざまだ。
これじゃあ殺されても文句はない――
いきなり、すうっと忠勝の身体が軽くなった。
見ると機神を解いたのだ。僕は一気に引き上げる。
はあはあ、と呼吸が互いに荒い。
「聞きたいことがある」
顔を伏せたまま、忠勝は言う。
「もしかして、我が主君から機神を託されたのか?」
「……奪ったって誤解は解けたようだね」
「殺めてまで奪うような外道には、もう思えない」
「……うん。松平さん……君の主君の最期を看取った。亡くなる間際に貰ったんだ」
忠勝は「そうか」と呟いて、大の字になった。
僕は体育座りになって「機神、返そうか?」と言う。
「元々、僕のものじゃあないし。松平さんに近しい人がいれば返すよ」
「いや。既に適応している。それは貴様のものだ」
適応、か。
忠勝は「もう一つだけ訊かせてくれ」と僕を見ずに言う。
「どうして俺を殺さなかった? 仲間にするだけが理由なのか?」
「……君の強さを尊敬したからだ」
僕は自分の気持ちを素直に述べた。
「上手く言えないけど、弱い僕には眩しく見えたんだ。君の勝とうっていう気迫とか死んでも負けないっていう覚悟が。僕にはないものだから」
忠勝が納得してくれたのかは分からない。
しかし、忠勝は「なるほどな」とだけ言ってくれた。
「……俺の負けだ」
「えっ? どうしたんだ急に」
「負けを認める。諏訪家の軍門に降る」
忠勝は起き上がって、僕を真剣な眼差しで見つめた。
「貴様がどこまで己を貫くか、そばで見させてもらう。我が主君の機神のこともあるしな」
「忠勝……」
「よろしくな、筑波博」
こうして僕は本多忠勝に辛勝した。
罠に嵌めての決闘だったけど、そこだけは誇らしいと思える。
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