第4話仲間になろうよ!
征士郎は大太刀、僕は回転式連弾銃。
一見、有利そうなのは飛び道具を扱う僕だけど、実際はかなり違う。
何故なら僕は屋台の射的でさえ上手く当てられないほどの銃のド素人なのだ。
一方、相手の征士郎は使い込まれた武器を使っている。
しかも機神を纏っているので力も防御も増している。
格闘技を習っていない、ひ弱な高校生が敵うわけがない――
「行くぞ……筑波博!」
征士郎は僕の名を呼びながら、大太刀を水平に構えて一直線に向かってくる。
こっちが銃を構えているのに、そんなの関係ないと言わんばかりに――
「うわああああああ!」
意味不明な喚き声を発しながら、乱雑に銃を撃つ。
しかし――当たらない。
狙いが定まらないのもそうだけど、撃った反動でぶれてしまう。
さらに、征士郎の攻撃の痛みと恐怖で身体中が震え上がっている!
「――しゃらあ!」
短い気合の声を上げて、征士郎が大太刀を下から切り上げた。
脇に当たって肋骨にひびが入る痛み。
肺から空気が無くなったと錯覚するほどの感覚。
「ぎゃあああああ! 痛い、痛い!」
僕は再び吹き飛んだ。
ごろんごろんと転がりながら、どうして自分はこんなことをしているんだと今更なことを考えてしまう。
なんとか痛みに耐えて、立ち上がる。
「どうした? 貴様の機神の力はその程度か?」
征士郎の上からの物言いは当然だった。
大人と子供のように力の差は歴然だった。
こうなったら、電磁砲を撃つしかないけど――
『心力が八割五分以下です。電磁砲を撃つには足りません』
兜の前面に意味の分からない表示がされる。
心力ってなんだよ! まさかエネルギーの一種なのか?
そんなの聞いてないぞ!
「後ろだ。受けてみろ」
後ろに回り込んだ征士郎が僕に呼びかけて――斬ってくる。
咄嗟に振り返って両腕で受ける――ぶっ飛ばされる。
だけど、さっきよりはダメージは少ない。痛みもちょっとだけだ。
「貴様は、その武器を有効に使っていない」
征士郎が大太刀を担ぎながら独り言のように呟く。
有効に使うって……
「連続して撃てるのであれば、狙うのは一点ではない。分かるか?」
一点ではない?
それは――
「そうか! こうすれば――」
僕は再び右腕を構えて、征士郎に向かって撃つ。
凄まじい反動があるけど気にしない。
連続して撃てるのなら、狙うべきは一点ではなく――多面だった!
「そうだ。それこそが貴様の戦い方だ」
征士郎は僕の銃弾を躱さず、大太刀を盾にして、横移動を繰り返して最小限のダメージに留めながら、受け続ける。
僕は銃を撃ちながら、征士郎の意図をくみ取っていた。
おそらく征士郎は僕に戦い方を教えているんだ。
ド素人の僕でも生き残れるようにと、丁寧に教えてくれる。
その気遣いに僕は感謝していた――
「征士郎、さん。もうやめましょう」
僕は撃つのをやめて、征士郎――さんに呼びかけた。
征士郎さんは「良かろう」と戦闘態勢を解いた。
ゆっくりと僕と征士郎さんは近づいていく。
「ありがとうございます。僕に戦い方を教えてくださって」
「別に構わない。貴様が一戦力として活躍できればいいのだ」
「どうしてそこまで親切にしてくれるんですか?」
かえでと同じように、征士郎さんは僕が仲間に加わるのが反対だと思っていた。
だけど征士郎さんは「俺とかえでだけでは武田家には勝てない」と言う。
「少しでも戦力が必要だ。それに貴様は未熟とはいえ、機神遣いだ。貴重な存在でもある」
「そもそも、機神ってなんですか?」
「古代からある戦闘用鎧だ。詳しいことは知らん。そういうことはかえでが知っている」
僕の知る戦国時代とは異なっているのは分かっていた。
もしかすると、タイムスリップではなくて、パラレルワールドに移動したというのが正しいのかもしれない。
「貴様が何者かは分からない。しかし、俺たちの仲間になれば最低限の衣食住の保障はできる」
「それは魅力的ですけど……かえでさんが反対するんじゃないですか?」
「かえでが反対したのは、貴様のことを慮ったからだ」
「どういう意味ですか?」
征士郎さんは一呼吸置いて「……かえでは自分の都合で貴様を巻き込むのを良しとしない」と答えてくれた。
「貴様は怯えていた。戦うことを忌避しているように見えた。だから――無理やり仲間にして戦わせたくないのだろう」
「失礼だと思いますけど、あの人はそこまで考えていたんですか?」
「当たり前だ。案外、優しいところもあるのだ」
征士郎さんは「それで、改めて問う」と僕の目を見て言った。
背筋を真っすぐして、僕は問いを待つ。
「俺たちと一緒に戦うか? それとも別の道を歩むか?」
重い問いだった。
この世界に来て初めての選択肢だった。
もし断っても征士郎さんは何も言わないだろう。
引き止めもしないに決まっている。短い付き合いだけどそのくらい分かる。
だって征士郎さんは優しい人だ。こんな見ず知らずな僕に戦い方を教えてくれたんだから。
それに僕はこの世界のことを何も知らない。
おっかない信長や無愛想なかえで、そして目の前の征士郎さんしか知らない。
その中で選べるとしたら――
「一緒に戦います」
「いいのか? つらく厳しい戦いになるぞ」
「はっきり言って戦いたくないです。人を殺すとか考えるだけで怖いです」
それでも、一緒に戦うことを選んだのは。
そうしないと生き残れないと心の奥底で分かっていたからだ。
自分なりに覚悟を決めたんだ。
正直、平和な日本の高校生だった僕がパラレルワールドの戦国時代を生きていくのは難しいだろう。
戦で死ぬこともあるし、ひょんなことで死んでしまうこともありえるだろう。
だけど――そんな僕でも生きたいんだ。
とにかく生きれば、なんとかなるかもしれないと思ったんだ。
「貴様の覚悟、受け取った。これからよろしくな」
征士郎さんは機神を解いた。
僕も念じてみると自然と解けてしまった。
どういう仕組みになっているのか、まるで分からない。
「俺の名は
「よろしくお願いいたします、征士郎さん」
◆◇◆◇
再び広間に移動した僕たち。
信長は上機嫌で、かえでは不機嫌そうだった。
僕はおろおろしていて、征士郎さんは黙ったままだ。
「どうやらてめえの思い違いのようだな、かえで! 博は立派に戦えるじゃあねえか!」
「……ええ。征士郎が手加減したとはいえ、最後は戦えていましたね」
信長に対してトゲのある言い方で肯定するかえで。
うーん、二人の関係は分からないけど、仲が悪いのかな?
「それでだ。今すぐ岡崎城へ向かえと命じたいのだが、もう一人、てめえの陣営に加えてほしい男がいる」
「また厄介者ではないんでしょうね?」
ああ、僕はかえでには厄介者と認識されているんだ。
ちょっと悲しい。
「前田利家だ。あの野郎、追放したのにまだ織田家に未練があるらしくてな。だけどてめえのところに行けと命じたら喜んで仕えるって言ってた」
「ああ。あの方なら大歓迎ですよ。機神遣いですし」
うう。僕のときは反対していたのに……
「おいおい。博よ、そんな顔してんじゃあねえよ。かえではてめえのこと嫌いなわけじゃねえ」
「…………」
「かえで、否定しねえと本気に思えるから」
かえでは溜息をついて、僕に向かって「仕方ないから仲間にしてあげる」と言う。
「少しでも私に不利益なことをしたら殺すから」
「は、はい……」
この人、普通に殺すとか言ってきた……
前途多難だなあと思いつつ、僕はかえでたちの仲間になった。
嬉しいことなのか、それとも大変なことなのか、今はよく分からないけど。
一先ずはなんとかなったと喜んでおこう。
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