第3話征士郎との戦い!
たった三人で三河国という国を取る。
冷静に言葉にしても頭がおかしいとしか思えなかった。
それを知ってか知らずか「てめえらに良い知らせがある!」と自信満々に信長は言う。
「竹千代の馬鹿が死んでしまってな。岡崎城が空になっちまった。もちろん、今川家の城代もいねえ。まあタダで城を貰える好機だったんで、恒興に命じて接収した。そこを拠点にして三河国で暴れてこい」
雑な説明だったが、岡崎城という城を拠点に国を治めろとのことだ。
だけど問題は人数である。とても素人の僕とよく知らない二人が協力していけるとは思えない。
「殿。私と征士郎だけで十分です。こんな弱々しい、頼りない男など無用です」
早速、女の人――かえでが文句を言い出した。
桜色の着物、女性の服を着ていて武将には見えないけど、戦える人なのだろうか。
その疑問を払拭するように「てめえは城主になるんだろうが」と面倒くさそうに信長は言った。
「そいつは機神遣いだ。十分に戦力となる。何が不満なんだ?」
「…………」
「おそらくてめえの仇である信玄は今川家の領土を侵略するだろう。てめえら三人も三河国と遠江国を手中に収めれば、十二分に対抗できる。諏訪の無念を晴らせるんだぜ」
諏訪の無念、という言葉にかえでは顔を歪ませた。
あの夢のとおり、どうやら因縁がありそうだ。
まあ夢が本当ならの話だけど。
「あのう。お殿様?」
「なんだ博」
恐る恐る手を挙げて呼んでみると、案外気さくに答えてくれた。
今の話の流れだと不味い気がするので、何とか望む方向へ持って行く。
「三人で三河国でしたっけ? そんなの無理というか、どうしようもないというか……」
「兵を二千くれてやる。後は三河国で徴兵しろ」
「あはは。兵がいても三人じゃ政治とかできなくないですか……?」
「ならば織田家から文官三十人貸してやる。これでも不足か?」
うわあ。どんどん足元固められている。
信長もすげえ睨んでいる。超怖い。
「ていうかよ、さっき家来になるっつったよな? 命捧げますって誓ったんじゃねえのか? ああん?」
「い、いや。家来になるって言ってないし……命捧げるとか誓ってないし……家来の件は、反射的に言っちゃった……」
「ごちゃごちゃうるせえなあ! ぶっ殺すぞてめえ!」
とうとうキレた信長が刀抜いて僕に迫ってきた。
急いで土下座して「すみませんでした!」と必死に謝る僕。
「家来です! 命捧げます! だから殺さないで!」
「だったらよお! 三河国に行くよなあ!」
「は、はい! 行きます!」
「行きます? ……言葉が違うよなあ!」
「言い直します! 喜んで行かさせていただきます!」
その返事に満足したのか「わかりゃいいんだよ」と刀を納めた信長。
やべえ。反社なんか目じゃねえじゃん……
「てめえも分かっているよな、かえで!」
「だとしても、信用のない人間は使えません。今、この者は命乞いをしました」
かえではあの信長を見たのに、堂々と意見を述べた。
僕にはない度胸だ。まさか命知らずなんだろうか?
「臆病者は何を仕出かすか分かりません。利敵行為あるいは敵に降伏するかもしれません。そんな危うい男を手元におけません」
「ふん。だったらよ。どうすりゃあ信用するんだ?」
信長の問いをかえでが答える前に、さっきまで黙って座っていた征士郎が割り込むように言う。
「……俺と勝負すればいい」
「はあ? 征士郎、あなた何を言っているの?」
「この男が実力を示せば、かえでも文句ないだろう。強ければ利敵行為も敵に降伏もしない」
征士郎は懐から白い玉を取り出した。
この人も機神遣いって奴なのか……?
「貴様の名は?」
「えっと、筑波博、です」
「筑波博、か。勝負を受けるよな?」
受けなかったら殺されそうな雰囲気を醸し出している。
断れそうにない……
「わ、分かりました……」
「いい返事だ……ここでは少し手狭のようだ。場所を移すぞ」
◆◇◆◇
清州城の訓練場にやってきた僕と征士郎。
遠くから不満そうなかえでと面白がっている信長がこちらを見ていた。
……他人事だと思って、のん気なことだ。
「どうした? 機神を起動させろ」
いつまでもそのままでいる僕に不審そうな目線を向ける征士郎。
僕は黒い玉を握ったまま「その、やり方が分からなくて」と素直に言った。
「前のときは必死で、いつの間にかなっていたって感じで……」
「そうか。まずこの『
そう言って白い玉――荒魂というらしい――を握りしめる征士郎。
すると光り輝き、見る見るうちに鎧を纏っていく。
征士郎の鎧は僕と違って純白だった。
機械のような装甲は同じだけど、ところどころデザインが違う。
金色の蛇のような文様が刻まれていて、兜は鬼、いや般若の形を模していた。
関節は特に白く、ところどころ加速できるブースターが付けられていた。
そして手には大太刀を持っていた。刃が広くて一人で持てそうにない重量なのに、軽々と片手で持っている。
「さあ。やってみろ。鎧を纏うように念じるのだ」
「わ、分かりました……」
鎧を纏うイメージ、イメージ……
一心不乱に想像すると、僕の荒魂が反応した。
眩い光に照らされて――機神が起動する。
「うわあああ。本当になれた……」
なれたとは言うものの、一つだけ疑問があった。
征士郎みたいに武器がない。
どうやって戦えばいいんだろう?
「あの、征士郎さん――」
呼びかけた瞬間、大太刀で斬りかかってくる征士郎。
のけ反るように後ろへと転んでしまった――おかげで避けられた。
「な、なにを、なにをするんですか!?」
「もう戦いは始まっている」
「武器もなしに戦えませんよ!?」
「…………」
問答無用とばかりに、征士郎は大太刀を振り回して僕に迫る!
慌てて起き上がって、恥も外聞もなく逃げる僕!
「ひいいい!? なんで、こうなる!?」
「――遅い」
いつの間にか征士郎が背後近くまで来て――大太刀を振るった。
どがん! と鈍い音と鋭い痛み。
僕は五メートルくらい吹き飛んだ。
「ぎゃあああああ! 痛い、痛いよ!」
のたうち回る僕――殺気を感じた。
転がりながらその場から退避する――僕がいた場所を容赦なく刺してくる征士郎。
「どうすればいい!? どうすれば――」
思いついたのは電磁砲を撃つことだった。
だけど撃ち方が分からない。
あれはピンチのときの切り札なのか? だったら今がピンチだよ!
「せめて、僕にも武器が――うん?」
兜の前面に何やら表示された。
読んでみる。
『機体の損傷及び操作者の危険が甚大。回転式連弾銃を使用しますか?』
回転式連弾銃?
よく分からないけど使うに決まっている!
「使うよ! だから――うわあああ!?」
征士郎が間近に迫ってくる。
僕は腕を前に出してストップをかけた――だけど征士郎は止まらない。
もはや絶体絶命だ――
だだだだん! と音がした。
閉じた眼を開ける――征士郎がかなり距離を開けて警戒している。
不思議に思って自分の腕を見る――な、なんだあ!?
いつの間にか僕の右腕が変形して――銃の形になっていた。
細身の長い銃だけど弾倉は大きかった。いくらでも銃弾が発射できそうな気がする。
もしかして、これが回転式連弾銃、つまりガトリングってことか!?
「なかなかやる……咄嗟に武器を『精製』するとはな」
征士郎が大太刀を水平に構える。
ここからが本番ってことか……
尋常じゃない殺気が放たれている。
正直戦うのは怖い。
怪我もしたくないし、死にたくない。
だけど、やらなきゃやられる――
「うううう、行くぞ――」
僕は右腕を構えた。
そして、撃つ覚悟を決めた――
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